#061「天使・後編」
「その大いなる力を……」
俺を見つめ、ニヤニヤと笑っていたアスタルテが無表情に戻る。そして、彼女は俺からミヒールへ視線を移した。
「……お貸し下さい」
アスタルテの視線に感づいたのか、ミヒールは咄嗟に回避行動をとった。だが、間に合わない。
「うぅ…ぐ」
肉の焼ける臭いが辺りに立ち込める。
ミヒールの右腕が黒く焼け爛れていた。落とした剣の柄には、彼女の手のひらの皮膚が張り付いている。
アスタルテはミヒールの右腕を確認すると、持っていた白百合の花をポイッと捨てて、胡桃と宝石をポケットにしまった。
「何故ですか、ラプヘル」
「……何故ですか、じゃないわ。
何が『全ての天使の総意』よ。
天使なんて、三人しかいないじゃない。
だいたい、ジブリアは連絡がつかないし」
アスタルテは、俺とミヒールの間に立った。右腕を押さえようにも熱で触ることができず、もがくミヒールに対し、アスタルテは無表情で見つめている。
「だから、二人で話し合ったではないですか」
「この前、カフェでおしゃべりしたことかしら?
あれは話し合いなんかじゃないわ。
貴方が、一方的に自分の意見を言っただけよ」
「でも、貴方は反対しなかった」
「そうね」
アスタルテは俺へ向き直ると、一言「借りるわ」と言って、返事を待たずに俺の手から剣をもぎ取った。
その剣を、ミヒールへ突きつける。
「……でもね、カフェでおしゃべりしたときから、貴方と決別することは決めていたの。
行動に出ることを躊躇っていたのは、シトレイ君をどこまで信用できるか、悩んでいただけよ。
だけど、もう悩むのは終わり。
貴方が躊躇なく術を使ってくれたおかげで、決心がついたわ」
「何故、そこまで、この男に固執するのですか」
「……別に、固執なんかしていないわ。
貴方こそ、セエレ・アンデルシアに固執しすぎじゃない?
誰を選ぶか決めるのは、私たちじゃないわ。ドミナ様よ」
ミヒールの胸目掛けて、剣を突き刺すと同時に、アスタルテは答えた。
「そう、全て、決めるのはドミナ様」
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事件の後始末は大変だ。
もちろん、本格的な後始末は祖父にお願いすることになるだろう。それが一番、効率がいい。
と言っても、祖父が帰ってくるのは一週間以上先だ。そして、研修へ向かう俺やアスタルテ、フォキアと入れ違いとなる。
だから、祖父が帰ってくるまで、自分でできることは全て自分で行い、祖父にバトンタッチしようと思う。
何より、一番効率がいいからといって、祖父に全て任せるのは心苦しいし、自分が情けなくなるからだ。
内務大臣をはじめとする捜査責任者に面会し、犯人を処断した旨を話し、捜査の終了を依頼する。もちろん、「後ほど、祖父から正式なお話があります」と付け加えることを忘れてはならない。
そうしないと話を信じてもらえないし、そもそも祖父の名前を出さねば、大臣本人が会ってくれることはなかっただろう。それが現実だ。
一番気を使った相手は、エレオニー公爵である。
近衛軍の司令官を務めるエレオニー公爵は、捜査責任者の一人であると同時に、犯人の上官でもあった。
「まずいですな。
まさか、近衛軍の中に犯人がいたとは。
これは、非常にまずい」
彼の考えはだいたい読める。
政敵サイファ公爵につけ込まれる材料ができてしまい、焦っているのだろう。
そして、俺は宰相の孫であると同時に、サイファ公爵の娘と婚約している立場の人間でもあった。
俺がサイファ公爵に告げ口することなど絶対にありえないのだが、エレオニー公爵からすれば、そんな保証はどこにもない。
