クズ王子は、味方を増やそうとする
フェリクスについて、今じっくり考えたらおかしいと思う点がいろいろありすぎた。
まず、カイに対する態度。なぜ、あそこまできつく当たっていたのか。これまでの終わってしまった人生では、カイと関わり合いになったことすらなかったのに。
それに、魔法学校に入学してきたのも、理解できない。何が目的だったのか……。
アウグスタに好意を寄せているというのも、また疑問である。
王族や貴族の結婚は政略的な意味合いが強い。結婚していても個人個人の恋愛は自由だと思っているので許可したが、普通、兄の婚約者を奪うような行為を働くだろうか?
おまけに、国王陛下やヴュルテンブルク公爵に婚約解消の許可をもらっているなど、ありえないだろう。
もしも、これまで人生であった死に至る原因が、フェリクスだとしたら……?
私が死んだら、王位継承権第一位はフェリクスとなる。
国王になるため、邪魔な私を排除し続けていた可能性も浮上した。
神獣ラクーンに関しては、よくわからない。
何度も滅んでしまう世界のために、私を抜擢したのは嘘ではないだろう。
ただ、私だけでは心もとないので、フェリクスにも同じように記憶を保持したまま、世界を救うように頼み込んだのか。
「あの、クリストハルト殿下」
「なんだ?」
「この問題は、私達だけで抱えきれるものではないように思うのです」
「それはたしかに」
だから、西方国境に獣人を仲間に引き入れようという話になっていた。視察と慰問が可能となるのはまだ先だ。今は、大人しくしている他ない。
「武力ももちろん大事ですが、ある程度権力のある大人の意見も、聞いたほうがいいと思いまして」
「それはそうだな」
ただ、カイのように私を信じ、忠誠心を示してくれる大人などいないだろう。
「あの、フレーミヒ先生はいかがでしょうか?」
「ん、ゴッガルドか?」
「はい。フレーミヒ先生はその、秘密は守ってくれますし、仮に間違った道を選択しようとしたら、正しい道へ導いてくれる気がするのです」
「ふーむ」
ゴッガルド・フォン・フレーミヒ――王家傍系の貴族で、遠くもないが近くもない親戚筋に当たる。
その昔は王位継承権も所持していたものの、十年以上前に返上。今は魔法学校の保健医として、あくせくと働いている変わり者だ。
昔から何を考えているのかわからない男で、国王陛下も信用していないように見えた。
ただ、ゴッガルドはカイが女性であることを知る唯一の教師で、先ほど言っていたように秘密は守っていた。
だからと言って信用できるかは――今判断できるものではない。
「クリストハルト殿下の回復魔法も、フレーミヒ先生に師事していただけると思うのですが」
「ああ、なるほど。ゴッガルドは回復魔法の名手でもあったな」
ゴッガルドは十歳の頃から神学校に入学し、回復魔法と医学を専門的に学んでいる。そのあと聖教会に所属し神父になる道は選ばず、魔法学校の保健医になるという変わった経歴の持ち主でもあった。
カイの言うとおり、どこの誰かわからない教師を雇うよりも、ゴッガルドに習ったほうがいいのだろう。
「わかった。では、ゴッガルドに回復魔法の師事を頼み込み、そこで信頼できると判断した場合は、味方になってもらおう」
そんなわけで、ゴッガルドに回復魔法を教えてくれないかと頭を下げる。
「あらあら、天下の王太子殿下であろう御方が、あたしみたいな生き物につむじを見せてくれるなんて!」
「おい、ふざけるな。私は真面目に頼み込んでいる」
「ええ、そうよね。ごめんなさい」
一筋縄ではいかない男だ。私が王太子だからという理由では、受け入れてくれないだろう。
「クリストハルト君、どうして、回復魔法を極めようと思ったの?」
「それは――」
これまで私は幾度となく、カイの死にざまを見てきた。息も絶え絶えだったカイの今際の瞬間、私は手を取って謝ることしかできなかった。
カイのために私ができることは、彼女が戦ってケガを負ったとき、傷を癒やせるようになりたい。それだけである。
「私の身にはさまざまな危険が迫る」
「だったら、襲撃に遭ってケガをしたとき、自分で素早く癒やせるようになるため?」
「いいや、違う。私は、カイが戦って傷ついたとき、誰よりも早く癒やしたい。回復魔法を習いたい理由は、それだけだ」
ゴッガルドは黙り込んでいた。これだけの理由では、師事は頼めないのか。
いったいどんな顔で私を見ているのかと、見上げてみる。すると、号泣しているゴッガルドと目が合った。
「え、なっ、なぜ泣いている!?」
「だって、純粋な愛を、目の当たりにしてしまったから!」
「純粋な愛だと!?」
「ええ。だって、王太子という立場にいるクリストハルト君は、暗殺や襲撃の可能性だってあるのに、回復魔法は護衛騎士であるカイに使いたいって、愛以外の言葉では表せないもの!」
別に、死にゆくカイを二度と見たくないだけで、それ以外の感情はない……と思う。
けれども、私達の関係にゴッガルドは感動しているようだ。それを利用しない手はない。
「ゴッガルド、私だけではない。カイのためにも、回復魔法を教えてくれないだろうか?」
「ええ、わかった。あたしが教えられる可能な限りの技術を、クリストハルト君に伝授するから」
「ありがとう、ゴッガルド」
「こちらこそ、尊い愛を見せてくれて感謝するわ」
「まあ……そうだな」
無事、ゴッガルドの師事を受けることに成功したが、これでよかったのか。それはわからない。けれども、味方を得るための大きな一歩であると信じたい。
「クリストハルト殿下、そろそろルイーズ嬢との約束の時間です」
「面倒だな」
「私ひとりで行きましょうか?」
「いや、同行しよう」
ルイーズが帰ったあとの展開が気になる。
そんなわけで、私は再びカイとルイーズの茶会に付き合うはめとなった。
聖女マナは〝リセット〟でやり直しに成功したのだろう。フェリクスと彼女は現れなかった。アウグスタもまた、やって来ない。
改めて、聖女マナが使う〝リセット〟を恐ろしく思った。




