クズ王子は、自らの訃報を耳にする
それから数日が経ち――驚くほど平穏な時を過ごしていた。
サファイアが世話する家庭菜園で野菜を収穫したり、鍛冶の体験をしたり、棉糸工房でシャツを手作りしたり、商店で数時間アルバイトしたり。
私が職業体験をしている間、カイは体を鍛えているようだった。ここにいたら安全だと言っても、万が一を考えて気が抜けないと話していた。
メルヴ・イミテーションは村の子ども達に交ざって遊ぶ。実に平和な光景が広がっていた。
獣人やエルフ、ドワーフの子ども達はメルヴ・イミテーションと友達認定してくれたようだ。新たな友達ができたと、メルヴ・イミテーションは嬉しそうにしていた。
あっという間に一ヶ月が経ち、王都へ情報収集に出かけていたドロテーアが朝刊を差し出す。
「何かあったのか?」
「ええ」
報じられていた記事を見てギョッとする。紙面には〝王太子クリストハルト殿下、火事に巻き込まれ、不慮の死を遂げる〟とあった。
火事は故意ではなく偶然で、そのなかに私が迷い込んで亡くなってしまったと書かれている。
「カイが倒した暗殺者が傍にいただろうに、どうして事故という扱いになっているのだ」
「誰かが情報をもみ消したのでしょうね」
遺体は損傷が激しかったが、王太子の身分を示す金の指輪が嵌めてあり、本人で間違いないと報じられていた。
どうやら私達の偽装工作は成功していたようだ。
「死体は問題なかったようだな」
「ええ。偽物の死体は丁重に、大聖堂に安置されていたわ」
「そうか」
明日、私の葬儀を行うらしい。自分の葬式の話を、不思議な気分で耳にしていた。
「一件、王宮内で事件が起きたの」
それは聖女を巻き込んだ、とんでもない事件だった。
「偽物の死体が発見された日、ちょうど聖女が来ていたそうよ。それで国王陛下が、クリストハルト殿下を生き返らせるように懇願したの」
「死んだ者を生き返らせるなど、聖女の奇跡ではなく邪悪な黒魔法ではないか」
「ええ、間違いないわ」
国王陛下は私の死に大変動揺していて、錯乱状態になっていたらしい。周囲の制止を振りきり、聖女マナに命じたようだ。
「深夜に、クリストハルト殿下を生き返らせる儀式を行おうとしたの」
結果は聞かずともわかる。儀式は失敗。国王陛下が望む結果にはならなかった。
激昂した国王陛下は、聖女マナを偽物と糾弾し、国外追放を命じたらしい。
それ以降、彼女は行方不明となっているようだ。
「行方不明といっても、元の世界に戻ったのだろうが」
「ええ」
心配なのは、国王陛下だという。
「国王は意気消沈するあまり、起き上がることもままならないような衰弱状態になって、代わりにフェリクス殿下が政務を執り行っているらしいわ」
新たな第一王位継承式もできないまま、私の葬儀を迎えるようだ。
「ドロテーアよ。現状をどう思う?」
「国王の突然の錯乱と病気は怪しく思ったわ」
「怪しいというのは、国王陛下を邪魔に思う誰かが陰で操っていた、という話か?」
「ええ」
聖女マナも、利用価値を見いだせなかったので追放させたように思える。
「やはり、フェリクスが仕組んだことだったのか――!」
「情報が不十分だから、まだ断言はしないほうがいいわ」
ドロテーアは再び王都に行って、情報収集をするという。
「私も行く」
「そう言うかと思って、こんな品を用意したの」
ドロテーアが差し出したのは、ルビーが填め込まれた美しい細工のコンパクトである。
「これはなんだ?」
「変装用の変身コンパクトと言えばいいのかしら? 死んだはずのクリストハルト殿下が王都に現れたら、大騒ぎになるでしょう?」
「それもそうだな。して、何に変身できるものなのだ?」
「女の子よ」
「は?」
「性転換する魔技巧品なの」
つまり私が使ったら女性になるのか。
なんでも幻術をかけて女性に見せるのではなく、体を完全に変える魔法がかかるらしい。
国家専属魔女に伝わる、七つ道具だという。残りの六つが気になるところだが、それ以上に気になる点があったので質問を投げかける。
「な、なぜわざわざ女性になる必要がある?」
「情報収集はメイドや貴族令嬢になるのがお決まりでしょう?」
「初耳なのだが」
どうやら私は女性になるしかないらしい。どうしてこうなった。