後から聞いた話だが、俺とヴェスリーの仲の良さは、一部貴族や軍人の間でも有名になっているらしい。
俺は十七歳。自家の利益よりも恋を優先するのではないか、と疑われても仕方のない年齢だ。
汗を拭きながらチラチラと俺を見るエレオニー公爵は脂ぎった肥満体の持ち主である。
エレオニー公爵をあまり好きになれないな、と思うのは、おそらく同属嫌悪だろう。
保身ばかりを気にする臆病者。
俺と似ている。
「皇宮内で起きたことは、公表されません。
我が家が襲撃を受けたことも、公表するつもりはありません。
ミヒールは……近衛軍にいなかったことにしましょう。
いかがでしょうか、閣下」
「おお、そうですか、そうですか。
なるほど。
では、去年の年末付けで退役したことにしましょうか。
ミヒール元近衛兵は、行方不明ということで」
エレオニー公爵は安堵からか、満面の笑みで答えた。
「で、伯爵のご好意に対し、私には何ができますかな?」
「特に何も。
礼にはおよびません」
俺だって、事件のことはあまり探られたくない。
特殊な術の力は、軽々しく人に広めていい話ではないだろう。それに、事件の原因は、どうやら太祖アガレスの転生に関係ある話のようだ。アスタルテとミヒールの会話内容からして、それは間違いないと思う。
だから、この件は、これで終わりにしてもらえると助かる。それがお礼、見返りだ。
「それでは困りますぞ、伯爵。
伯爵のご好意に甘えてばかりはいられません」
俺とエレオニー公爵は似ている。なんとなく、公爵の気持ちも掴むことができる。
見返りを与えず、特に親しくもない相手に貸しを作ったままでは、安心できないのだろう。
「では、近衛軍の席を空けておいて下さい。
私が望んだときに、私の指名した者を近衛兵として任用していただきたい」
「いいでしょう、わかりました」
近衛軍は人気の配属先だ。
俺自身は、どちらかというと前線勤務を望んでいる。しかし、ただの学生である俺が、近衛軍の兵卒に限ったとしても、人事に口を出せるのだ。これは、大きな強みになる。
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捜査関係者に話をつけた。
家臣には、アスタルテが見せた特殊な術の力や、ミヒールによる襲撃の件に対し緘口令をしいている。
俺の命令を忠実に果たしてくれた家臣たちだ。
できれば、事件の真相を余すことなく伝えたい。だが、やはり転生の話が絡んでくると、それはできない相談だった。
俺の下した緘口令を、家臣たちは特に気にした様子も見せず、しっかりと守っている。
彼らは父の代から我が家に仕えてくれている者たちだ。古参の中には、祖父に仕えていた人間もいるという。彼らは皆、ベテランなのだ。こういうことには慣れているのだろう。
真相を話すことはできなくても、彼らの働きには報いるべきだ。
我が家の家臣団も、上方と国元の仲の悪さなど、問題はたくさんある。それでも、主への忠誠心は疑いようがない。今度、ボーナスでも配ろうか。
しかし、一人、こういうことに慣れていない人間もいた。
彼女はベテランではない。そもそも、家臣ではない。彼女は客分という扱いだ。
「シトレイ。
あたし、天使さんの術の力、誰かにしゃべりたくて仕方ない」
「だめだ、だめだ。
常識外れの術なんだ。
世の中が混乱するよ」
「うーん……。
てか、結局、犯人の動機は何だったの?
天使さんは何か知ってるみたいだったけど、いまいち内容がよくわからなかった。
そもそも、『天使』って何?
