クズ王子は、後悔する
ドロテーアは水晶を取り出し、何かぶつぶつと呪文を唱える。すると水晶が発光し、文字の羅列が浮かび上がった。
「なんだ、それは?」
「魔女掲示板よ」
魔女のネットワークを用いて、情報交換を行っているらしい。
そこに、私に関連した情報がないか検索したようだ。
「すでに、クリストハルト殿下が行方不明で、大火事が発生している森に出かけた話が出回っているみたい」
「そうか」
なんでも、速報で私の行方不明を知らせる新聞が出回っているらしい。
学園側にジュエルベリー摘みをするため、郊外の森へ出かけることは報告済みだ。そのため、軍などを通して情報が出回っているのかもしれない。
「これが、火事の様子よ」
水晶に映し出されたのは、一面炎の海となった森だった。
見た瞬間、ゾッとしてしまう。
先ほどまで豊かな緑が広がる森だったのに、誰が火を放ったのか。
転移魔法で消えた私とカイを仕留めようと、無差別に火を点けて回ったのだろうが。酷いことをするものだ。
「おそらく、一緒にいたあなたの護衛は生きてはいないでしょうね」
「……」
カイと自らの命を守るためとはいえ、護衛を置いて森からメルヴ・イミテーションのもとへ逃げてしまった。護衛達は逃げずに、燃えさかる森の中で私を捜し回っていただろう。それを思うと、胸がじくりと痛む。
「私は、判断を誤ったのだろうか?」
「どうして?」
「護衛を大勢死なせてしまった上に、貴重な資源であった郊外の森を火事にしてしまった」
「それは、クリストハルト殿下が望んでしたことではないでしょう?」
「しかし、結果的にそれを導いてしまったのは、私という存在だ」
安易な気持ちで、神獣ラクーンと共にジュエルベリー探しに出かけたのが間違いだった。
そもそも、記憶が戻ったときに王位継承権を返上していたら、こんなことにはならなかったのではないか。
突如として、後悔の念に襲われる。
「そうだ! 聖女マナに頼んで〝リセット〟してもらい、ジュエルベリー探しの前までに戻してもらったら、護衛の命が助かるのではないのか?」
「馬鹿なことを言わないでちょうだい!」
ドロテーアは親の敵を見るような目で睨みつつ叫んだ。
「あなたは、護衛の命と引き換えにカイを助けたの! もしもやり直したとしても、似たような襲撃はいつか受けるはず。護衛騎士か、カイか、あなたは命を選ばないといけなかった!」
無力な私では、すべての命を守ることなんてできない。そんなドロテーアの言葉が、胸に突き刺さった。
そうだ、そうだった。私は命に順序をつけて、カイだけを助けた。そんな人間が、護衛騎士の命まで助けられるはずがないのだ。
「私は何回も人生を経験しているはずなのに、驚くほど未熟だ」
「当たり前じゃない。何回十代を繰り返しても、成長なんてできるはずないわ。年齢と立場が、経験というものを作るんだから」
「ああ……」
もう一点、私はドロテーアに指摘される。
「聖女マナの〝リセット〟を頼ったら駄目よ。人生は一度きりなの。世界を滅ぼすような危うい力なんて、信じたら馬鹿を見るわ」
「本当に、その通りだ」
なんて浅薄で甘い考えをしていたのか。私はカイと生き抜くことを決めた。そのためには、犠牲はつきものなのだろう。
「ドロテーアよ、また私が何か間違ったことを言ったら、指摘してほしい」
「それはもちろんよ」
カイ以外に仲間がいて本当によかった。ドロテーアの言っていたとおり、私は経験不足なのだろう。考えも甘いところがある。
その甘さが、カイを死なせることになってしまう可能性だってあるのだ。
これからは考えを引き締めて行動をしなければいけない。
「お喋りはこれくらいにして、移動するわよ」
「移動? どこに行くのだ?」
「最果ての村――移民が暮らす場所よ」
なんでもそこはさまざまな理由で居場所がない者達が暮らす村らしい。
危機を感じた王族が逃げる場所として、魔女が管理しているようだ。
「たぶん、捜索の輪は広がっていくでしょうから、数日は王都にいないほうがいいと思うの」
「そうだな。その最果ての村とやらは、どこにあるのだ?」
ドロテーアは魔法で地図を取り出し、最北端を指し示す。
「極北の土地、〝コンヘラル〟よ」
そこは人類未到の、人が住めるとは思えない極寒の地であった。




