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スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨  作者: 小倉ひろあき


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11話 開拓のはじまり

 エルフの里では木材などの建材を収集したが、川を渡らねばならない。

 効率を考えて、川岸に木材や屋根に使う草、壁などの一部に使われていた石などを集積し、少しずつ対岸に運ぶ形となった。

 

「すみません、私がもう少し――」


 片腕が使えないコナンが申しわけなさげにしているが、華奢なエルフにそこまで力仕事をさせようとは思わない。


「かまわん。こうして建材のありかを教えてもらったわけだし、重いものは俺が運べばいい。役割が違うだけだ」


 鬼人の教育では敵を倒すのも、伝令も、留守居が砦を守るのも、等しい武功だと教えられたものだ。

 ならば今回のコナンと俺の働きは同じだろう。


 そう伝えると、コナンはじっとなにかを考えていた。


「どう頑張っても今日中には家は作れん。あるていど運んだら切り上げるか」

「そうですね。幸い雨は降りそうにありませんし、急がなくてもよいでしょう」


 古い家から火種も移し、薪を集める。


「私は建築で使うツタを集めようと思います。本来なら、この木の樹皮を剥いで繊維を編めば縄になるのですが……今回はツタにしましょう」

「わかった。だがスケサンたちが戻るまで作業は進めよう」


 エルフの里から集めた木材を四隅に立て、屋根の部分をツタで固定する。

 2人でやる作業ははかどり、スケサンたちが戻る頃までに1軒目の骨組みまで完成してしまった。

 コナンも右手が上がらないようだが、低い位置で作業する分には問題ないようだ。


「おお、すごいではないか。素晴らしい進捗だ」

「ほんとすね。この分なら明日は屋根の下で寝られそうだ」


 スケサンとバーンが家の骨組みの下で喜んでいる。


「こ、これ。オナガ鳥とウサギ。それとこの幼虫は食べれるから」


 アシュリンがずいっと本日の猟果と、亀の甲羅に山盛りのデカいなにかの幼虫を差し出してきた。グロい。


「なんだこれは、食えるのか?」

「た、食べれる。カミキリムシの幼虫は大きくておいしい」


 ぎこちなく話しかけてきたアシュリンは小枝に幼虫を突き刺し、火から少し遠ざけて並べた。


「は、歯の部分は固いから捨てるといいと思う」

「そうか。ウサギと鳥は4人で分けれるな」


 こんなやりとりをすることしばし、スケサンとバーンがこちらの様子を窺っているのに気がついた。

 たぶん、なんか入れ知恵したみたいだけどスルーしておこう。


「オナガの羽根は矢羽になりますね。ウサギの皮はなめしたいところですが、今回は無理です。家を作ったあとに器を焼く窯を作りましょう」


 変な空気になる前になにかを察したコナンが割って入り、アシュリンがあからさまにホッとした表情を見せた。


「ほう、陶器が焼けるのか?」

「ええ、私ができるのは簡単な素焼きぐらいですけど」


 コナンの言葉に陶器好きのスケサンが反応し「ほうほう」と喜んでいる。


「矢羽が欲しいならお前さんたちが被ってた頭飾りも使うか? あれも鳥の羽根を使ってただろ」

「そうですね……あれも、もはや我々には必要ないものですから」


 バーンが寂しげに笑うが、たぶんこれも祖霊だなんだって彼らの伝統だろう。

 追放された気持ちはわからんでもないが、いまさらどうしようもない話だ。


「この群れは俺たちが初代だ。お前が祖霊とやらになるなら遠慮はいらんだろ? 頭飾りとして使わないなら矢羽にしろ」


 この言葉にバーンが驚いた顔をするが、なにも不思議じゃない。

 ワイルドエルフだって、この世の始まりから森で里を作っていたわけではないだろう。

 なら、俺たちが新たに伝統を始めたって問題はないはずだ。


 そんな話をしながら焼けた幼虫を手に取り眺める。

 見た目は最悪だ。


(どうやって食うんだ?)


 少し躊躇(ちゅうちょ)していると、アシュリンが「こうだ」と大きな口でがぶっと幼虫に食らいついた。

 幼虫の頭部だけ器用に残し、たき火にポイっと放り投げる。

 

「そ、そのままかじって歯の部分だけ捨てる」


 実にワイルドな食べかただ。

 俺は彼女の真似をして幼虫をかじる。


「……うまいな」


 つい、感想が口から漏れた。


 木の香りだろうか、風味はナッツに似ている。

 外側はやや固いが、中はトロッとしており食感も悪くない。

 なにより味だ。コッテリしており、なおかつ穀物のような自然な甘味がある。

 見た目は悪いが……かなりうまい。


「カミキリムシは滅多にないご馳走ですよ。アシュリン様も頑張って探したみたいですね」


 コナンの指摘でアシュリンが口をへの字に曲げてむくれた。


「コナン! 余計なことを言うな。わ、私だって大人げのないことをしたとは、その、思ってるんだ」


 アシュリンは俺の方を見て形のよい眉毛を八の字にしている。

 どうやら彼女は感情を隠そうとしないタイプのようだ。


(まあ、族長の身内だったんだ。ある程度はワガママを許してもらってたんだろうな……)


