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ある毒使いの死  作者: いちぼなんてもういい。
第7章 <西の大地にて>
136/245

97. <真相>

1.


「で、連中はなんと?」

「交渉、ですね。少なくとも今は」

「ふん」


 グライバルトのもっとも小高い丘に建てられた住宅街。

そこは、いわゆる『名士』と呼ばれる人々の住宅、および店舗が密集している。

他の都市、たとえば貴族領であれば、<大地人>の領主やその騎士――そして<冒険者>のギルドホールが集まっていることだろうが、この町ではそうではない。

議会に席を持つ議員、他の土地から流れてきた貴族、大規模な商会の支店、有力な職能組合(ギルド)

そうした人々が、町を睥睨する場だ。


その一角にある、やや小ぶりな建物の一室で、数人の男がうんざりした顔を見合わせていた。

その中の一人は、ユウがこの町に来た日の夕食で、おどけた口調で彼女に町への滞在を勧めた、あの老議員だ。

とはいえ、今の彼にその時の愛嬌のあるしぐさなど欠片もない。

長年、都市内外の政敵と渡り合ってきた、交渉のプロとしての凄みを柔らかな目に浮かべ、彼はばさりと手にした書類を放り投げた。


「やはり、最初はあそこか、ラインベルク」


忌々しそうに、書類に書かれた名前を読み上げる。

それは、長年にわたり、時には密かに雇った<冒険者>や山賊を用いて暗闘を繰り返した近隣都市の名だ。


「やはり……一連の事態の裏で糸を引くのはあの町でしょうか」

「羊の放牧地の境界改訂、水車小屋の優先的使用権、野外フィールドの独占的狩猟権、都市裁判権の一部譲渡に関税の優先交渉権……まあ、ずいぶんと欲張っておりますな」


老議員の秘書を長年務める初老の男性も、主君の後ろで背筋を伸ばしたまま、主の言葉に答える。

心底苛立たしげに、老議員は机に置かれた書類をぱんぱんと叩いた。


「当面の食料援助と引き換えにこれだ。正式な締結は月が変わってから、などと言っておるのがまだしおらしく思えるわい。

これを飲んだが最後、わがグライバルトは未来永劫ラインベルクの属国じゃ」

「フルク閣下、それを見過ごすわけには参りませんぞ」


向かいからかけられた声に、老議員――フルクは一瞬、ぴくりと固まる。

それが主君の激怒を表していることが、彼に長年仕えた秘書には分かっていた。

だが、顔に浮かんだ怒気は一瞬で消え、次の瞬間、フルクは穏やかな表情で目の前の男に顔を向けていた。


「無論のこと、エゼルベルト閣下、閣下の祖父君を裏切った者共に、われらグライバルトが従うことなどありえませぬ」

「無論だ。あの逆徒どもには鉄槌を以って報いねばならん」


男は30歳ほどであろうか、いかにも貴族的な顔立ちに、甲走ったような苛立ちを恐れ気もなくあらわしたその男は、ドン、と目の前の机を叩いた。

衝撃で、頭上のシャンデリアがかすかに揺れる。

ゆらゆらとうごめく影を無視して、その男―エゼルベルトは言った。


「あやつら、われらラインベルク家を追い出して後、心栄えも卑しくなったようだ。

悲運に喘ぐ同じ平民に手を差し伸べるどころか、野盗のごとき脅迫をかけてくるとは。

閣下、このエゼルベルト・アーダルベルト・フォン・ツー・ラインベルク、

一命を賭して閣下にご協力させていただきますぞ」

「それは、まことにありがたい。百万の味方を得た思いでございます」


追従めいたフルクの言葉に大きくうなずいた、かつてのラインベルクの領主一族の末裔は、なおも一くさり、かつての領民たちへ聞くに堪えない悪罵を垂れ流してから、部屋を出て行った。


