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続 恋姫†無双 -外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第2部:荊州侵攻
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16

あ~~~仕事忙しくて中々執筆出来なかった……

「ーーささぁげぇぇぇぇぇっつつっ!!」


ーー大通りの両端に整然と並ぶ兵士達が指揮官の号令一下、銃剣を着けた歩兵銃で執銃しつじゅう教練通りに捧げ銃の敬礼を行う。


着剣捧げ銃の号令が下った瞬間、開け放たれた城門の外から信号ラッパで吹奏される速足行進の譜と共に数多の一糸乱れぬ軍靴の足音が響いて来る。


信号ラッパを吹奏する八人の歩兵が二列縦隊の隊形を保ったまま列毎交互に行進の歩調を合わせる速足行進の譜を吹奏しつつ城門を潜り抜けると、その後ろに続いたのは旗手が両手で旗竿を支える黒狼の牙門旗だ。


旗手の周りには牙門旗を護る為に一個小隊65名の歩兵が衛兵として侍っている。


その牙門旗の後に続くのはーーそれぞれの愛馬に跨がった大司馬 韓狼牙と大将軍 呂百鬼である。


部隊に対し着剣捧げ銃の命令を下した指揮官はサーベルで投げ刀の刀礼を和樹達へ捧げつつかしらの鼻先を二人へ向けていた。


刀礼を捧げる黒狼隊時代からの部下、その指揮下で銃礼を捧げる兵士達へ二人は端正な挙手敬礼で答礼する。


荊州を陥落させた彼等は第2連隊を基幹とする呂猛戦闘団を治安維持の為、荊州へ残し、孫呉の首都である揚州は建業に凱旋した。


滞在の期間は三日間。


この三日で和樹と将司は孫呉における全ての権限、そして拝領していた領地の返上を済ませなければならない。


「ーー随分と長く住んでたからかな……去るのが少しばかり寂しく思っちまうよ」


「根無し草だった頃の俺達に少し戻るだけだ。…もっとも郷愁を感じないかと言われたらーー」


彼等の後に続き、第1連隊基幹の韓甲戦闘団が連隊旗を先頭にして追従する。


ふと和樹が視界の端に凱旋の見物に大通りへ集まった民衆の中で自分へ見真似での拙い挙手敬礼を捧げている数人の幼い子供を見付けた。


「……おい」


「ん?……あぁ」


隣で騎乗する相方へ声を掛けると将司も気付いたのか苦笑を溢す。


愛馬の行き足を少し緩めると二人は揃って端正な挙手敬礼を件の子供達へ捧げてみせる。


答礼されたのが意外だったのか子供達は声をあげて燥ぎ始めた。


それへ更に苦笑を溢しつつ彼等は城を目指して歩みを進める。


「ーーやはり郷愁を感じないかと言われたら素直に首は横へ振れんな」









「ーーこの場合って……私が畏まるのが筋なのかしら?」


謁見の間で久々の再会と挨拶もそこそこに雪蓮が疑問を口にした。


「何故?」


「だって和樹は大司馬でしょ?それに将司は大将軍だもん。この中で官位が一番高いじゃない」


「まぁ尤もな話かも知れんが……俺達は今回、孫呉での全権限と拝領した領地の返上、それと暇乞いに来たんだ。現在、キミの前にいるのは孫呉驃騎将軍 韓狼牙と孫呉車騎将軍 呂百鬼だ」