女神様がどうこうって言ってたけど」
「それは……、アレだ。
天使ってのは、コードネーム的なアレだ。
女神ドミナについては……うん、これも、コードネームだ。
そう、これは、その、大きな陰謀があるんだ。
教会が絡んだ、なんて言うか、知ったら身の危険が迫るような大きな陰謀だ」
「うん、じゃあ、その陰謀を教えて」
苦しい。いっそ、転生のことも含め、全て洗いざらい話してしまおうか。
だが、今回の事件も、原因は転生が関係しているようだ。
いつか祖父が言ったように、転生の話をすれば、今後、フォキアを巻き込んでしまうことになるかもしれない。
……既に、十分巻き込んでいるかもしれないが。
「フォキア。
今回、君には随分と助けられた。
何かお礼をしたい」
「その陰謀を教えて」
「それ以外で」
フォキアに話してしまいたいという誘惑に駆られる。
そもそも、俺が太祖アガレスの生まれ変わりであるがために、今回のような危険な目に合ったのだ。そして、周りの人間も巻き込むことになった。
それなら、俺には、巻き込んだ人間に全てを話す義務があるのではないか。
……いや、やっぱりだめだ。
知ること、はリスクをはらむ。
敵が転生者にしろ、天使にしろ、相手は輪廻転生の事実を知る者となる。人が死んでも、来世があると知っている者たちだ。目的のためならば、人を殺すことも厭わないだろう。事実、セエレやミヒールはそうだった。
そんな敵が再び現れたとき、その敵が、フォキアに余計な知識があると知ったらどうか。
フォキアは、標的の周りにいる人間から、標的そのものに加えられてしまうかもしれない。
……やはり、話すことはできない。
「知ったら身の危険が迫るような大きな陰謀」というでまかせも、考えてみれば、荒唐無稽と言い切れない。
事件は解決したが、アスタルテとミヒールの会話から察するに、まだ一人、天使がいるはずだ。その天使がどういう考えを持っているか、まだわからないのだ。
「う~ん……じゃあ、剣を買って。
今使ってるのボロいし、買い換えたいと思っていたんだ」
「え?
そんなものでいいの?」
「うん。
中央広場の武器屋に、ずっと欲しいと思っていた剣が売ってるの。
お金なくて手が出せなかったけど、その剣を買ってくれるなら、今回のことは黙ってるし、しつこく聞くのもやめるよ」
「それなら、お安い御用さ」
フォキアから値段を聞いた瞬間、俺はお安い御用という言葉を撤回した。
「ありがとう。
ちなみに、値段は金貨二十枚だから。
よろしくね!」
金貨二十枚。日本円に直せば、約二百万円。
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これで、とりあえずの後始末を済ませることができた。
あとは、アスタルテから詳しい話を聞くだけである。
「本当に、長くなるわよ」
再び彼女を都の屋敷へ招いた俺は、長くなるという彼女の宣言を踏まえ、長期戦の覚悟で臨んだ。
丸テーブルには紅茶の入った大きな急須、3リットルは入る水差し、そして山積みのお菓子が置いてある。お菓子は、甘いもの、辛いもの、しょっぱいものと、各種取り揃えている。
アスタルテは、ロッキングチェアに座っていた。彼女にしては珍しく、だらしない姿勢で座っている。そのだらしない姿勢のまま、ロッキングチェアを前後に揺らし、モグモグとチョコレートケーキを食べていた。
「凄いくつろいでるね」
「……ダメかしら?」
「いや、全然。
どんどん、くつろいで」
場所は俺が使っている書斎だ。
家臣たちに聞かれてはまずい話だったし、応接間は、水攻めを受けた片づけがまだ済んでいない。それに、ミヒールが絶命したところで話したくなかった。
「……長くなるだろうから、このまま楽な姿勢で話をさせてもらうわ」
「ああ、構わないさ。
ところで本題に入る前に、一つ気になることから聞きたい。
君は、術を放つ前に笑っていたよね?
