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ある毒使いの死  作者: いちぼなんてもういい。
第6章 <傷ある女の修道院>
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76. <修道院>

時代設定。

2019年4月末ごろをイメージしています。

原作の<大災害>が5月初頭なので、1年ということで何かありそうではあります。


また、ほぼ連続投稿となります。話数にはご注意ください。

1.


 彼女は、ぼんやりと天井を見上げていた。


ここ数日、彼女はここでぼんやりと天井を見上げているか、海岸に出ているか、あるいは祈りの場に出ているか、それだけしかしていない。

周囲もまた、ほとんど廃人同様の生活を送る彼女を、敢えて見逃していた。

だが、その日々は終わった。

放心の時期(モラトリアム)が終わったことを、こんこんとノックされる扉が告げていた。


「気分はどうだ? 日本人」


入ってきたのは背の高い赤毛の女性だ。

長い髪は適当に後ろに伸ばされ、剣を振るうことを仕事とする鍛え上げられた筋肉がローブの裾から覗いている。

後ろには、ここ数日よく見るようになった<神祇官(カンナギ)>――ではなく、<癒し手(メディウム)>の女性。

その後ろに続く人影もまた、女性であるようだった。


「聞こえているか? 私の声は意味として通っているか?」

「ああ」


彼女が頷くと、どこかほっとした顔で<癒し手>の女性――ミリアムが口を開いた。


「<暗殺者(アサシン)>さん。この<傷ある女の修道院>にあなたが運び込まれてから3日です。

記憶は、戻りましたか?」

「ああ。あまり戻ってはいないが」

「ならば色々と聞きたいことがある。いつまでもお前に海を眺めてぼけっとすごさせるほど、この修道院も豊かではないのでな」

「あなたは?」

「ロージナだ。覚えておいてくれ」


そういって差し出された手に寄りかかるように掴むと、<暗殺者>は上体を起こした。

ベッドに座る体勢になった彼女の周りに、3人の女性が腰を下ろす。

そのうちの一人、ロージナと名乗った赤毛の女丈夫がまず口火を切った。


「さて……いきなり質問されても戸惑うだろう。まずは我々のことを説明しよう。

ここは北欧サーバ、アルヴァ・アルンド島。そこにある女<冒険者>だけのコミュニティ、<傷ある女の修道院>だ。

私、ロージナは一応、ここの代表を務めている。修道院長って奴だな。

……まあ、キリスト教を知らないお前ら日本人じゃピンとこないかもしれないが」

「飴でも作ってるのか?」

「はあ?」


<暗殺者>の妙な返答に、一瞬眉根を寄せたロージナだったが、こほんと咳払いして続ける。


「ここは、その名のとおり『傷ある女』――この世界で苦しみを得た女たちの最後の聖域だ。

あんたも、見る限り傷を負っているようだ。心にな。

であれば我々も助ける用意がある。だから教えてくれ。お前はどんな経験をしてきた?」

「待ってよ、ロージナ。そんな性急に聞くものではないわ」


後ろからロージナとミリアムと一緒に入ってきた3人目の女性がローブのフードを上げた。

透き通るような白金色の髪が、長い耳の両脇を後ろに流れていく。

清楚、純粋、そうした要素を人の顔に満遍なく塗りこめたような、細い顔立ちがそこにあった。

エルフだ。

<エルダー・テイル>のエルフは決して神秘的な妖精族などではないが、こと彼女に限ってだけは、そうした形容詞が許されるようであった。


「私はアールジュ。エルフの<吟遊詩人(スカルド)>です。よろしく」

「あ、ああ。よろしく」

「あなたの名前は?」


握手しながら、さらりとアールジュという名のエルフが尋ねる。

