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ランキングを今朝方確認し唖然としました……驚きの一言です。
こんなにたくさんの方に読んでいただけるとは思ってもみなかったので、本当に恐縮です。
勢いだけの拙い作品を読んでくださり、そして評価やご感想をいただき本当にありがとうございます(;;)
ステイホーム中の皆様の暇つぶしになれますよう、少しでも読みやすく楽しめる作品を目指して頑張ります!
またまた短めですが、夜に投稿する話の前座として楽しんでいただければ幸いです(*^_^*)
煌びやかな王城にある、豪華な部屋にて食事を共にしているのは、この国の第二王子とその婚約者である公爵令嬢。そして、その婚約者の口から第二王子とは違う男の名が呟かれた。
小さくか細い声だったが、静けさが支配する部屋には十分な大きさだったようで、その声は第二王子セドリックの耳にしっかりと入ってしまったのだ。
「ーー僕の聞き間違いかな。今、レイチェルの口から僕の知らない男の名前が聞こえたんだけど……?」
遠くの方に気を飛ばしていた私は、ハッと目の前のセドリックに目を向けた。ショーンのことを思い返していたら、思わず口に出てしまっていた。
目の前のセドリックに軟禁されて、一緒にいる時間が苦痛すぎて考え事をしていたら、つい遠くの方まで遡ってしまった……。
出来るだけ心を落ち着かせて、なんでもないように言い訳を述べた。
「ーー飼っていた、犬の名前ですわ……」
「ーーふぅん……君の家で犬を飼っていたなんて初耳だなぁ。どこかの馬の骨の間違いじゃないのかい?」
「あら、ご自身にやましいことがある方はすぐに人のことも真っ先に疑いますの? 困ったものですわね」
セドリックの鋭い目に内心はハラハラしていた。
絶対にバレない様に平常心を心がけながら、できるだけショーンのことから話題を逸らしてみるが、セドリックは逃がしてくれなさそうだ。
「ーーそうだね、レイチェルの言う通りだよ。常に人のことを疑うことが仕事みたいなものだからね……。で、その犬、今は?」
「もう、居ませんわ……逃がしましたの」
「ーー可愛がっていたんじゃなかったのかい?」
「えぇ……とても」
片眉をつり上げて、分からないといった態度を示すセドリックに笑いがこみ上げた。
婚約者のいる身で、他の女性と逢瀬を交わしていた強欲な男に、私が抱くショーンへの気持ちなんて理解できるはずも無い。
私には決められたシナリオがあるし、この世界がゲームの舞台である以上、それに背くことは出来ないと思う。だからこそ、ショーンとの思い出は誰にも触れられたくない。
これからセドリックに婚約破棄され、市井に下った後、誰かと結ばれるにしても、ショーンと過ごした日々は美しい初恋の思い出として胸に秘めておきたい。
私は公爵家令嬢として叩き込まれた完璧な笑顔を張りつけ、セドリックの疑問に答えた。
「私なりの、愛……ですわ」
セドリックは私の言葉に少し驚いたようだ。こんな陰気な令嬢から、愛なんて言葉が出たら、この食えない男も驚いてしまうらしい。
「ーー愛……ね」
「えぇ。ときにはわざと手放すのも愛ですわ、殿下」
私はセドリックに意味ありげに笑って見せた。
ゲームでの設定抜きにして、この世界のレイチェルとして語らせてもらうと、セドリックのエレーナへの振る舞いは愛というにはあまりにも幼稚でエゴイスティックだと思う。
セドリックが本当にエレーナを愛していて、彼女を幸せにしたいのであれば、少なくとも婚約者の居る身分のまま学園に通いながら手を出すのは悪手だ。それも学園の目立つ場所で逢瀬を重ねれば、うわさ話好きの貴族にとっては美味しいかっこうの餌にしかならないし、学園でのエレーナの立場は良いものにはならないだろう。
この時点でセドリックは、エレーナのことよりも自分の気持ちを優先し行動していることになり、彼女のことを深く考えていないことになる。
彼女のことを愛しているのであれば、他にもっとやりようはあったはずだ。
そんなことも考えられない程、燃え上がってしまったなんて言い訳は、帝国の第二王子としてあまりにも情けないし陳腐だ。
この国と国民を導き守っていく者が、己自身をコントロールできないなんて、この国の行く末が心配になる。
ーーまぁ、そんなイケナイ関係だからこそ燃え上がるといった話も前世では周知の事実だったし、プレイヤーをドキドキさせるスパイスなんだろう。
そんなことをつらつらと考えながら、目の前の料理を食べ進める。
今後は、目の前のセドリックに決してショーンのことを悟られないように気をつけよう……。
理由は分からないが、私のことを軟禁するような王子だ。ショーンのことを知られたら、ショーンが何かされるかもしれない……。
ーーそれだけは絶対に避けなくては……。
私は、ショーンと食べた様々な料理を思い出しながら、口の中のものを咀嚼した。




