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死にたがり屋と女子高生  作者: 夜空 叶ト


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いつか人は大人になる

「ただいま」


「おかえりなさい冬真さん」


 流れ作業のように言った言葉に返答が返ってくる。

 なんだか不思議な気分だ。

 おかえりなんて久しぶりに言われた気がした。


「どしたの? 玄関で立ち止まって」


「あ、いや。何でもない」


 俺の様子を不審に思ったのか秋奈が顔を覗き込んでくる。

 何とも言えない居心地の悪さを感じたので左手に持っていた袋を秋奈に差し出す。


「なにこれ?」


「ケーキ買ってきた。後で食べよう」


「やった! でも、なんでいきなり?」


「秋奈の作った弁当がおいしかったからそのお礼。嫌だったか?」


「ううん。すごくうれしい! でも別にお礼なんかいらないのに」


「いいんだよ。俺が個人的に感謝してるだけだから気にしなくて」


 表情をころころ変える秋奈を見ていると少し気分が楽になる。

 久しぶりに人とかかわって疲れることもあるけど楽しいと感じる時間のほうが多い。

 秋奈には本当に感謝しないといけないな。

 そう思いながら家に入って着替える。

 リビングに出るとそこにはとても美味しそうな食事が用意されていた。


「これはまた、本当にすごいな」


 目の前の食事を見てそうこぼす。

 自分でも語彙力がないと分かっているが目の前のものをすごい以外でどう表現していいのかわからないほどにはすごかった。


「ふふ~ん。今回は時間がたっぷりあったからいろいろ作ってみました!」


 得意げに秋奈は胸を張っていた。

 最初みたいに無理に笑っているような感じはなく本当に自然な笑みで安心する。


(これじゃあ親目線だな)


 自分が秋奈に向けている感情をそう自分で形容しながら笑ってしまう。


「なんで笑うのさ」


「いや、かわいいなって思ってな」


「ついに私の魅力に気づいてしまったか~」


「はいはい。魅力的ですね~。そんなことよりこれ食べてもいいのか?」


 秋奈が魅力的かどうかはおいておいて目の前の食事のほうが気になりすぎてそれどころじゃない。


「めっちゃ適当じゃん。まあいいけどさ。一緒に食べよ」


「ああ! いただきます」


 手を合わせて二人で食べ進める。

 やっぱりこいつが作った料理は今まで食べた物の中で一番おいしいと胸を張って言える。

 絶対にこいつはいい嫁さんになるんだろうな~


「冬真さんってなんの仕事してるの?」


「ん? 普通に不動産の会社だけど」


「なんかイメージと違うかも。不動産って要は接客業でしょ? 冬真さんってなんだか一人でモクモクと作業してるイメージあったから」


「なんかひどくないか?」


 つまり、暗に俺には接客が向いていなさそうといわれているのだろう。

 まあ確かに最近仕事以外では本当に人とかかわっていなかったんだけどさ。


「別に~でも、意外と帰ってくるの早いんだね?もう少し遅いのかと思ってたよ」


 秋奈は夕飯を食べ進めながら疑問を投げかけてきた。

 現在の時刻は午後7時。

 最近の社会人にしては普通な気もしなくはないけどもう一つ理由があるとすれば会社と家の距離が近いということだろうか?


「まあ、会社が近いからな。それに最近は残業とかさせると世間がうるさいからな。結構早めに帰れるんだよ」


 一昔前だったらもっと帰りが遅かったり、残業がひどかったりしたんだろうけどな。

 最近はそんなことをしていたら会社がつぶれる。


「へぇ~社会人も大変だね」


「お前もそろそろ社会人になるんだよ」


「うへぇ~いやだな~」


 苦い顔をしながら秋奈は頭を抱えていた。

 まあ、誰だって社会人にはなりたくはないからな。

 俺もそうだったし。


「まあ、そんなこと言っても勝手に社会人になっちまうんだよ。時間は平等だからな」


「うげ、なんか嫌なこと言うな~」


「俺も昔はお前みたいに思ってたけどもう気が付けば社会人だからな」


 速かったとは思わない。

 でも、長かったとも思わない。

 この数年はあまりにも何もなかった。

 灰色の日常だった。

 だから。記憶は曖昧だし時間が経ったのを早いとも遅いとも感じなかった。


「ぐぬぬ」


 秋奈は頭を抱えながら唸っていた。

 そんなに嫌ななのだろうか?

 まあ、そんなに嫌がっても最終的には誰しもが社会人になってしまうのであきらめてほしい。


「そんなことより今日一日何か変わったことは無かったか?」


「変わったこと? 特になかったと思うけど、しいて言うならこんなに安心して過ごせたのは久しぶりだったことかな?」


「そうか」


 何でもないように秋奈はそういうけど、その感想は今までどんなに酷い環境に身を置いていたのか想像出来てしまってすこし気分が下がる。


「なんでそんなに微妙そうな顔してるの? 嫌なことでもあった?」


「そうじゃない。そういえば秋奈に合鍵って渡してたか?」


「ううん? もらってないけど」


「じゃあ、後で渡す」


 合鍵を渡しておかないと碌に外出なんかできないじゃか。

 失念していた。

 現金もある程度渡しておかないと。


「思うんだけど、冬真さんって私を信用しすぎじゃないの? もし私が冬真さんの家のものを盗って逃げたら~とか考えないの?」


「それならそれでいいと思ってるからな」


 そうなったら俺は本来の目的通り死ぬだけだ。

 どっちみち持っていても腐らせてしまうものばかりだ。

 なら、秋奈が有効活用するほうが幾分かマシだろう。


「冬真さんは何でそんなに! 、、、ごめん何でもない」


 机に両手をついて勢いよく立ち上がって何かを言おうとしていた秋奈は結局何も言わずに口をつぐんでしまった。

 何を言いたかったのかわからないけど、俺がなにか気に障ることを言ってしまっただろうか?


「なんかすまん」


「何に謝ってるのさ。別に冬真さんが悪いわけじゃないから気にしないで私のほうこそごめんなさい」


「いや、謝んなよ。別に気にしちゃいない。」


 その後はどこか少し気まずい空気が流れてまともに会話をせずに夕食の時間が終わった。

 なんで秋奈があんな行動をとったのか俺には終始わからなかった。

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