しかし、<暗殺者>はその問いかけに顔をしかめた。まるで頭痛に襲われでもしたように。


「思い出せないのか? ……ステータス画面は見えないのか?」

「ステータス? ああ」


出てきた半透明の画面に顔をしかめる。そこには自分の情報が書かれているはずなのに、今の彼女には何も読み取ることができない。

まるでのたくった虫の跡のように、そこにある『文字』は『文字』として彼女に認識されなくなっていた。


「すまない、本当に、読めなくなっている」

「我々も日本語が読めるヤツはいなくてな。その文字、日本語か韓国語だろう?」


ロージナが肩をすくめると、手を引っ込めたアールジュがたしなめるように彼女を見た。


「強いショックで一時的に忘れているだけね。たぶん……でも、このままだと呼びづらいわ。

仮に、でよければ名前をつけてもいい?」


質問の最後が自分に向けられた事に気づいた<暗殺者>が頷くと、アールジュはなんでもないように静かに言った。


「そうね。ゲフィオン、はどう?」

「ゲフィオン……どういう意味なの?」


問いかけたミリアムに、アールジュは小さく微笑んで答えた。


「ゲフィオン。この島がまだ地球にあったころ、神話に歌われた神の名前よ」

「そうか。ならゲフィオン。改めて、事情を聞こう」


ロージナの言葉に、改めてゲフィオンと名づけられた女<暗殺者>は頷いた。




 ◇


「まず、状況を説明したい」


ゲフィオンの言葉に、3人の女性はそろって頷いた。その顔はいずれも真摯だ。


「覚えている限りでいいし、言いたくないこと、思い出したくないことは敢えて言わないで。

無理に思い出すとかえって心にダメージがいくから」


アールジュの言葉に、ゲフィオンは顎を引いて続けた。


「私は、おそらく日本人だ。そこから離れ、旅をしてきた。

その目的も、目的を果たしたかどうかも、私には分からない。

ただ、夢で何度も見る光景がある」

「夢?」


ミリアムの問いかけに、ゲフィオンの引き結ばれた口が苦しそうに動いた。


「ああ。人殺しの夢だ」


ゲフィオンは語った。

自分の凄惨な<冒険者>殺しの夢。多くのモンスターとの戦いの夢。

<大地人>を虐殺した夢。そして、何度も殺された夢。

白い雪の地獄を彷徨う夢、それらすべてを。


「私はあのどこか分からない白い雪山で、何かをしたんだと思う。

その結果、私は今、すべてを忘れてここにいるようだ」

「……あんたは発見されたとき、丸腰だった。手持ちの所持品は、その指輪だけだ」


ややあって、ロージナが硬い声で言った。

その指は、ゲフィオンの手に嵌められたそっけない意匠の指輪に向かっている。


「あんたの事情はさておいても、もし話が本当だとするならば、コミュニティを預かる者としては、危険と判断せざるを得ない」

「ちょっと待って。本当に危険なら、わざわざそんなことを言う?」

「だがなミリアム、こいつが言うことが本当なら、こいつはPK(ひとごろし)だ。

殺人者を匿うほど、この修道院も寛大じゃない」

「だけど、見てのとおりゲフィオンはもう戦う力はないわ。修道院(ここ)は断罪の場ではなく、更正と癒しの場のはずよ!」

「それは理想論だ!!」

「……二人とも、静かにして」


怒鳴りあうロージナとミリアムの横で、静かに髪をたくし上げたアールジュは小さな声で言った。

それだけで、激昂した二人の女性ははっと口を噤む。

その二人を尻目に、アールジュは静かに言葉を続けた。


「ゲフィオン。あなたは傷を負っただけでなく、多くの罪を背負っている、と考えているのね」

「ああ」


二人の女<冒険者>の怒鳴りあいを、他人事のように聞いていたゲフィオンが頷く。


「ならあなたはここにいる資格があるわ。ここは<傷ある女の修道院>。その傷がいかなるものであろうとも、傷ある女はここで癒される」

