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スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨  作者: 小倉ひろあき


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78話 終わらぬ襲撃

 それから、1年弱。

 スケサンの予想は当たり、人間の進出は続いた。


 本当に人間の数と欲には限りがない。

 彼らは見えるもの全てを征服したいのだろう。


 いつの間にかメナンドローポリ(人間の前線基地の名前らしい)には人間どもが拠点を再建してしまった。

 もちろん、俺たちも2度ほど襲撃をしたが……遠すぎるし、何度やってもキリがない。

 俺たちにはメナンドローポリは維持できないのだ(スケルトン隊を常駐させる案もあったが、孤立無援では全滅は免れないので却下された)。


 自然、人間が湿地帯に現れることが増えた。


「ベルク様、また移住者です。兄ウシカがビーバー人をつれてきました」

「……やれやれ、また避難者か?」


 ごちゃ混ぜ里とオオカミ人の里を繋ぐ道を拡げていた俺に、コナンが知らせをもたらした。


「分かった。里に戻り話を聞こうか。全く、どれだけやっつけてもキリがないな」

「本当ですよ、彼らが何故ここまで駆り立てられるのか理解ができません」


 俺とコナンは顔を見合わせ、大きなため息をついた。


 先の襲撃より、オオカミ人の里は急速に要塞化が進んでいる。

 河口の両端には、見張り櫓、城壁、堀が備えられ、互いに連携しての防衛が可能だ。

 その見た目から『ガイの両腕』『オオカミの(あぎと)』とも呼ばれ始めたらしい。


 まだ要塞は建築の途中ではあるが、工事の人手としてごちゃ混ぜ里より新しく移住者も募り、里の規模も急拡大している。


 そしてこの堅牢な砦を守るのはオオカミ人の里人と新たな移住者だけではない。

 先ほど話題にあった湿地帯からの避難民も加わっている。


 何度かあった人間の小規模な襲撃も守りを固めたオオカミ人の里は危なげなく撃退した。

 だが、強欲な人間どもはそれでは治まらないようだ。


 彼らは湿地帯への小規模な侵入を繰り返し、周辺を荒らし回っている。

 そして湿地帯を住まいとしていた種族、ビーバー人やカエル人が多数襲撃されたのだ。

 多くの財物が奪われ、誘拐の被害も多い。


 家や家族を失い、途方に暮れていた難民がごちゃ混ぜ里に向かったのは必然だろう。

 人間への敵意を燃やす者はオオカミ人の里にとどまり、平穏な暮らしを望む者はごちゃ混ぜ里に逃げ込んでいる……そう、現在進行形の話だ。

 今日のビーバー人はごちゃ混ぜ里に来たのだから移住希望の避難民だろうか。


 ビーバー人は優れた土木技術を持つ種族だ。

 ナマズやコイの養殖を営むカエル人と共に溜め池地区に移住している。

 彼らは湿地帯を住みかとしていただけはあり、一様に泳ぎが得意なのはいうまでもない。


 俺とコナンが急いで里に向かうと、3人のビーバー人が身を寄せ合うようにしながら食事をとっていた。

 女性と子供が2人、恐らくは母子だろう。


「やあ、よく来たな。俺は里長のベルクだ。こっちは色々と世話役のコナン」


 俺が話しかけるや、ビーバー人の母親はひざまづいて「主人をお助けください」と両手を合わせた。

 緊張させないために、穏やかに話しかけたのだが駄目だったようだ。


「まあまあ、落ち着いて事情を教えてください。食事をしながらでいいですよ。もう少し上流の方に溜め池がありましてね、そこにビーバー人は他にもいますよ。安心してください」


