ハミルトン王国の子供たち
「イザベル!!みんな!!」
私たちは急いでみんなのもとへ駆けつけると、大人が何人かを抱えて出て来たのが目に入ってくる。
良かった……無事救助されたのね。
「オリビア様、ただいま戻りました」
「イザベル、無事で良かったわ!!お疲れ様!」
戻ってきたイザベルを労うと、彼女が中の様子を詳しく話してくれる。
「私たちが入って、割とすぐに3人ほど倒れておりまして……さらに奥に進もうと思ったのですが、かなり落石で崩れておりましたのである程度進んだところで引き返して参りました。申し訳ございません」
「いいのよ、イザベルや皆のおかげで助けられたわ。ありがとう」
「マリア様もありがとうございます。煙を抑えてくださっていたのですよね?」
マリアの方を見ると、少し疲れた顔をしながらも笑顔で「無事で良かった」と言ってくれた。
救出されて寝かされている者たちのところへ行くと、驚きのあまり固まってしまう。
「それにしても倒れていたのって…………子供だったの?入口付近で倒れていたって」
「はい。おそらく爆発で吹き飛ばされた時に意識を失ったのだと思います。少し怪我はしておりますが、すぐに目覚めるかと思います」
「良かった……」
でもここに来た時、みんな避難したって言っていたのに……彼らの事は見捨てて来たっていう事?
こんな風に見殺しに出来るなんて、もしかしたら自国の民ではないのかもしれない。
腹立たしさに駆られてザンダに問いただそうとした瞬間、子供の一人から小さな声が聞こえてくる。
「うっ…………っ……」
皆が駆け寄り、近くに座って声をかけてみた。
「大丈夫?!しっかり……!」
私の呼びかけに反応するかのように、徐々に瞼が開いていき、意識が戻っていく。
色素の薄い髪が無造作に伸びているけれど、顔立ちは綺麗だわ……多分男の子でまつ毛が長い。
そして救出された子供の中では一番大きく、最初は皆10歳くらいかと思ったけれど、この子は少し年上で12歳くらいかもしれない。
様子を見ながらそんな事を考えていると、ハッと目覚めた男の子は突然上体を起こし、周りを見渡して、明らかに警戒するような素振りを見せた。
「ここは……外?それにあんた達は…………」
「お前、口を慎め!この方達は……」
「ザンダ!!口を慎むのはあなたの方よ!」
私は怒りを隠そうとせず、理不尽な態度に思わず大きな声で制した。
大人が沢山いたにも関わらず、誰も彼らを助けようとしなかったくせに……許せないわ。
気まずそうなザンダを無視し、子供の方へ向き直る。
「いいの、気にしないで。あなたが助かって良かったわ。具合が悪いところはない?」
「あんた…………」
その子は私たちの事を見まわし、すぐに険しい目つきに変わっていった。
なぜだか分からないけれど、どうやら敵認定されたって表情ね……でもその理由はすぐに知る事となる。
「なんで……なんで助けた?」
「え?」
「なんで助けたって聞いてる」
なんでって……まさかそんな質問が返ってくると思わず、言葉が出てこない。
この子は死にたかったって事?
「君は……皆が救助に向かっていなければ死んでいたのだぞ。礼の1つでも言うのが礼儀だろう」
ヴィルが私の横から諭すように彼に語りかける。
それはキツい言い方ではないけれど、彼の為に言っているようにも感じた。
でも目の前の男の子は、案の定ヴィルの言葉に反発し、思いもよらない言葉をぶつけてきたのだった。
「あんた達には分からない……助けられたところで一生地獄の日々が続くだけだ。こんな海の向こうの国に連れて来られて逃げ場もない。どうせ生き延びてもまた違う現場に放られ、死ぬまで働くだけなんだから死んだほうがマシなのに……!!」
「連れて来られたって……やっぱりあなたはこの国の民ではないのね?!」
「あんた達貴族がオレらをここに放り込んだくせに、白々しい!!そこまでして労働力を確保したいのか?!」
男の子はどんどん興奮し、毛を逆撫でた猫のように威嚇してくる。
他国からってどこから連れてこられたのかしら……送り返してあげたい。ハミルトン王国の民なら――――
「落ち着け、我々に爪を立てたところで解決にはならない。私はこの国の者ではないからな。連れて来られたというのなら、出身国はどこだ?」
「……隣りの国だよ…………ハミルトン王国」
「……っ! ヴィル!!」
私がヴィルの方を振り返ると、目を細めて喜びを隠しきれない表情をしていた。
「君の名は?」
「レイバン……何でおじさんがオレなんかの名前を聞くの?」
「おじさんではない、お兄さんだ」
「ヴィル!」
ツッコむところはそこじゃないでしょ?!