「その……傷ある女の修道院、とはどういう場所なんだ?見ればあなた方はギルドというわけでもないようだが」


ゲフィオンは問いかけた。

確かに彼女が見る限り、ロージナも、ミリアムもアールジュも、そのギルド欄は空白だ。

ということはソロプレイヤーということになるが、そうとばかりも言い切れない。

疑問をやわらかく包むように、アールジュは問いかけに答える。


「あの<五月の災害>で、私たちは<エルダー・テイル>の世界に入ってしまった。

それは、あなたも知っているはず」

「ああ」


歌うような調べでアールジュが続ける。


「この世界には法はない。守るべき力もない。誰もが地獄を見たけれど、特に見たのは女。

剣をちらつかせられ、力で抑え込まれ、女は死ぬことすらできずに嘆くしかなかった」


ロージナの身がこわばる。


「仲間もそう。同じ場所に寝泊りすれば、どんな紳士も野獣に変わる。

信頼していた仲間の裏切りと暴力は、どんな人でも耐えられない。それはそうね。

女は自分の体そのものに価値があり、そして現実を忘れる一番の薬は快楽だから」


ミリアムが長い睫を伏せた。


「だから私たちは集まった。逃げて、集まったの。どんな男にも立ち入らせない、どんな女も助ける、

そんな修道院を作って。

私たちの全員がそうした傷を抱えている。だからここは、<傷ある女の修道院>」

「……そういうことか」


ゲフィオンもようやく合点がいった。

思えば、当たり前のことだ。

自らを縛る法という鎖が失われれば、人間は容易に野獣へと変わる。

獣性の向かう先は、同性に対しては暴力、異性に対しては――考えたくもない。

そして、レベルが高かろうと、優れた装備を持っていようと、それが勝利の鍵でないことは

ほかならぬゲフィオンの夢が雄弁に語っていた。

沈黙する彼女(ゲフィオン)の前で、アールジュはゆっくりと首をロージナに向けた。


「ロージナ」

「……なんだい?」

「この人は修道院に必要よ」

「なぜだ。お前もミリアムと同じようなことを言うつもりか?」

「いいえ」


ロージナの言葉に、アールジュは首を振った。


「彼女は人を殺している。この小さな修道院を守るためには、躊躇いなく敵を殺せる人がどうしても要る。だから彼女を迎えましょう」

「………他の連中にも諮る。 だが、まずは一日の滞在を許そう」


ロージナが立ち上がり、宣言するように言い放つ。

彼女に従ってアールジュとミリアムもまた、席を立った。


「今日はこの場所から出ないでください」

「あなたの滞在はおそらく許されるわ」


それぞれに言葉を残して。





 3人の<冒険者>が出てしばらくして。

ゲフィオンはゆっくりと手の指輪に片手を伸ばした。

とぷん、と別の空間に手が沈み、やがて二振りの刀が姿を見せる。


「なくしても戻ってくるような気がしたが……やはりな」


苦笑した彼女の手元には、リィンとかすかに鳴る緑と青の刀身が置かれていた。


「名前すら覚えていなくてすまないが……お前たちは私と共に常にあったのだろう?」


リィィン、と答えるように刀が震える。


「ここで振るうことになるかは分からないが……また、頼むよ」


誰にも見られないよう、刀を<暗殺者の石>に仕舞うと、ゲフィオンはゆっくりと身を横たえた。




2.


 その翌日から、ゲフィオンにも役割があてがわれた。

端的に言えば、ミリアムの補助だ。

彼女は<癒し手(メディウム)>であると同時に調合師でもあった。

癒しの効果を持つ呪薬を作り出せる職業だ。

一通りの仕事をさせてみて、ゲフィオンが鍛冶師でも料理人でも裁縫師でもないことに気づいたロージナたちは、彼女が妙に素材に詳しいことから、ミリアムの補佐を命じたのだった。