バタン、と閉じられた扉を見ながら、最初の一言以来無言で立っていた秘書が呟いた。


「エゼルベルト閣下は、意気軒昂なことですな」

「若者が血気にはやるのは当たり前じゃ。

たとえ騎士も家臣もなく、ごろつきじみた<大地人>の傭兵くずれを10人かそこら率いているだけの男でも、な」

「具体案はあるのですかね? 仮にラインベルクの使者を叩き返せば、連中の抱えている<冒険者>や、ことすると<醜豚鬼(オーク)>が攻めてくることになりますが」

「あの御仁にはなかろうよ。……さて、しかしラインベルクもそううまくいくものかの」


雇われたらしい<冒険者>の男を使者としてもたらされた隣接都市からの交渉依頼に対して、

フルクはどこか余裕がある。

懇意にしている<冒険者>集団、<グライバルト有翼騎士団>の武力を当てにしているのか、と思った秘書は、ふと、ひとつのことに思い至った。


最近、腹心である自分をも人払いし、屋敷の奥で一人いることが多い主君だ。

そこで彼が何をしているのか、無論のこと彼は詮索してはいないが、それでもなんとなく気づくものがある。


だが、と一瞬浮かんだ疑念を、秘書は内心で握りつぶした。


彼は長年にわたり、主君フルクの腹心として仕えてきた。

この、<冒険者>や市民の前では陽気で気さくな態度を崩さない老人が、実際は猜疑心が深く、

時に非情とも取れる決断を平気で行う男であることもよく弁えている。

そして、そんな男に信頼を受けるために、自分は何をし、何をしてはいけないのかも

この男にはよく理解できていたのだった。



 ◇



 使者が、来た。


その知らせが<グライバルト有翼騎士団>に届いたのは、ユウがグンヒルデと友好的ならざる会談をもってから2日後のことだ。


話を聞いたとき、ユウはギルドホールの大広間、その一角で、メモを片手に荷物を整理していた所だった。


(<蛇刀・毒薙(ぶすなぎ)>、<疾刀・風切丸(かざきりまる)>……ともに問題なし)


幾分へたってきた帯の代わりに、西洋風のベルトに口金をつけ、二振りをぶら下げる。

和装の刀というより、戦前の巡査が持っていた西洋刀(サーベル)めいていたが、それは仕方ない。


(<上忍の忍び装束>は……いささか酷使しすぎたな)


ヤマトを出て、華国、<サンガニカ・クァラ>、そして北辺と、無数の敵からユウを守りぬいた黒装束は、あちこちに破れやほつれが目立ちつつあった。

ゲーム上の最大耐久度もいささかながら落ちてきている。

速度アップの能力がいまだ健在なことだけが救いだ。


いまさらながらに、この世界が<エルダー・テイル>と違うことを、ユウはまざまざと理解せざるを得ない。

いくらほうっておけば勝手に自己修復し、汚れを落とすとはいえ、目の前の装備は万能の羽衣ではない。

いつか破損することを、念頭に置くべきだった。

<騎士団>の裁縫師に頼むことも考えたが、<ロデリック商会>の手によって大きく改修されたこの装備は、補修にも実際の作業を必要とする。

和装を縫ったことのある<裁縫師>など、北欧サーバにいるはずもないのだ。


はぁ、とユウが深いため息をついたとき、突然周囲がざわついた。

顔を上げてみれば、大広間に3人の男女が入って何かを喋り始めている。

ローレンツ、ユーセリア、グンヒルデの3人だった。


「……何があったんだ?」

「ラインベルクからの使者が来たってさ。ほら、あんたらがこの前倒した<七花騎士団>の連中だよ」


面倒そうに答えた手近なギルドメンバーに礼を言うと、ユウはローレンツたちの言葉を待った。


そしてその言葉は、ユウがある意味で想像していたとおりのものだった。



2.


