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キラキラしている

 そのころ歌川は、虹富に空港で車に乗せられて一方的に海岸沿いをドライブしていまに至る。

 西日が差し込む自分の部屋で、静かに過ごすはずだった。それがどうしたことか、キッチンが賑やかである。


「歌川さんて、お嫌いなものあります? あんがいピーマンが嫌いだったりして。あはは」


 歌川は我が家のキッチンに立つ、虹富の後ろ姿を見ていた。海保のあの紺色の作業服ではなく、私服にエプロンをつけている。スカートこそ履いてはいないが、足首が見える丈のパンツスタイルにクリーム色のブラウス。腕まくりした虹富は忙しそうだ。


「まあ、あながち間違いではありませんが食べることはできますよ」

「えっ、そうなんですか! わー、当たった。でも大丈夫ですよ。苦手な人でも食べられるように作りますから!」

「それはどうも……」


 なぜか調子が狂う。歌川は何度目かの眼鏡のふちを触り、ずれてもいないのに整えなおす。そしてなぜか歌川は正座をしているのだ。


(ここは僕の部屋だ。なんでこんなに緊張している。おかしい、おかしい……)


「あの、歌川さん」

「はいっ」

「着替えたらどうです? スーツ、シワになっちゃいますよ。あ、手伝いましょうか。ジャケットどうぞ」


 振り返った虹富のなんと優しい表情だろう。歌川は勢いよく立ち上がり一歩下がった。眩し過ぎたのだ。


「いえ、大丈夫です。自分のことは自分でが私のモットーですから。あなたは食事の用意の続きを」

「歌川さんらしいモットーですねっ。じゃあ、引き続きキッチンお借りします」


(僕らしいモットー……な、なんだそれ。なんでそれがモットーなんて言ったんだ!)


 なんだか落ち着かない。着替えるにしても、何を着るのだ。歌川はそんなことで悩む日が来るなんて思わなかった。ここは自分の家なのに、しかも味気ない男の一人暮らしの部屋なのに、なぜこんなに世界がキラキラしているのか。

 歌川は隣の部屋にあるクローゼットの前で、フリーズしていた。


「歌川さーん。もうすぐできますからねー」

「あ、はい」


 歌川! しっかりしろ!


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