「それ結構、無理矢理じゃない?…まぁ、そういう事にしておきましょうか」


苦笑しつつ雪蓮は改めて玉座へ腰掛けた。


「ーー官位、そして領地の返上に関しては既にこちらで話を進めてるわ。改めて聞くけど二人はそれで問題ないのね?」


彼女からの問い掛けに彼等はしっかり頷いた。


「俺達は漢王朝に傭われ、新しい軍隊を創設する。一度に複数の勢力との契約は宜しくないからな」


「そちらとしてもこちらとしても防諜や指揮系統は、しっかりさせときたいし」


「まぁ、そうよね。……ん、判った」


玉座から降りた雪蓮は二人の下へ歩み寄り、微笑みながら彼等を見上げる。


「ーー韓狼牙、呂百鬼。…永きに渡る孫呉への忠勤、誠に大儀であった。孫呉の民、そして諸将に代わり厚く礼を申す」


「「勿体なき御言葉」」


「貴公等はこれより孫呉を離れ、我々とは別の道を歩んで行く事となる。その道は平坦ではなく、いばら続きの困難な道行きとなるだろう。だが貴公らの堅き鋼のような意志、そして黒き狼の旗の下につどった一騎当千の臣下達。それらがあれば貴公らの前途はそれほど悲観するものでもないだろう。これから先は孫呉だけでなく、この中原の泰平の為に尽力し、益々励んでもらいたい。。これが貴公らへ贈る主君としての最後の訓示である。…和樹、将司…御苦労様でした」


その言葉に二人は抱拳礼で深々と礼を取った。


「さて、と!」


朗らかな声音と共に雪蓮が辛気臭い空気を払うかのように手をパンと叩く。


「二人はいつまでこっちにいるの?」


「滞在の予定は三日間だ。その後は真っ直ぐ荊州へ向かう。まずは本拠地となる場所の構築を急がねばならん」


「一から組織を創り上げるんだもんねぇ。時間に余裕はないだろうけど別れとかは済ませときなさいよね」


「そうするつもりだ」


首肯する和樹へ向かい雪蓮が微笑む姿を見て、“後は若い二人でごゆっくり”とばかりにお邪魔虫は退散しようかと空気が読める男を自負している将司が考えていた時ーー彼の背筋にゾクリと恐怖にも似た感覚が襲った。


「ーー……なぁ雪蓮?俺の気のせいかも知れんのだが……殺気を感じないか?」


どうやら和樹の背筋にも将司と同様の感覚が襲っていたらしく彼は眼前で微笑む雪蓮へ問い掛ける。


「ーーー♪」


だが彼女は微笑むばかりで何も答えない。


ーー唐突に彼等の背後にある謁見の間の扉が開かれた。


一層濃くなった殺気に二人は思わず振り向いてしまう。


ーー開け放たれた扉から彼等へ一直線に歩み寄る腰に太刀を差した初老の男の姿が二人の眼に入った。


その男は彼等が近頃、夢見の悪さに悩んでいた夢の中に登場する人物と瓜二つーーいや、そのものだった。


男は二人の間近まで歩み寄ると深い深い溜め息を零す。


そして自身よりも背が高い二人を見上げるとーー初めて口を開いた。


「ーー正座」


「「ーーあ、はい」」


思わず条件反射してしまい、その場で正座する大司馬と大将軍を見た孫呉の王は笑いを堪えるのに必死だったという。




「ーーそもそもだな……お前達は昔っから他人に頼ろうとせん!あのような事になる前に何故、俺に相談せんかった!」


「ーー突発的かつ衝動的な殺人だったのだ……どうやって相談しろと……?」


「ーーぶっちゃけ…無理なんじゃ…?」


「揚げ足を取るな!それと言いたい事があるなら直接言え!全く……昔から口ばかり良く回りおって……そこは変わっておらんな……」


「……誉めてるのか貶してるのかはっきりして下さいよ…」


「つーか十何年ぶりに再会して初っぱなに説教はどうなんすかお師匠様」


「ほぉう?なら木刀か、この太刀の鞘で頭をぶっ叩いてやろうか?その方が好みなら俺も喜んでやってやるが?」


「口答えして心からごめんなさい師匠」


謁見の間で突如として開催されたのは漢王朝の全兵権を握る大司馬、大将軍への説教である。


正座を小一時間ほど続ける和樹と将司は眼前の年老いた男に厳しく説教される度に頭を下げている。


この男の名は塚本嘉則つかもとよしのり


鹿島新当流の師範であり、和樹と将司の剣の師匠でもある人物だ。


この状況を見物せぬのは一生の損とばかりに冥琳、祭、そして華雄を筆頭として城内にいた諸将までもが謁見の間へと集まって来てしまっている。


((仕事は?暇なのか?))


