クズ王子は、保健医に相談を持ちかける
聖獣について、つい先日調べたばかりだった。
図書室にはなかったので、王宮図書館の中でも国王陛下の一親等にのみ許可されている禁書を読みあさった。
神話時代まで遡って聖獣関連の関連書籍を読みあさったものの、よくわからないの一言だった。
聖獣は神より遣わされた奇跡の生き物である。ただ、神獣との違いは謎だ。
当時、神獣ラクーンに聞いてみたものの『よくわからないですねえ』と返されるばかりであった。
情報に関して特に収穫がない中での、弱体化の報告である。主人の負の感情が原因で力が弱まるなど、どの書物にも書かれていなかった。
それに、これまでの終わってしまった世界で、魔法学校に通っている間に聖獣が弱体化したことなど一度もない。これは、聖女マナがやってきた影響なのだろうか。
隣を歩くアウグスタは足元がおぼつかず、今にも倒れてしまいそうなほど顔色が悪かった。自らを責め、今は気力だけで歩いているような状態なのかもしれない。
「アウグスタ、保健室まで運んでやる」
「え!?」
突然倒れられたら困る。そう思い、問答無用で抱き上げた。横抱きにし、そのまま廊下を突き進んでいく。
ゴッガルドとの筋肉トレーニングの効果なのか。アウグスタを抱き上げて歩いても、以前のように息切れは起きない。
早起きと過酷なトレーニング、まずいプロテインを飲む生活は辛いものだったが、今、こうしてアウグスタを助けられた。すべては無駄ではなかったのだ。
放課後、保健室の主であるゴッガルドは暇そうにしていた。テスト期間なので、放課後のサロンの活動は禁じられている。そのため、怪我人が運ばれてくることはないのだ。
「まあ! どうしたの?」
「たぶん貧血だ。個室にいいか?」
「もちろんよ」
寝台に寝かせたアウグスタは、ぐったりしていた。よくよく見たら、目元に濃い隈が浮かんでいて、目も少々血走っているように思えた。
「あらあら、寝不足かしら?」
「え、ええ。なんだか眠れなくて」
「睡眠不足はお肌の調子を狂わせるのよ」
「ごめんなさい」
「まあ! 弱々しく謝るなんて、あなたらしくない」
「本当に、わたくしも、そう思います」
ゴッガルドはアウグスタに回復魔法を施した。すると、顔色がよくなる。
ただ、表情は暗いまま。
「回復魔法はケガみたいな外傷を治すのは得意だけれど、精神を癒やすことはできないわ」
そうなのだ。自身が抱える悩みは、他の方法で解決する他ない。
ゴッガルドは突然私の肩を抱き、傍に引き寄せる。アウグスタには聞こえないよう、小声で問いかけてきた。
「クリストハルト君、もしかして、アウグスタとの婚約関係を解消しようとか、言ったんじゃないよね?」
ゴッガルドは目ざとく、アウグスタがいつも嵌めている婚約指輪がないことに気づいたようだ。さすがとしか言いようがない。
「違う。婚約破棄を言い渡してきたのは、私ではなくアウグスタのほうだ」
「な、なんですって!?」
ヒソヒソ話をするほどの距離で叫ばないでほしい。耳がキーンと悲鳴をあげていた。
「アウグスタ、ゴッガルドに説明するが、いいな?」
「ええ」
これまでのゴッガルドとの付き合いの中で、私は彼が信頼に値する人物だと判断した。おそらく、私達の助けになってくれるだろう。
「――というわけで、聖獣が弱体化した」
「そうだったの」
驚いた様子はない。なんでも結界を聖獣に頼るだけの暮らしは、いつか崩壊すると予想していたようだ。
何かいい案はないかと聞いてみたものの、ゴッガルドは険しい表情のまま。
「もしかしたら、クリストハルト君の回復魔法で状態がよくなるかも?」
「そのように都合のいい話があるわけないだろうが」
「でも、神学校に通わないで回復魔法が使えるなんて、奇跡みたいな話なのよ」
「それはそうかもしれないが、私の回復魔法は一般的な神父よりも少し優れているだけに過ぎない。聖獣に効果があるとは思えない」
ゴッガルドがいつまで経っても筋肉トレーニングしかしないので、いつ回復魔法の特訓をするのかと疑問を投げかけたことがあった。
そこで、思いがけない回答を耳にする。
通常、攻撃系の魔法は補助となる杖を使ったり、魔法が付与された魔技巧品を装備したり、呪文を長くして効果を上乗せさせたりと、威力を上げる方法はいくらでもある。
一方で、回復魔法はいくらいい杖を持っていても、祝福が付与された魔技巧品を装備していても、呪文を長くしても、回復量は変わらない。
回復魔法は神より与えられた奇跡の力である。生まれ持って授けられた以上の回復量は望めないようだ。
そのため、ゴッガルドが私に教えられることといえば、筋肉トレーニングだけなのだという。まあそれも、役に立っているわけだが。プロテインの効果もあるように思える。カイとの身長差が、開きつつあるのだ。筋肉も、ほどほどに付いている。生まれて初めて、腹が割れつつあるのだ。
「まあでも、試してみるのはいいと思うわ。アウグスタ、今から聖獣に会いに行ってもいい?」
「ええ、お願いいたします」
そんなわけでアウグスタの聖獣リリーの治療を行うため、ヴェルテンベルク公爵家に向かうこととなった。
アウグスタは歩けるほど元気になったというが、過保護なゴッガルドは彼女を抱いて歩く。生徒から注目を浴びるので、アウグスタは恥ずかしそうにしていた。




