クズ王子は、最低最悪の敵と戦う
それからさらに三時間歩いた先で、とんでもない魔物と遭遇する。それは突然、なんの脈絡もなく現れた。
宙をぷかぷか浮かぶ巨大な瞳の魔物――まるで眼球をくり抜いたかのような不気味な姿に、全身に悪寒が走った。
「目を見てはダメ!!」
ドロテーアが鋭く叫んだ。
そこで思い出す。あの魔物は、『ゲイズ』だと。
ゲイズは殺された竜の瞳だという伝承もある。竜は瞳に魔力が集中しており、邪悪な気に触れたことによって魔物化するのだろう。
その瞳を見たら最後。石化したり、動けなくなったり、最悪呼吸が止まったりする。目と目が合っただけで呪われる邪眼の持ち主だったのだ。
ドロテーアが革袋を投げつけてきた。その中には、さまざまな魔法薬が入っていた。
「念のため、あなたに預けておくわ。何かあったときは、お願い」
「わかった」
ゴッガルドがその辺で集めた、刃のように鋭い葉をゲイズの目をめがけて投げる。けれども、ひらりと軽やかに回避していた。
「案外素早い奴なのだな」
ドロテーアが放った炎も魔法で防壁のようなものを展開し、防いでしまった。
「あれと、どう戦えばいいのか……!」
その疑問に答えたのは、カイである。
「目を閉じて戦ったら、呪いは受けません」
「は!?」
「あら、その手があったわね」
カイは兜を被っているのでわからなかったが、ゴッガルドは目を閉じてそのままゲイズのいる方向へと走っていった。
おそらく、気配のみを感じて戦っているのだろう。
なんて無茶な戦い方なのか。
カイやゴッガルドが接近すると、ゲイズは高く飛びあがって攻撃を回避する。
そして、上空で何やら魔法陣が浮かんだ。
「上からの魔法攻撃だ!」
光線の雨が、地上に降り注ぐ。カイとゴッガルドは目を開いて、回避したようだ。
「魔法も攻撃もかわされるなんて、最悪だわ」
ドロテーアは悔しそうにしていた。
何か、何か攻撃手段があるはずなのだが……。
「――っ!」
ふと、視界の隅に無駄に派手な杖、プリンセス・ラブリー・ロッドが目に付く。
たしかこの杖には、魔法が付与されていた。
「メテオ・スター」
それは上空から石つぶてをぶつける魔法であった。
その呟きに、ドロテーアが反応する。
「それよ!」
ゲイズが浮上するよりもさらに上から石つぶてを振らせたら、ダメージを与えることができるだろう。
呪文や動作が恥ずかしいとか言っている場合ではなかった。
ゲイズの呪いを受けたら、一巻の終わりだから。
即座に腹をくくった。ゴッガルドに教わった動作で、魔法を展開させる。
プリンセス・ラブリー・ロッドをくるくる回し、呪文を口にした。
「キラキラのお星様、あたしの願いを叶えて! 〝プリンセス・ラブリー・ショット〟!」
杖を前に突き出し、空いた手は胸元へと添える。
一語一句、一挙手一投足、間違いのないよう魔法を展開させた。
ゲイズの上部に魔法陣が展開し、石つぶてが襲う。けれども、素早い動きで回避されてしまった。
すぐさまドロテーアが助言する。
「地上に降りてきているときはダメよ。宙に浮いて、光線を放つときがいいわ」
「わかった」
死ぬほど恥ずかしい魔法を、もう一度使わなければならないようだ。
カイやゴッガルドが動く。
ゲイズに呪われないよう、目を閉じて戦っているのだろう。命がけの戦闘だ。
カイが致命傷となるであろう一撃を放とうとしたら、ゲイズは大きな身体を宙に浮かせる。
そして、光線を降らせるために、魔法を展開させていた。
チャンスは今だろう。再び私は、メテオ・スターを放つ。
「キラキラのお星様、あたしの願いを叶えて! 〝プリンセス・ラブリー・ショット〟!」
こうなったらヤケクソだ。確実にダメージを与えるため、何度もメテオ・スターを展開させる。
大雨のように、ゲイズに石つぶてが降り注ぐ。浮遊状態を保てず、地に落ちていった。
すかさず、カイが剣で両断した。
ゲイズは息絶える。
「や、やったか?」
「ええ、あなたの護衛騎士が倒したわよ」
「よかった」
膝の力が抜けて、その場に頽れてしまう。
ゴッガルドが駆け寄って、支えてくれた。カイもあとからやってくる。
「クリストハルト君、よく気づいてくれたわ」
「クリストハルト殿下のおかげで、勝てました」
「そうか」
私は大きなものを失ったように思えてならないのだが……。
ひとまず、ゲイズを倒せて安堵した。
「こうしている時間ももったいない」
公爵邸では、聖獣が虫の息なのだ。一刻も早く、世界樹の葉を持ち帰る必要がある。
「魔女ドロテーアよ、どれくらいで世界樹のもとへ辿り着く?」
「たぶんだけれど、あと一時間もしないうちに着くはず」
「わかった」
なんでも、空気中の魔力濃度が高まっているらしい。世界樹が至近距離にある証拠だという。
「行こう、世界樹のもとへ」