もちろん、それは平時のことだ。

一朝何かあれば、彼女の役割は<修道院>の敵を殺すこと。


そうした役割にゲフィオンが慣れてきた、ある日のことだった。


「ここにいる<冒険者>は約80人です。他に<大地人>の女性が30人ほどですね」


暗色のローブを翻し、せかせかと歩くミリアムはそうゲフィオンに説明する。

同じローブを羽織ったゲフィオンは小さく唸った。


「多いね」

「ええ。その中で癒し手は私を含め32人。少なくはないですが、暇ができるほどではないです」


霜の降りた田畑を耕している<冒険者>たちの元へ歩み寄りながら、そうミリアムは言い捨てると、その一人に近寄った。


「どうしました?」

「<ワーム>が、いきなり襲い掛かってきたの」


そういって見せた彼女の大腿部は見事に食いちぎられ、骨が見えている。


「分かりました。<ヒール>」


光と共に傷がいえるのを確認し、ミリアムはせかせかと立ち上がる。


「では、これで……ゲフィオン、どうしたの?」

「あ、いや、あれくらいの傷、ほうっておいてもよくないか?」


何の変哲もない疑問に、ミリアムはしかし顔を盛大にしかめて言った。


「いい? この修道院ではどんな小さな傷でも、癒し手が癒すの。……理由を教えましょう。

ここは<大神殿>がないの」

「……」

「ここで死ねば誰もが、それぞれの最後に訪れたプレイヤータウンに戻るわ。

……自分を探している悪意ある誰かがいるかもしれない、場所へ」

「そうか、だから」


ゲフィオンの了解の声に、ミリアムは厳しい顔で頷く。


「だから私たちはここでは誰も死なせない。畑仕事や狩りでも必ず回復役が同行するのはその為。

私たち癒し手は、ローテーションで各班についている。そうでない時は、こうやって見回っているの。

誰も死なせないためにね」

「ミリアム! ゲフィオンはいるか!」


ゲフィオンが説明に頷いたその時、遠くから声がした。

ローブの裾を盛大に翻し、走ってくる人影がある。ロージナだ。


「いるわ! どうしたの!?」


その血相を変えた雰囲気に、ミリアムが大声で答えると、やってきたロージナは息をわずかに喘がせながら言った。


蛮族(ヴィーキング)だ。採集班のヘレンとジャニスが捕まった。

連中、修道院の門を開けろと息巻いてる。

そうでなければ2人を……乱暴すると」


ロージナが言葉を終えたその時、周囲の空気が冬よりもなお凍った。

驚く2人の視線を受け、ローブに深くフードをかぶったまま、ゲフィオンが呟く。


「私の、出番だね」

「あ、ああ。連中は逃さないでほしい。ここの場所を吹聴されると危険だ」

「分かっている。敵の位置は」

「修道院、正門前」

「分かった。他の連中は決して門を出るなと言え。あと、癒し手は門のそばに待機。

ヘレンとジャニスが傷を負ったら回復を頼む」

「待て、一人でやる気か!? レベルは50あるかないかだが、100人近くいるんだぞ」

「関係ない」


ロージナに、フードの奥からギラギラした目を向けて、ゲフィオンは言う。


「簡単な、ことだ」



 ◇


 ルーシから北領ノルドにかけての地域では、ヴァンダイ族とはそれなりの規模の部族だ。

その男は頭を剃り上げ、髭を編みこんで垂らす。

そして婚姻は、他部族の女を奪い取って犯す。

ある意味で一般的な、<大地人>の教養ある一部に言わせれば『典型的な蛮族』だった。

その族長であるアダルブラントがわざわざ選りすぐりの戦士を率いてやってきたのは、


『北方の島のどこかに、美女ばかりを集めた修道院がある』


いつしか<大地人>たちに流れるようになった噂に誘われてのことだった。

探索の旅は困難だったが、今、彼は達成感に全身が舞い上がるようだった。

何しろ、当の修道院を見つけるどころか、そこの美女を二人、捕まえられたのだ。

美女は今、半裸の彼の足元で、蹲って震えている。

レベルこそアダルブラントより高かったが、そんなものはもはや問題にもならない。

心を折ってしまえば、レベルの上下など意味を成さないのだ。


「おい。仲間を捕まえた後でたっぷりとかわいがるからな。今のうちに覚悟をしておけ」


嘲り交じりの声にも、二人の女性は返事をしない。

その無礼さに一瞬怒気が湧き上がるものの、アダルブラントはフン、と鼻を鳴らして激情を抑えた。

