クズ王子は、とんでもない提案をする
カイは片膝を突き、メルヴ・イミテーションの視線に会わせて言葉を交わしている。
メルヴ・イミテーションは一生懸命、身振り、手振りをしつつカイに話しかけていた。
『ト、イウワケデ、メルヴト、クリスハ、友達ニナッタンダヨオ』
「そうだったのですね」
メルヴ・イミテーションは自らが世界樹の模倣的存在であることに加え、私と友達になった経緯などをカイに語って聞かせていた。
『ソレデネ』
メルヴ・イミテーションは両手を背に回し、もじもじしつつ上目遣いでカイを見つめる。
「なんでしょうか?」
『メルヴ、カイトモ、友達ニナリタイノ!』
「私もです」
カイがそう答えるとメルヴ・イミテーションの瞳が輝き、頭上に生える葉っぱが一気に成長した。
元通りになるまで百年はかかると話していたが、まさかメルヴ・イミテーションが喜びを感じることによって急成長したのだろうか?
今のタイミングは、そうとしか思えない。おまけに、花まで咲いていた。
『ウ、嬉シイ!』
メルヴ・イミテーションは私に渡したブローチと同じ物を作っていたようだ。
友達の証だと言って、カイに手渡す。
『コレガアレバ、イツデモココニ、遊ビニ、来ラレルヨ』
「そうなのですね。あの、いただいてもよろしいのですか?」
『モチロン!』
これで、私が連れずとも、カイもここへ転移できるようになった。
ひとまず、互いに危機が訪れたさいには、メルヴ・イミテーションのもとで落ち合おうという話になる。
『友達~、ウレシイナア!』
メルヴ・イミテーションはカイの手を握り、踊り始めた。カイはどうしていいのかわからず、戸惑っている。
視線でこちらに助けを求めたので、歌でも唄ってやればいいと助言した。
カイの意外と上手い歌と、メルヴ・イミテーションの愛らしいダンスで、ほのぼのとした空気に包まれる。
ほっこり――している場合ではなかった。
「カイ、前にも話したが、ここの空間は十五分ほどの滞在で、現実世界で三時間ほどの時間が経過する」
「そ、そうでしたね!」
メルヴ・イミテーションとの交流も大事だが、今はそれ以上に大事なことがあった。
「すまない、メルヴ・イミテーション。私達はここに来て、どれくらいの時間が経っているだろうか?」
もしかしたら、長い時間気を失っていた可能性がある。恐る恐ると、質問を投げかけた。
『エットネエ、三十分クライ、カナ』
「そうか」
やはり、しばし意識を失っていたようだ。
三十分経過しているということは、現実世界では六時間ほど経ったということになる。
私が行方不明となっているので、騒ぎになっているに違いない。
現場に残した護衛の騎士達は無事だろうか?
暗殺集団の戦闘能力はとんでもないものだったし、鎧を貫通する謎のナイフを持っていた。
どこからともなく現れたというのも、謎が深まる。
「カイ、私は謎の暗殺集団の襲撃を受けた。どう思う?」
「わかりません。しかしながら、クリストハルト殿下を森へ誘った神獣ラクーンが怪しいと思ってしまいました」
「そうだな」
一応、神獣ラクーンは私を裏切らないよう契約を交わした。しかしながら、相手は未知なる神獣である。もしかしたら、人間と交わした契約など無効にできる能力を持っているのかもしれない。
「あまり考えたくなかったのだが、フェリクスが怪しいのではないかと考えている」
神獣ラクーンと聞いてまず思いついたのは、フェリクスだった。
彼は神獣ラクーンと何かしらの繋がりがあった。ふたりが結託して今回の暗殺を画策したとしたら――?
ゾッとしてしまう。
「私が死ねば、王位継承権はフェリクスに移る。それゆえに、暗殺を計画したのかもしれない」
「しかし、フェリクス殿下はクリストハルト殿下を心酔しているように見えたのですが」
「その辺は、演技力でどうにかできるかもしれないだろうが」
「それはそうかもしれませんが……」
フェリクスはカイを嫌い、高圧的な態度に出ていた。終わってしまった世界では、そのような言動など取っていなかったのに。今回だけ、なぜかカイを目の敵にしていたのだ。
「もしかしたら、優秀な護衛騎士であるお前を、私から遠ざけようとしていたのか」
「いえ、それは私が至らないので、ご指摘されていただけでは?」
シーンと静まり返る。カイは小首を傾げ、私を見つめていた。
「カイ、お前、妙にフェリクスの肩を持つな」
「そういうわけではありません。私が感じた印象を語っただけです」
「うーむ」
現状、命を狙う犯人はフェリクスしか思いつかない。
ここでひとつ、大胆な作戦に出てみようかと、カイに提案してみる。
「よし、カイ。思いついたぞ。私は襲撃で死んだことにしよう」
「はい?」
私の死を偽装し、周囲の反応を探る。
これしかないと思った。