 闇夜だ。

足音を布で消し、顔に揃って覆面を被った、男女が総勢、30名。

漆黒の中になお黒々と浮かぶのは、グライバルトから数日の間があるはずの都市、ラインベルクの高い城壁だった。


(同じ自由都市といっても、ずいぶん違うな。こっちはまさに、城砦都市だ)


ユウは、その戦列の中にいた。



 使者がやってきて1日足らず。

まだ、ラインベルクから来たという、顔も知らない<七花騎士団>の<冒険者>は、苛苛しながらグライバルト市議会の決定を待っていることだろう。

馬を用いても2日はかかる道程を半日あまりで踏破できたのは理由がある。


ひとつは、いまや<猛進犀>をはじめとする凶暴なモンスターの宿営地と化した森を抜けたこと。

そして、その奥にある小さな<妖精の輪(フェアリーリング)>の存在だ。

ラインベルクとグライバルト、これほどまでに近い距離を結ぶ<輪>は、かつてゲーム時代には辺境といってよかった地域であるこのあたりでは誰の目にも留まらない。


だからこそ、ローレンツは断を下した。


『連中が交渉を待つ間に急襲、あの町(ラインベルク)を落とせ』


と。

そこで選ばれたのがユウたちだ。

あのマルシネやニーダーベッケルをはじめ、ほぼ全員が<暗殺者>か<盗剣士>という、

奇襲用とも言うべき人員選抜だった。


例外は2人。

この一団の指揮官であるヴェスターマンと、もう一人の<大地人>を除いて。

その<大地人>は、何度目か分からない文句を、隣を歩くヴェスターマンに叩きつけていたところだった。


「君、ヴェスターマン卿。まだ街は遠いのだ。馬は使えないのかね?」

「ご容赦ください、伯爵閣下。相手は<冒険者>です。この闇も沈黙もものともしないどころか、

<辺境巡視>であれば見つかっていてもおかしくないのです」


こちらも何度目か分からないヴェスターマンの返事に、その男――ラインベルク伯エゼルベルトはうんざりした顔を向けて首を振った。


「しかし、私はれっきとした貴族なのだ。叛徒の征伐に徒歩などとは……」

「閣下」


抑えた声が、なおも言い募ろうとするエゼルベルトを抑える。

その声にわずかに混じった苛立ちに、少し離れて歩くユウは内心で同感とばかりに頷いた。


 <グライバルト有翼騎士団>の反攻作戦に、これ幸いと首を突っ込んだのがこの男だ。

彼自身の自己紹介によれば、彼の祖父は五十年前に、目の前の都市(ラインベルク)から追い出された。

何人かの<冒険者>が驚いた顔をしているところを見ると、かつての北欧サーバのローカルクエストででもあったのだろう。

彼は、その祖父の汚名を雪ぎ、再び領主として返り咲くために、あの愉快な老議員――フルクを通じて

ローレンツに強硬にねじ込んだのだった。


(<大地人>なんて、クエストの足手まといに過ぎないのに)


かつて、<大地人>の若い騎士とその母親を連れて、ダンジョンを踏破した経験のあるユウはそう思う。

それなりの腕を持ち、<冒険者>に友好的であったその騎士を(いざな)ったのは、すでにほとんどのモンスターがいなくなっていた枯れたダンジョンだった。

それでもなお、一行の速度は大きく遅れざるを得なかったのだ。

ましてや、今回の相手は友好的でもなければ、従順でもない。


学習能力が無いかのように、再び文句をつけ始めたエゼルベルトから目をそらし、ユウは頭上遥かな城壁を見上げた。


(この向こう。<大地人>と<冒険者>がいる)


 ◇


<大地人>の兵士や地上を闊歩するモンスターには、堅牢極まりない防壁であるはずの壁。

だが、ユウたちにとっては、いくつかの足場を経由して容易に上がれる階段でしかない。

城壁の隙間に身を貼り付けるようにして、ヴェスターマンは作戦の最後の打ち合わせを行っていた。


夜間の浸透突破。

ローレンツとユーセリアが立案し、ヴェスターマンが実行しようとしているこの作戦は、史実のドイツ軍が第一次世界大戦の地獄の中で作り上げた塹壕突破のための散兵戦術、その中世風ファンタジー世界における応用といったところだ。