あれはどういう意味だったのだ?」
あのとき、アスタルテは俺を見つめ、はっきりと笑っていた。ニヤニヤと嫌らしい笑いを見て、俺はアスタルテに騙されていたのではないかと疑いを持ったのだ。
結局、俺の疑いは、その後のアスタルテの行動で否定されることになった。
「あの笑いは、『安心して』というサインだったのだけど。
ひどいわね、シトレイ君。
貴方たち、全員で私に切りかかろうとしたじゃない」
「切りかかろうとしたことは……君を疑ってしまったんだ。
本当に申し訳ないと思っている。
ただ……」
あの笑いを見て、安心しろというのは、少し無理があるんじゃないか。
俺はアスタルテに助けられた身だ。それに、俺の笑顔もよく誤解を受ける。俺がアスタルテの笑顔について物申せる立場にないことは重々承知してる。しかし、言わずにはいられない。
「余計なお世話だとわかってて言うが……君は、笑顔の練習をしたほうがいいんじゃないか」
彼女はいつも無表情だが、決して笑えないわけではない。何度か、不敵な笑みや意味ありげな含み笑いを目撃したことがある。
それでも、笑顔を作ることは苦手なのだろう。
わざわざ「サイン」として笑顔を作るのなら、相手に意図が伝わる程度には、練習すべきではないだろうか。
「本当に余計なお世話ね。
本題に入るわよ」
アスタルテの話をまとめれば、以下のとおりだ。
・天使はドミナが降臨する前の、世の中の情報を集める役割が与えられている。
・ドミナが降臨する時代に合わせ、人間の肉体を持って生まれてくる。
「……魂のままでは人間と話すことができない。
それじゃ、情報を集めるのに都合が悪いでしょう?
だから、この時代に人間の肉体を持って生まれてくるよう、ドミナ様が調整したの」
「魂は人間ではないが、肉体は人間のものなのか。
君の今の体は、人間として生まれ持ったものなのだな?」
「ええ」
「両親は?」
最初から、明確な目的を持って生まれてきたのなら、普通の両親相手に普通の子供を演じることは邪魔にしかならない。
アスタルテの両親は故人だ。まさか……。
「殺してないわよ」
アスタルテは地方の寒村で生まれという。彼女は歩けるようになり、ペンを持てるようになった後、すぐさま既に人間として生を受けていた天使ジブリアに連絡を取った。そして、自ら消えるように両親の元から去った。
「……あの、罪のない夫婦には悪いことをしたと思うけどね。
ただ、私のような『おかしな』子供を育て続けることが、あの夫婦にとって幸福だったとは思えないわ」
「そうか」
「おかしな」子供を育ててくれた父と母の、最期が思い起こされる。
生みの親の元を去った後、アスタルテは自らが動きやすいよう、戸籍を偽造した。両親は故人、兄弟姉妹はいない、天涯孤独のアスタルテ・ラプヘル。それが、一番動きやすい身の上だったという。
「偽造と簡単に言ってくれるが、よくそんなことができたな。
君のことを調べていたときに、戸籍も確認させたのだが、原本自体は正式なものだったらしいと聞いている」
「それは、ジブリアのおかげよ。
彼女は教会でシスターをやっているから。
と言っても、彼女は今行方不明だけど」
・天使は三人いる。今現在、そのうちの一人が行方不明らしい。
「しかし、幼児が両親の元を自ら去り、さらには戸籍の偽造か。
中身のカラクリを知っていればなんてことないが、それでも、やっぱり想像しづらいな」
剣の実技を思い出す。教官の評によれば、彼女の身体能力は平凡だが、戦いの知識が豊富だというのだ。
なるほど、肉体は生まれて十七年だが、中身はそれ以上の知識をため込んでいるのだろう。教官の評にも合点がいく。
「私も似たようなものかもしれないが」
「……どうかしらね」
・俺の前世とは違い、彼女の前世は約四百年前。
・つまり、前回のドミナ降臨時も、同じように人間へ転生し、情報を集めたらしい。
・ドミナは、歴史上二度降臨しているが、それ以前にも、何度も降臨している。
・だから、アスタルテは約四百年毎に、何度も人間へ転生している。
「人間の体を持っていない期間は魂だけの存在ということか?」
「そう。
それが苦痛なのよ。
誰とも話すことができないし、触れることもできない。
ただ、彷徨っているだけ。
壁をすり抜けることができるから、色々見ることができるけどね」
「それは、プライバシーをガン無視して、何でも覗くことができるということか?