 コナンがなだめながらビーバー人を座らせ、事情を聞き始めた。

 普段から里にいる彼は年増女性の扱いが上手い。


 ポツリポツリと話を聞けば、やはり人間の襲撃である。

 このビーバー人の家に人間が押し入り、夫が必死で食い止める間に子供と共に泳いで逃げたのだそうだ。


「そこを我らが見つけ、保護をした」


 兄ウシカが不快げに目を細め「ふー」と鼻から息を吐いた。


 人間たちの暴挙に俺たちも無策ではいられない。

 リザードマン、ビーバー人、カエル人を中心とした迎撃部隊を編成し、哨戒を行っている。

 この迎撃部隊に兄ウシカも参加しているのだ。


 もちろん、リザードマンの大人たちは危ないことをやめさせようと試みた。

 兄ウシカはまだ鱗も固まりきっておらず成体とはいい難い。

 戦う年齢ではないのだ。


 しかし、歩きはじめたころよりスケサンから(ヤーラ)を習ったこともあり兄ウシカは滅法強い。

 やめさせようとした大人をやっつけてしまうのだから半ば特例的に参加した経緯があった。


 だが、この哨戒部隊も上手くいってないのが現状だ。

 会敵できるかは完全に運任せで、成果に乏しい。


「ご主人の探索は続けるよ。だから今はゆっくりと体を休めるといい。コナン、食事後に溜め池地区に案内してくれるか?」

「もちろんですよ、お任せください」


 俺と兄ウシカはビーバー人の母子をコナンに任せ、その場を離れた。

 本来ならばここで女社会のリーダーであるアシュリンに任せるところだが、折悪しく彼女は体調を崩して寝込んでいる。

 今日は休みだ。


「なあ、さっきのビーバー人の家は確認したんだろ? どうだったんだ」


 俺が訊ねると、兄ウシカは不快げに「不首尾だ」と吐き捨てた。


「ビーバー人の家は荒らされていた。争いの跡があり、(むくろ)はなかった」

「そうか、(さら)われたと見るべきか、殺されたと見るべきか……」


 どちらにせよ、ビーバー人の夫は無事ではないだろう。


(なら、せめて妻子は養ってやらねばな)


 俺は兄ウシカを掴み、ノドの下あたりをグリグリと撫でた。

 これはリザードマンの子供がする遊びだ。


 何故かリザードマンはここを触られると極端に嫌がる。

 よく分からないが、堪らなくくすぐったいらしい。


「嫌なものを見て、戦場が嫌になったか?」


 撫でながら訊ねると、兄ウシカは俺の手を払いのけ「童子(わらし)扱いするな」と強がった。


「戦の心得は先生よりも受けている。このくらいは覚悟の上だ」

「そうか、強いな」


 俺たちが並んで歩く先ではスケルトン隊が訓練をしていた。

 急速に増えたスケルトン隊は隊長のスケサン自らが連日の猛特訓を課している、


「槍には技巧はいらぬ! 盾を構え、突け! まだ遅いぞ、速く! もっと鋭くだ!」


 隊に活を入れるスケサンも大柄な人間の骨と体を入れかえ、見違えるほど立派な体格になった。

 いかにも強そうに見える(実際に強いが)。


「なあ、兄ウシカもさっきのビーバー人の子供たちに優しくしてやってくれよ。柔を教えるのもいいんじゃないか?」

「……承知した。里に来る時は土産を持って顔を見せてみよう」


 それだけを言い残し、兄ウシカは小走りで訓練の輪に混じっていく。

 訓練を見て体を動かしたい気分になったらしい。

 その後ろ姿はまだまだ子供だ。


 嫌なことを忘れたくて体を動かす気持ちは分かる。

 その後、兄ウシカはみっちりとスケサンに鍛えてもらったようだ。




■■■■



ビーバー人


湿地や湿原を好む種族。

全身に毛皮があり、大きく伸びた前歯が特徴的。

潜水が得意で、尻尾を上手く使い意外なほどの速さで水中を進む。

夫婦と子供だけの小さなコロニーを造り、子供が成人するまでは共に過ごす。

ビーバー人は優れた土木技術者であり、本能的に大工仕事などをこなしてしまう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人間は病や絶望があれば雲の子散らすように消えるから例えば腐敗した何かを置きまくって汚染させるとか生きてる人間は腐敗した何かに突っ込んでまた腐敗されるとか
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