単独で行う暗殺や破壊活動(サボタージュ)、その大規模戦闘(レイド)版といってもよい。

緊密な方陣を組み、<冒険者>よりはるかに強大なレイドボスと戦う大規模戦闘者(レイダー)の戦術とは違う。

ある意味で、まったく新しい<冒険者>部隊の運用方法と言えた。


「問題は、速度と連携だ」


最後の訓示とばかりに全員を見回したヴェスターマンは、ユウを含む全員の目を見回して言った。


「各員は作戦開始より15分で主要都市部に到達。隠密のまま都市の主導者を連れ出せ。

誘拐する人数は最低3人。

それ以外の連中は、やむをえない場合を除いて一人も殺すな。

ユウの<昏睡>の毒は全員持ったな?」


頷くメンバーを見て、ヴェスターマンは続けた。


「作戦終了は約2時間後。時間の正確な把握は難しいが、月が斜め45度に至るまで、だ。

それまでにこの作戦開始地点に戻ってくれ。

間に合わなければ自力でグライバルトまで撤収しろ。何か質問は?」


何人かの手が挙がった。


「<七花騎士団>はどうする? <辺境巡視>や<斥候>、それに<追跡者>が出たら」

「<大地人>直衛の連中はできる限り眠らせろ。殺すな。

後は……ギルドホールで寝ていることを祈るばかりだ。別ゾーンであれば連中も即座の確認などできはしない」

「<大地人>が抵抗したら? ……ユウの毒は強力だが、万能じゃない」

「……その時は、殺せ」


殺す。

その眼光に、一様に<冒険者>は怯んだ顔を見せた。

当たり前だろう。

クエストの敵でもなく、ただ自分の町を富ませるために生活している人々を『殺す』ということは

たとえ<大災害>から一年以上が経過したとはいえ、ただの<冒険者>が覚悟を決められるものではない。


だからこそ、ヴェスターマンは黙りこくった全員に言葉を向けた。


「俺たちはグライバルトに住み、あの街に雇われた<冒険者>だ。

俺たちのこの能力は、ゲームのためじゃなく、今はあの街を生かすためにある。

……みんな。割り切れないかもしれないが、覚悟を決めてくれ。

俺たちはもう、兵士なんだ」

「……兵士」


誰かの呆然とした声が、暗い夜に響く。

その言葉が、作戦開始の合図となった。


3.


 ロープを伝い、城壁のわずかな凸凹を辿って、上へ。

さすがに夜を徹して歩哨をしていた<大地人>兵に見つからないよう、28人は三々五々城壁の隙間に飛び降りる。

城外に残ったのは、<守護戦士>であるがゆえに行動を規制されたヴェスターマンと、直前になって怖気づいたのか、えらそうに待機を宣言したエゼルベルトのみ。


ユウは、人影どころか猫の影も無いラインベルクの大通りを音も無く走りながら、登る直前のエゼルベルトの表情を思い出して意地悪く笑った。


(まあ、ついてこないだけマシということか)


周辺には同じく<有翼騎士団>の<冒険者>たちが、中心街に向け疾走しているはずだ。

月光は淡く、濃い闇色に染め抜いた彼女たちの姿を隠している。


ホーウ。


どこかで梟の声がした。


事前の情報によれば、中心街の中央部、各有力者の邸宅が立ち並ぶ一角までは、およそ15分。

ユウの脚力であれば、10分もかからずに行き着くだろう。

その後は、手近な相手を捕獲するだけ。


事前に、この街の有力者のリストは書類になって各人に配られている。

お誂え向きに、それぞれの屋敷の位置と間取り、大体の寝室の位置までも特定されている。

それを書き上げたのは、以前にラインベルクの有力者を次々回る小クエストをこなした事がある、というあるギルドメンバーだった。


(そういえば、レオ丸法師もこの世界に来たとき、膨大な知識を諳んじている、と言ってたな)


