クズ王子は、死体を作る
カイとメルヴ・イミテーションを呼び戻し、今度はこれからについて話す。
「まずは、クリストハルト殿下の死体を偽装したいと言っていたわね」
「ああ、そうだ。可能だろうか」
「まあ、できるけれど」
「材料費と報酬は払う!」
「それはもちろんいただくわ。ただ――」
「ただ?」
「材料を集める覚悟があるのか、聞きたいんだけれど」
「ある!」
「聞く前に言わないほうがいいわよ」
今回用意する死体は、燃えさかる森に放置して焼死を装う。すべて燃えたら大変なので、ある程度原形は残したい。
「それは無理よ。あの火事、けっこう酷い状況で、消すのに数日かかると思うわ」
「そ、そうか」
「ただ、魔法警務官が死体の検死を行うでしょうから、そこで王太子の遺体があると判明する可能性が高いけれど」
「それだと、外見だけでなく、中身までも私と同じになるよう作る必要があるのでは?」
「そうよ。だから、あなたが大変だって言っているの?」
「具体的に、どう大変なのだ?」
魔女ドロテーアは空中に呪文を描き、魔法書を呼び寄せる。それは黒革に赤文字で魔法陣が描かれた、不気味な雰囲気が漂う装丁であった。 人体を作るための一冊なので、ごくごく一般的に流通しているような魔法書ではない。気味悪く感じてしまうのも、無理はないだろう。
「人を作るために必要な材料は、ウンディーネの祝福水にスライム・ゼリィ体、ワイバーンの脂肪に、サラマンダー鉱山の石、蜜クリーム糖、それから魔石を五十個ほど、かしら」
「それをすべて集めるのか?」
「いいえ。これらは私の工房に在庫品があるわ」
「す、すごいな」
なんでも歴代の魔女が、王家の無茶な命令に応えられるよう貯蔵していた品々だという。
「これらの材料で作れるのは、典型的な人間の形。それではダメだということは、わかっているわよね?」
「ああ。魔法警務官が検死したら、私でないとバレるだろう」
「そう。人間のひな形が完成したら、クリストハルト殿下により近い状態までもっていく必要があるの」
そのために、ある材料が必要だという。
「まずひとつめは、体のいたる場所にある体毛」
「体毛、というのは毛髪だけでなく、その、体中すべての部位の毛が必要なのだな」
「そうよ。耳毛に鼻毛、胸毛……まあ、いろいろ」
ドロテーアが材料集めが大変だという理由が、今になって理解できた。
「あとは、体液のすべてを提出してちょうだい」
「体液というのは、血液に唾液」
「あとは言わなくてもわかるわね?」
「……」
「返事は?」
「はい」
額から、ぶわっと汗が滲んできた。果たして、すべて集めることができるのだろうか。
自分の死体を偽装することは大変の一言では済まないようだ。
カイのほうをちらりと見る。体液の下りを聞かされてから、非常に気まずそうにしていた。本当に申し訳なく思う。
「じゃあ、さっさと作るわよ。カイは私を手伝って。メルヴ・イミテーションはクリストハルト殿下の助手をお願い」
『ハーイ!』
ドロテーアは道具一式を、魔法を使って手元に呼び寄せる。そこには毛抜きや消毒したナイフ、素材を保管する試験管などが収められていた。
「いい? あんまり時間はかけないこと。一時間とは言わないけれど、三時間かけたら私が採取しにくるからね」
「わかった。なるべく、早く集めるように努めよう」
そんなわけで、素材集めを開始する。
想像以上に大変な作業だったが、手先が器用なメルヴ・イミテーションのおかげで体毛はすぐに集まった。
体液に関しては、メルヴ・イミテーションは席を外してもらい、なんとか自分で集める。
一時間半ほどで、集めることができた。
地下の実験室に素材を持っていくと、ドロテーアに怒られてしまった。
「遅い!!」
「すまない」
すでに、人体のひな形は完成していた。私と同じ背丈の人型が、魔法陣の上に横たわっている。
他にも材料が必要だったようで、青いガラス玉や鹿の角のような物なども置かれていた。
「素材は――すべて集まったみたいね」
「ああ」
「じゃあ、仕上げをするわよ」
「頼む」
ドロテーアは素材の入った木箱に呪文を描き、何やらぶつぶつと唱えていた。
魔法陣が浮かび上がり、素材がひとつの塊になる。それを、人体のひな形へと挿入していった。
眩い光に包まれ、人型の形が変わっていく。
私と同じ金の髪が生え、瞼には青い瞳が宿る。指先には爪が生え、しなやかな筋肉もつき始めた。
四肢がブルリと震え、魔法陣の光に包まれる。
「できたわ!!」
光が収まったあと、その姿を確認する。
魔法陣の上に、私とそっくりな男が全裸で横たわっていた。
カイが目にも止まらぬ速さで、マントをかけてくれる。
彼女はこれまで見たことがないくらい、赤面していた。
なんというか、そこまで気が回らずに申し訳ないと思った。




