クズ王子は、友を得る
世界樹の葉の代わりに何か返せたらいいと思ったが、現状、メルヴ・イミテーションに渡せる品などなかった。
「その、世界樹の葉と引き換えに、何か私もあげられたらよかったのだが」
『ダッタラ、オ友達ニ、ナッテ、クレル?』
「私と友達に、だと!?」
『ソウ』
あまりにも純粋で、ほのぼのとした願いであった。もちろん、断る理由などない。
『ワーイ! アリガトネエ』
友達になった印にと、メルヴ・イミテーションは木彫りの葉っぱブローチをどこからともなく取り出す。
『コレガアッタラ、イツデモココニ、転移デキルヨ!』
「なっ!?」
あの大森林を通ることなく、直接やってこられるという、とんでもない品を私に託してくれるようだ。
「貴重な品なのではないのか?」
『オ友達ダカラ、イインダヨ~』
メルヴ・イミテーションに差し出されたそれを、手のひらに受け取った。
近くで見ると、なんとも歪な形の葉っぱであった。メルヴ・イミテーションの手作りだという。
『木ヲ削ッテ~、葉ッパノ汁ヲ、塗ッタンダヨ』
「よくできている。素朴な仕上がりだ」
『デショウ?』
苦労して作ったのだろう。私に報告してくるメルヴ・イミテーションの表情は、清々しいものであった。
「これがあったら、いつでも遊びにこられるな」
『エヘヘ~。楽シミニ、シテイルネ!』
胸に近づけると、ブローチは金具がなくとも密着した。何か魔法がかけられているのだろう。
「メルヴ・イミテーション、ありがとう。気に入った」
『ヨカッター!』
小躍りして喜ぶメルヴ・イミテーションを愛らしく思い、抱きしめてしまった。嫌がられるかもと思ったが、枝のような細い手で抱き返してくれる。
離れたあと、疑問に思っていることを投げかけてみた。
「ここは、国王と王太子である私しか入れない空間のようだが、何か理由があるのか?」
『ワカラナイ』
どうやら結界は、メルヴ・イミテーションが施したものではないらしい。
いったい誰が……というのは神のみぞ知ることなのだろう。
「ひとつ質問したいのだが。ここの空間に、私の親友であるカイを呼ぶことも可能だろうか?」
『ウン、イイヨー!』
あっさり快諾してくれた。なんでも、私の親友はメルヴ・イミテーションの親友でもあるらしい。なんとも単純明快な理由であった。
「メルヴ・イミテーション、感謝する」
『コッチコソ、遊ビニ来テクレテ、アリガトウネエ』
目的は世界樹の葉であったが、いつの間にか遊びに来たことになっていた。
メルヴ・イミテーションと話していると、ささくれていた心が不思議と癒やされる。カイもきっと、心を許してくれるだろう。
メルヴ・イミテーションがいる周囲に結界をかけて、保護しようとした術者の気持ちをなんとなく理解してしまった。
「では、メルヴ・イミテーションよ。また遊びに来る」
『ウン!!』
メルヴ・イミテーションはぶんぶんと手を振り、見送ってくれた。
皆のもとへ戻ると、ゴッガルドから熱烈な抱擁を受ける。
「クリストハルト君、よかったわ! 心配していたの!」
「たかが十五分程度だろう。大げさだな」
「え?」
ゴッガルドが私から離れて、信じがたいという表情で見つめる。
「十五分? クリストハルト君の体感では、それくらいだったの?」
「そうだが、お前達は違うのか?」
ゴッガルドは何も答えず、懐から取り出した懐中時計を差し出す。爪先で蓋を弾くと、時計の針はとんでもない数字を示していた。
「なっ……!? さ、三時間も経っていたのか?」
「ええ」
驚いた。メルヴ・イミテーションがいた空間は大森林とは別次元だったようだ。
ならばなぜ、崩壊した世界で大森林が燃やされたのと同時に、世界樹をも焼き尽くしてしまったのか。
わからない。
ただ、大森林は世界樹の魔力を受けて、植物が巨大化していたり、魔物が凶暴化したりしている。何かしら、互いに影響し合う仕組みがあるのだろう。
ひとまず、メルヴ・イミテーションのもとへ行くときには、時間の経過に気を付ける必要がありそうだ。
カイのほうを見ると、明らかに安堵した空気が伝わってくる。板金鎧で全身覆われているものの、カイの様子を見るだけで何を考えているのかわかるのだ。
「それはそうと、世界樹の葉が入手できたから戻ろう。早くても、五時間以上はかかるだろうから、のんびりしている暇は――」
「あるわよ」
答えたのはドロテーアである。どういうことなのか、確認する暇もなく景色がガラリと変わった。着地したのは、聖獣が横たわる地下部屋。
「て、転移魔法か!?」
「ええ、そうよ」
なんでもすぐに帰ってこられるように、転移魔法を展開していたらしい。
私達が突然現れたので、聖獣の看病をしていたアウグスタや侍女らを驚かせてしまった。一度「すまない」と謝っておく。
「それはそうとドロテーア、お前、転移魔法が使えるのか!?」
「いいえ、使えないわ。これは魔法巻物を使ったのよ」
ドロテーアが使ったように見えた転移魔法は、一瞬で魔法の展開ができる魔法巻物の効果だったようだ。魔法巻物というのはあらかじめ魔法の紙に魔法陣と呪文を描き、破った瞬間に効果が出る代物である。彼女自身が転移魔法を使えたわけではないようだ。
ゴッガルドがパンパンと手を叩き、「お喋りはいいから、聖獣様の治療を行うわよ!」と叫ぶ。私は世界樹の葉をゴッガルドへと託した。
「これが、世界樹の葉なのね。思っていたよりも、大きいわ」
メルヴ・イミテーションの頭上に一枚だけ生えていた大変貴重な葉だ。
一瞬病気を患う王妃殿下の顔がよぎったものの、今は聖獣を治すのが先決だろう。
ゴッガルドは世界樹の葉を巻物のようにくるくる丸め、聖獣の嘴へ突っ込んだ。
すると――