思わず私の方がツッコんでしまったじゃない……子供より子供みたいな反応をするんだから。
ヴィルの言葉に、レイバンと名乗る男の子は呆れたような表情をしている。
「おじさん……」
イザベルが頬を赤らめて呟く。これは笑いを堪えている表情ね。
そしていつの間にか合流していたゼフに肩をポンとされ、皆に哀れまれてしまうヴィルだった。
「ゴホンッ。ゼフ、我が国から連れて来られた子供たちを見つけた。本国に知らせを飛ばしてくれ」
「承知いたしました」
ヴィルの言葉を聞いたレイバンが遠慮がちにヴィルのそばにやってくる。
そして彼の袖を少し引っ張りながら、小声で疑問を口にした。
「今、我が国からって言った?」
「そうだ。私はハミルトン王国の王太子、隣りにいる女性は私の”婚約者”だ。私はずっと君達を探していた……」
「じゃあ、オレたち、帰れるの……?」
婚約者という言葉を強調したような気がしたけれど、そんな事はどうでも良くて、さっきまで絶望していたレイバンの表情が期待に満ちていく。
「ああ。必ず連れて帰る」
ヴィルの言葉に、レイバンの目から大粒の涙が次々に溢れてくる。
私と同じくらいの背丈の男の子が人目も憚らず大泣きする姿に、私も涙が止まらなくて、一緒になって泣いてしまった。
ヴィルがレイバンの頭をずっと撫でているので、その姿が微笑ましい。
レイバンが落ち着いたところで他の救助された2人についても聞いてみると、皆ハミルトン王国の子供らしいので、レジェク殿下に連れて帰る旨を伝えた。
「彼らは私たちの船で連れて帰ります。よろしいですわね?」
「ええ、もちろんです。謝罪して済む話ではありませんが、彼らの身の保障は私が約束します。そして父上にも悪しき慣習を止めるように進言すると誓います」
「感謝いたしますわ、殿下」
レジェク殿下は憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしている。
今が親離れをする時なのかも……火の神だったり、国王の神格化だったり、問題は山積みだけど、何とかしようとする王族がいるだけでも違ってくるわよね。
殿下が変わっていく事で、人身売買の件も徐々に解決していくといいのだけど。
「さっそくですが明日、陛下とこの件で話がしたいので、会談の場を殿下に取り次いでいただきたい」
「分かりました」
レジェク殿下はヴィルの要求にも言葉を濁す事はなく、すぐに返事をしてくれた。
物凄い変わりようだけど、マリアに詰められて完全に腹が決まったのかもしれない。
陛下との会談にはもちろん帯同させてもらおう。
もうひと頑張りしなくちゃ。
私たちが話している間に救出された二人の子供も目覚めたので、ひとまず現場は駆けつけた衛兵や鉱員たちに任せて、レイバンたちも一緒に水遊びをしていた場所へと戻る事にした。
ソフィアやマリーは馬車の中で待っていてくれたらしく、私の姿を見つけると2人とも走って駆けて来てくれたのだった。
「おかえりなさい!」
「お嬢様、皆様、ご無事で何よりでございます~~!!」
「ソフィア、マリー、ただいま!」
2人の顔を見ると、本当にホッとしてじんわりと目尻に涙が浮かんでしまう。
さっきまでの緊張した状況が嘘のよう……連れて来た子供たちについて説明しながら、馬車の中は若干ぎゅうぎゅうで速度も遅くなったけれど、日が暮れる前には王城に戻る事が出来たので、ホッと胸を撫でおろしたのだった。
~・~・~・~・~
次から王太子Side(二話)に入ります~~^^
まだまだ波瀾万丈なドルレアン国編が続きますが一旦小休止です!
よろしくお願いいたします<(_ _)>
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>