……例えば、若い夫婦の寝室も」
「可能よ。
と言っても、何百年も、何千年も見てれば飽きるわ。
飽きというものは、怖いものよ。
今の私なら、男女が嬌声を上げてる横で食事を取ることだってできる」
壁をすり抜けることができる。
幽霊みたいなものだろうか。
「そんなものを観察するより、やっぱり、私は人と話すことが一番楽しいわ。
飽きることがないもの」
彼女は無表情で、本当に内心が掴みづらい子だ。今まで彼女と話していて、彼女が「人と話すことが楽しい」と感じていたとは、まったくもって思いもよらないことだった。
「ミヒールや、もう一人天使がいるのだろう?
魂だけのときも、彼女たちとは話せるんじゃないのか?」
「……話せるわね。
話さないけど。
私たち、あまり仲が良くないし」
・天使は三人いる。そして、各々は仲が悪い。
・ミヒールは我が強く、自分の考えを絶対に曲げない性格の持ち主(アスタルテ談)
・現在行方不明の天使ジブリアは、何に対しても無関心な性格(アスタルテ談)
「先ほどの話だと、ミヒールとはともかく、ジブリアという天使とは協力してたんじゃないのか?」
「協力することと、仲が良いことは別物よ。
同僚であっても、友だちじゃないから」
「なるほど。
……ところで、君の言う他の天使の性格って、まるっきり君にも当てはま」
「そろそろ、帰ろうかしら」
「すいません、何でもありません。
続けて下さい」
・天使は人間としての肉体を失っても、記憶を持ち続ける。
「だから、ミヒールが死んだことは気にしなくていいのよ」
「そうは言ってもな……」
ミヒールは伯父の仇である。最初から仇を討つ――殺すことになるだろうとは思っていた。しかし、本来その役割を負うべき者は、コルベルン王家の人間だ。アスタルテではない。
「たとえ仲が悪くとも、君に同属を殺させてしまったのは事実だ」
「変なことに気を回すのね。
気にしなくていいと言っているでしょう。
私自身が気にしていないのだから。
それに、私たち天使にとって、人間の肉体は仮初めのものよ。
どうせ、ドミナ様が降臨されたら、ミヒールには新しい肉体が与えられるわ」
・ドミナ降臨後、天使たちはドミナの下僕として行動する
「ドミナ様の下僕として、人間と接触する機会も多いの。
肉体を持たなければ、人間と接触することは不可能よ。
だから、多分、ドミナ様はミヒールに新しい肉体をお与えになるわ。
ドミナ様のお考えにもよるけど……今のところ怖いのは、ミヒールが再び肉体を得た後のことね」
魂だけの存在では、人間に話しかけることも、触れることもできない。とりあえず、ミヒールが新しい肉体を与えられるまで、彼女が報復してくる可能性はないという。当分は安心してもいいらしい。
「それもつかの間だけどね」
安心できるのは、ドミナが降臨するまで。
「私がこの世界に生まれてから、ずっと気になっていたことがある。
ドミナはいつ現れるんだ?
君は、その時期を知っているのか?」
「……ええ。
ドミナ様はね、地上にいる期間はいつもバラバラだけど、降臨する時期は決まっているの。
きっちり、四四〇年ごとに降臨されるわ」
この国で広く用いられている紀年法。正式な名前はドミナ降臨紀元。名前のとおり、女神ドミナの最初の降臨を元年に置いている。
その紀年法によれば、今年は879年だ。ちなみに、前回の降臨は441年。
「とすれば、ドミナが現れるまで、あと二年か」
俺がこの世界に「戻って」これるよう、前世の神に依頼したドミナ。
人々の前に姿を現し、術の力を与え、この世界の情勢に直接介入したドミナ。
あと二年で、彼女が現れる。
俺にとっても、この国や世界そのものにとっても、大きな変化が訪れるのではないだろうか。そんな予感が、俺の頭をよぎった。