最近は顔を思い出すことも稀な、友人と呼んでいい相手を思い出す。

やはり、ユウの知らないこの世界の不思議は、まだ数多くあるようだ。


本来の彼女の仕事は、そうしたあれこれを脇において、ただもとの世界に帰るための手段を探すこと。


だが、今彼女がしようとしていることはそれとはまったくと言っていいほど関係が無い。

見知らぬ人々の住む、見知らぬ街のために、他の町の誰かを攫い、あるいは殺す。

一宿一飯の恩義と言えるかもしれないそのために、ユウは走る。


忸怩たるものを抱えないとは言わない。

あの華国での決断のように、生涯後悔することに、おそらくはなるのだろう。


そうであったとしても。



ぎり、と歯をかみ締めた彼女の前に、城壁ほどではないにせよ、高い壁が見えた。

この向こうが、中心街だ。



 ◇


 時間は刻一刻と過ぎていく。

ヴェスターマンは、冷静に月の動きを見上げていた。


「まだ戻らんのか? <冒険者>たちは!」

「……そろそろか」


帰ってこない突入部隊を待ちわびていたエゼルベルトは、不意にヴェスターマンがそう呟くのを耳にした。


「何を……」


だ。


そう問い返す暇も、彼には与えられなかった。


灼熱のような痛みが、彼の腹部を鋭く走ったからだ。


「うおご!?」


べちゃべちゃ、と粘着質の音が響く。

自らの腹部から転がり落ちる内臓の音、その上からぶちまけられる吐瀉物の音。

その痛みを与えたのが、ほかならぬヴェスターマンの手であることに、エゼルベルトは気づいた。


「な、がは、な」

「呪薬だ」


口にねじ込まれた瓶から流れる液体が、わずかにその痛みを軽減する。

見る見るうちに腹部が戻っていくが、一旦失われた血液と体力は戻りはしない。

自らの血と汚物の中で痙攣するエゼルベルトの目の前で、別の<冒険者>がヴェスターマンに歩み寄るのが見えた。


「予定通りか」

「ああ。これで作戦は第二段階へ移行する」

「了解。あんたのボスへもよろしく伝えておいてくれ」


事務的にやり取りした二人の<冒険者>は、気絶したエゼルベルトを無感動に見下ろした。


「もうすぐ都市の兵がこいつを回収する。予定通りだ」

「で、あんたはこいつの甘言に踊ったローレンツとその一味を告発する、というわけだな」


同郷の先輩にお厳しいこって、と肩をすくめた<冒険者>に、ヴェスターマンは無表情で答えた。


「すでに手はずは整っている。今頃ローレンツはおとなしく捕まって弾劾裁判にかかるか、

それとも街を捨てるかの二者択一を迫られていることだろう。

そして、あいつはあの街を捨てられない」

「今頃、あの街の<大神殿>も、うちのスポンサーの援助を受けたあんたのボスが買い取っていることだろうさ。

それで、状況は終わりだ。ラインベルクは首脳を失って壊滅する。

指導者を一部とはいえ殺された街の住民の怒りはこの没落貴族と、ローレンツたちに向けられる。

グライバルトは程よく弱体化し、俺たちのスポンサーがちょっと優しく征服する。

グライバルトは十分にメシが食えて幸せ、ラインベルクは怒りを納められて幸せ、

俺たちのスポンサーは自由都市ふたつをあっさりと落として幸せ、

そして俺やお前らは新しいスポンサーの下でのんびりやれて幸せ。

誰も困らない。

めでたしめでたし、って奴だ」

「……」


無言のヴェスターマンに、かすかに鼻を鳴らしたその<冒険者>は、無表情で城壁を見上げる彼の横顔を見つめていた。

その顔に浮かぶものは、なにもない。


本当に、何も無かった。


(まあいいさ。俺たちもこいつも、命じられたことを果たしただけだ)


その<冒険者>はもう一度肩をすくめると、いつの間にか周囲に広がっていた松明の明かりを見た。


(さて、ここからちょっとした小芝居だな)


誰何の声を上げて近寄ってくるラインベルクの衛兵に冷たい目を向け、その<冒険者>は小さく両手を打ち合わせたのだった。

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