横目で集まっている諸将達に恨めしい視線を送る二人へ更に師匠からの雷が落ちる。


「ーー聞いておるのか和樹、将司!!」


「えぇ……聞いております」


「…また鼓膜破れそうな大声なので聞き逃しはないです。というか聞き逃せないです」


溜め息を二人揃って吐き出したのを見咎めた塚本が更に雷を落とそうとした時、和樹が手を上げて彼の言葉を遮る。


「ーー師匠の御言葉いちいち御尤も。ですが、その前にひとつお尋ねしたい」


「……なんだ?」


「師匠が“ここ”に居るという事は……師匠は“向こう”で死んだのですか?」


「……あぁ……確かに……そうなるな。俺達も戦死したし……」


「な、なにっ!?お、お前達……死んだのか!?」


「えぇ。俺は敵の砲撃で片腕をもぎ取られた後、敵の射撃で」


「俺は敵の狙撃兵に撃たれて」


「な……なな…っ…!?」


「なので師匠も向こうで死んだのではないかと思いまして…」


正座していた和樹は師匠の許しを待たずに立ち上がり、将司もそれに倣って立ち上がると呆然としている塚本の耳元で囁く。


「ーー事情を説明します。こちらへ」


居並ぶ諸将達へ一礼した後、二人は師匠を連れ出し庭へ向かう。


園丁達の仕事振りが良く判るほど丁寧に手入れがされた庭へ降りた和樹はコートのポケットからソフトパックのタバコを取り出して一本を銜えると火を点けた。


「………いつからタバコを?」


「18からですよ。戦場での“通過儀礼”として吸わされた時以来、ずっと吸っています」


「若いんだから身体を労れ。……俺にもくれんか」


「どうぞ……LUCKY STRIKEですけどね」


「洋モクか……」


タバコを時々嗜んでいた師匠へ将司が自身のソフトパックから一本を抜き取り、彼へ手渡す。


塚本がタバコを銜えたのを見計らい、将司は火を点けたジッポを近付けた。


それに礼を言った師匠が素直に火を借りてタバコへ火を点けると、ジッポの火を消さずに将司も自身のそれへ火を点ける。


「…通過儀礼とは?」


「いまだ燻っている性別も年齢も判らない焼死体でタバコに火を点けて吸うことーーそれが俺達の“通過儀礼”でした」


「…マトモな人間がすることではないな」


「むしろ狂気の沙汰が正しいですよ。まぁ…傭兵なんてそんなモンですけどね」


「…警察の知人から聞いた話は本当だったか…」


「ーー軽蔑しますか?我々が人道に悖る畜生となった事を」


横に立つ和樹からの問い掛けに塚本は浅く紫煙を吐き出すと、緩々と首を横へ振ってみせる。


「…いや軽蔑なぞ決してせん。お前達は一所懸命に戦い抜いて生き抜いたのだろう。そんな者達をどうして軽蔑出来ようか。むしろ尊敬に値する………俺に黙って国を出たこと以外はな」


「こう言ってはなんですが師匠……もう十年以上も昔の事を蒸し返すのは……」


「60手前のジジイにとっては十年なんぞあっという間だ。つい昨日と同じ事だ」


((年寄り扱いしたら怒るくせに))


弟子二人は同じ事をほぼ同時に考えつつ紫煙を吐き出した。


「……師匠、話を戻しますが貴方は向こうで死んだのですか?」


「うーむ……どうにも判らんのだが……」


「はぁ」


「夕飯の買い出しに近くのスーパーに歩いて向かっていたのだがーーあぁ、そういえばな消費税が上がったぞ」


「いや…それはどうでも良いので続きを……」


「…エコバッグ片手に青信号になった横断歩道を歩いて……気が付けば荒野に立っておった」


「……それ交通事故で死んだんじゃ……」


「おおっ、言われてみればブレーキの甲高い音が聞こえた気もするな」


「「……………」」


自分の事なのに随分と暢気な、と弟子二人は考えたが口にすれば説教が再開されるのは確定なので黙っておくことにしたという。



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