 俺はアシュリンに「いいさ」と声をかける。

 すると彼女は少し眉を開いた。


「これはバーンもコナンも同様だが、べつに意にそわぬことを無理強いする気はない。嫌なことは嫌だといえばいい」


 俺は少し言葉をため「ただし」とつけ加える。


「全員の不利益になることはダメだ。もちろん俺も、俺のワガママで全員を困らせるようなことはしない。細かなことはその都度(つど)決めればいいさ」


 これを聞いたスケサンが「うーむ」と唸った。


「正直、オヌシはもう少し暴君になると思っていた。許せ」

「なんでだよ。まあ、俺自身が故郷での扱いに不満があって飛び出したからな。他人に同じことはしたくない」


 それを聞いたスケサンは「ほうほう」と喜んでるがめんどくさいのでスルーした。


 それからはウサギと鳥を解体して焼いて食べる。

 今日が不猟なら捕まえてたカメを食べようと思っていたが、今日はまだ大丈夫のようだ。


「慣れてきたら罠猟をして生き血を飲むといいですよ。塩の備蓄がないとき、我々はそうするのです」

「ふーん、塩が足りないときは生き血を飲むのか」


 この森のどこかに塩を産出する地域があり、まれに交易をする民が持ち込むのだとか。

 ワイルドエルフは交易で塩を得ていたらしい。


 リザードマンもそうだが、ほとんど人がいないように見える森にも色々な部族が住んでいるようだ。


 その後、色々な話を聞きながら火のそばで雑魚寝をした。

 エルフたちは俺が古い家で寝ると思っていたらしく軽く驚いていたが、俺だけ特別扱いはおかしいからとそのまま寝た。

 決して空気が読めないからではない。




☆★☆☆




 翌日からも住環境を整えるための行動だ。


 俺は放棄されたエルフの里跡で建材を集め、アシュリンとスケサンは食料集めだ。

 バーンとコナンは家を建てるために忙しく働いている。


 俺やスケサンはまだしも、貧弱なエルフたちを森で単独行動させるのは不安だ。

 結局は不安の少ない俺が単独行動になる。


 なんだかエルフたちがくる前よりぼっち度が上がった気がするが仕方ないだろう。


 何度かエルフの里跡を訪れるうちに、俺にもわかったことがいくつかある。

 住居と思わしき建物の壁は単純に土ではなく、強度を高める工夫があるようだ。


 壁の下部には石垣のように石を積み重ねてあり、柱と柱の間に縄のようなものを渡しているようだ。

 壁土にはなにか草のようなものを混ぜこんである。


(なるほど。コナンが石を集めていたが、こうして使うのか)


 他には屋根が大きいのに壁がない建物もある。

 こちらには破壊された何らかの道具が散見できたので、なにかの作業場なのだろう。

 作業場の遺物もなるべく回収することにした。


 エルフたちの生活は鉄がないだけで想像よりも豊かだったようだ。


 さすがに壁土は嵩張るからやめておくとして、他の建材は多めに持ち帰るように心がけた。


「とりあえず、住居を3軒、作業場を1軒だな。雨が降ってもいいように屋根から作ってしまおう」

「4軒も作るんすか!?」


 拠点に戻った俺が指示すると、バーンが驚いて声を出す。

 コナンは周囲を見渡して「この場所ではギリギリですね」と冷静だ。


「俺とスケサンで1軒、アシュリンで1軒、バーンとコナンで1軒だ」

「わかりました。1軒目は屋根だけ作り、壁は後回しにしましょう」


 コナンはなかなか機転が利くようだ。

 たしかに屋根があれば最低でも雨はしのげる。


「バーン、すぐに残り3軒の四隅を決めよう。木を避けて建てるぞ」

「お、おう。風避けに木は残すんだな?」


 すぐに2人は作業を開始する。

 彼らの方が家作りに知識があるようだ。


 俺は下手に口出しするのをやめ、追加の建材を求めてエルフの里跡に向かうことにした。


 家ができれば動物避けの柵も必要になる。

 まだまだ建材は必要なのだ。




■■■■



カミキリムシの幼虫


美味ではあるが、捕まえるのはなかなか大変。

立木に昆虫が開けた穴がある場合は捕獲のチャンス。

斧などで穴を拡げ、幼虫がいたら指で優しくつまみ上げよう。

食べた人によると「トロに近い」「優しい甘味」 など非常に美味らしい。

1回くらい食べてみたいものである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 幼虫食は気になりますね。サクラケムシも毛をしっかり焼いて炙るとうまいとか
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