彼女たちを今まで犯さなかった理由はただひとつ。

その時間がなかったためだ。

だが、修道院が沈黙を続けるならば、時間もできる。

女など、腰が抜けるほどに犯してしまえば従うものだ。

簡単に考えたアダルブラントは、足元の女性を欲望に満ちた目で眺め降ろし、小さく嗤った。

その瞬間。

族長アダルブラントの人生は、一瞬で幕を閉じた。


「へ?」


誰かが間の抜けた声を上げる。

それも当然だ。

影から突如、湧き上がるように現れたローブ姿の人影が、瞬時に族長アダルブラントの首を切り落としたのだから。

だが、声を上げた男に次の言葉は許されなかった。


まさしく疾風。


両手から伸ばされた刃が、左右の戦士の心臓を正確に貫く。


「<スウィーパー>」


囁く声が聞こえたかどうか。

血を吐く戦士の、その返り血も浴びたくないとばかりに、ローブの人影が宙を舞う。

異変に気づいたほかの戦士たちが大声を上げるが、もはや遅い。

<幻想>級と、それに劣らぬ刀の一撃に、防具もなしに耐え切れるほどに<大地人>は強くないのだ。

たかが女ばかりと侮っていたのも彼らに不利に働いた。

これが男女の<冒険者>が集団生活をしていた、という情報であれば、彼らも注意を払っていただろう。

だが、<冒険者>とはいえ女ばかり。

その先入観、そして捕まったヘレンとジャニスの態度が、それを後押しした。

だからこそ、ヴァンダイ族はまともな戦闘陣形も取っていなかったのだ。


「走れ、ヘレン、ジャニス」


周囲を暴風のように切り刻みながら、ゲフィオンが叫ぶ。


「ゲフィオン!」


彼女たちが駆け出すのを見て、ゲフィオンもまた両手の刀を後ろへ回した。

本来<暗殺者>は殲滅戦を苦手とする。

だが、幸か不幸か、ゲフィオンの体は、多人数での戦い方をよく覚えていた。

まるで、過去何度も遭遇したことがあるかのように。


「<アクセル・ファング>!」


疾風のようにゲフィオンが駆け出す。

周囲の敵をその刃で深々と切り割りながら、大きく弧を描くように走る。

まだ、壊走には至っていない。

彼女は、大きく動いて彼らの退路を絶ちつつ、一人残らず斬るつもりだった。



 ◇


「何者なんだ、あいつは……」


鬼神のような勢いでヴァンダイ族を斬り立てるゲフィオンを、修道院の外壁から見ながら、ロージナは思わず声を上げた。

ロシアサーバ、ついで北欧サーバで多くの大規模戦闘(レイド)に参加した彼女から見ても、ゲフィオンの戦いぶりは異様だ。

あれは大規模戦闘(レイドバトル)用に調整された<暗殺者(アサシン)>の動きではない。

一人で多数の敵を破ってきた、凄腕のソロプレイヤーにだけできる動きなのだ。


「あの右手の刀、たぶん<疾刀・風切丸>。ヤマトサーバにあるという<幻想(ファンタズマル)>級の刀ね」


横で戦場を見ていたアールジュが呟くように言う。


「確か、<黒剣騎士団>とかいうギルドが手に入れたとか聞いたけど」

「院長! ヘレンにジャニス、門まで来ました! 追いかけてくる敵はいませぇん!!」


アールジュの声をさえぎるように物見の報告が届く。

ローブを脱ぎ捨て、赤と銀に縁取られた華麗な鎧を露にして、ロージナはがしりと拳を打ちつけた。


「よし! ゲフィオンばかりに任せるな! 出るぞ、戦えるやつは剣を取れ!」

「ええ!!」


修道院長(ロージナ)の号令一下、正門が音を立てて開いていく。

自らも門に飛び降りながらも、ロージナは信頼する参謀役(アールジュ)に声をかけた。


「戦況判断は任せる! あたしらは連中を追い散らす!」


参謀(アールジュ)が頷くのを見て、ロージナは戦場に高ぶったように叫んだ。


「ようし!<傷ある女の修道院>! 出るぞ!」



 はるか北の地に、女ばかりが集まる修道院がある。

そこの女性は押しなべて美しく、さまざまな人種、肌の色の美女が集まっている。


アダルブラントは、そしてヴァンダイ族は無視していたが、その噂にはもうひとつ尾ひれがついていた。


そこの修道院に行っても無駄である。

決して生きて帰ってはこれないから。



その日。

ヴァンダイ族は、全滅をもってその尾ひれの信憑性に寄与することになった。


春先のことであった。

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