クズ王子は、弟王子と話をする
「耳に痛い話かと思うが、しばし聞いてほしい」
「はい」
にこやかに話をしていたフェリクスだったが、私の一言により表情が引き締まる。
「今日呼び出したのは、アウグスタの件だ」
「彼女がどうかしたのですか?」
なんでも、フェリクスはアウグスタを見舞いに行こうと、何度か手紙を送ったらしい。けれども、侍女が書いたであろう面会謝絶を知らせる返信があるばかりだったという。
「聖獣が弱体化し、落ち込んでいたアウグスタを励ませたらと思っていたのですが」
「その聖獣の弱体化だが、フェリクス、お前が原因だ」
「なっ――!」
フェリクスはまさか自分が原因だとは思っていなかったのだろう。目を大きく見開いていた。誰にも言うつもりはなかったものの、今回ばかりは仕方がない。
彼が何を考えているのかはわからないものの、しっかり反省してもらう。
「フェリクス、お前はアウグスタに気があると話していたな? そして私との婚約を破棄させ、想いを伝えると」
「え、ええ」
フェリクスは私が知らないところで、アウグスタを口説いていたのだろう。
最近心を入れ替えた私と異なり、フェリクスは最初から品行方正かつ真面目で勤勉だった。アウグスタが理想とする男だったのかもしれない。
だから、強く惹かれてしまった。醜い嫉妬心を抱いてしまうほどに。
「同じように、お前は聖女マナを口説いていたな?」
「それは――はい。認めます」
「なぜ、アウグスタに心を寄せておきながら、聖女マナにも同じような行為を働いたのだ?」
フェリクスは俯き、消え入りそうな声で説明する。
「聖女の存在は、国にとって重要です。彼女が私に好意を寄せているように思えたので、引き留めておかなくてはと判断しました」
フェリクスの行動は間違いではないのかもしれない。たしかに、聖女マナの好意が向いている以上は、言い方が悪いが利用するために気を引く必要がある。
フェリクスにとっての本命はアウグスタで、聖女マナは政治面で必要な存在。そのふたりの気持ちを同時に手中に収めようとした結果、起こった事件だったのだろう。
「アウグスタはお前と聖女マナの仲むつまじい様子を見て、深く嫉妬した。聖獣に復讐を命じた結果、聖獣の魂が穢れて弱ってしまったのだ」
「そ、そんな……!! 私のせいで、そのようなことが……」
フェリクスの反応は演技には見えない。以前、神獣ラクーンの『二兎追うものは一兎をも得ず、なんて言葉もあるんですよ』という発言に対し、自信ありげな様子で「上手くやってみせる」と宣言していた彼と同一人物にはとても思えなかった。
フェリクスは何をしたかったのか。ここで聞くべきなのか迷う。
「私は、焦っていたのかもしれません」
「何を焦っていたのだ?」
「実は――聖女マナは国で一、二を争う進学校に通っているようで、なかなかこちらに来られないとおっしゃっていたのです。将来、政治家になりたいとかで」
「な、なんだと!?」
これまで聖女マナが勉強に打ち込み、政治家になりたいだなんて話など聞いたことがなかった。
崩壊してしまった世界では、毎日こちらへやってきていたのだが……。
私やフェリクスだけでなく、聖女マナにも変化が起こっているというのか。
「聖女マナがめったに現れないので、アウグスタにする以上に親密な態度を見せてしまったのかもしれません」
「そうか……」
これは、私のせいでもある。
アウグスタとの仲を反対せず、聖女マナをフェリクスに押しつけていた。
「私も反省しておこう。フェリクス、すまなかった」
「いいえ。兄上様は悪くありません。私の考えや態度が浅く、酷く浮ついていただけで」
「いいや、お前だけのせいではないだろう」
ここから先の話が非常に言いにくくなってしまった。けれども、仕方がない。
「フェリクス、すまないが、しばし魔法学校を休学していただけないだろうか?」
「それは、アウグスタのためでしょうか?」
「そうだ」
フェリクスが聡い者で助かった。休学と聞いて、すぐにピンときたようだ。
「ここにいたら、聖女マナと私の様子をアウグスタに晒してしまうことになるので、よい考えだと思います」
「入学したばかりなのに、申し訳ないのだが」
「いいえ。そもそも、魔力値が少ない私が魔法学校に通う意味は、あまりなかったので」
「そんなことはないと思うのだが……」
ひとまず、魔法について勉強したいのであれば、家庭学習用の教師を紹介する。アウグスタが卒業したあとであれば、いつでも復学できるように手配をしておくことを伝えた。
「兄上様、ご迷惑をおかけします」
「いや、私のほうこそ、迷惑をかけた」
「とんでもない話でございます」
休学についてフェリクスは納得してくれたようなので、ホッと胸をなで下ろす。
ただ、神獣ラクーンとの関係や発言の本意までは聞き出せなかった。




