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7.脱獄宣言

「そうか…シルヴァンよ。報告ご苦労であった。」

 シルヴァンは王に報告をしていた。


 勇者候補達の現状の報告、及びこれから来ると言われた魔物の襲来についてを…


「レベルアップが順調でないのが心配だ。

更には勇者候補達が各自で行動するのも不安の要素だ…


 だが一番の不安要素は…」

 王はため息を吐く。アギト達勇者候補がここを訪れて以来、王はため息ばかりを吐くようになった。


「なぁシルヴァンよ…あと10日後に来る魔物についてどう考える?」


 シルヴァンはその事について考えていた。本来ならば犯罪者の戯れ言だ。

 取るに足らず報告をすることもない。


 だが泣きながら自身達に伝えたアギトの言葉がどうしても嘘には思えなかった。

「もしも彼が敵ならば、嘘で王都に戦力を集中させる。その間に他の街を進攻します。


 だが彼が味方であるならば、誰もまだ掴んでいないこの情報はとてつもなく重要な情報です。


 一番の問題は、その情報を手に入れられる程の有能な人間が、何故あそこまでの大犯罪を犯して捕まったかが分からない。」


 シルヴァンさえ王の前であるとわかっていながら、ついため息をついた。


「ならば勇者候補は王都に集結させて魔物を迎え撃ち、他の街は兵士達を向かわせるのがよろしいかと…」


 こうしてシルヴァンと王は王都をどう守るかの会話を続ける。



 アギトが捕まって4日が過ぎた。残すはあと10日。彼は少しずつ痩せ始めていた。

「今日のアイテムはぁ!」


 ネズミが持ってきてくれたアイテムを確認する。


「スキルポイントの種!よっしゃ大当たり。」

 スキルポイントが5だけ上がる果実の種。地中に埋めて果実にすれば10ポイントのスキルポイントを手に入れられる。


 この2日間でネズミが持って来てくれたアイテムは「腐った食べ物」「鉄屑」とゴミアイテムだった。


「はぁ…でもこんなんで大丈夫なのかな?


 ゲームだったら間違いなくリセットして新しく冒険を始め直しているよ…」


 でも現状右腕しか使えないアギトが助かるには、ネズミのアイテム収集に賭けるしかなかった。


「もっと効率的にアイテムを集められたらなぁ…」

 そんな呟きをするアギトの足をネズミが小突く。


<チュー>

 ネズミが何故か3匹に増えていた。


「もしかしてエサを与えた事で繁殖したのか?」

 絶望しかないこの状況で、一応は救いだった。


 本来ならばネズミの繁殖などは、衛生的にやってはいけない行動だが…


「スキルポイントは振り出しに戻った。もしもこの調子でスキルポイントを貯めれば鍵を開ける事が出来るだろう。」

ネズミに賭けるしかないが、可能性がゼロでない状況に少しワクワクしつつあった。


<カツカツ>

 足音が聞こえる。誰かがアギトの牢屋の前に訪ねに来ているようだった。


「隠れてな…」

 アギトはネズミをすぐに見つからない布の下に隠した。


「客人だ…」

 看守はアギトの元にクロエを連れてきた。


「え…クロエ?どうしてここに…?」

 アギトはおしゃれに気を遣う余裕はなくなっていた。

 それでもクロエの前では格好をつけるために、前髪を整えた。



「アギト…私どうしたら良いと思う?」

 クロエも少し痩せていた。更には涙を流した跡もあった。


 アギトはクロエの様子を見て、瞬時に状況を理解した。


 王都から勇者候補達が出ていったのだろう。

 王都周辺でレベルアップに適しているのは、自分とヴィオラのみ。


 だがヴィオラは不真面目であるため、こちらから導いてやらねばレベリングが難航する。


 いくら弱い魔物を倒しても、王都周辺ではそれ以外のメンバーでは十分な成長が出来ない。


「みんな王都を出ていったんだな?」

 アギトの質問にクロエはコクリとうなづく。


「みんながバラバラで…私はきっとリーダーに向いていない…


 ねぇ…どうしたら良い?」


(あと10日のみ…この状況で王都にメンバーを効率良く集めなければならない…)


 真っ先に思い浮かべたのは今回の討伐ではヴィオラを切り捨てる。


 彼女は序盤では使いにくいキャラだ。経験値を与えてレベルアップすることで才能が開花する。


 10日後の討伐で是非とも経験値を入れたいキャラだが、育たなければどうしようもない。



「大丈夫だクロエ…キミは経験が足りないだけだ。

 これからきっと……」



「あなたが私の何を知っているの?分かった風に言わないでよ!


 そもそもあなたがみんなのレベルを20以上なんて言わなければ、こんな事にならなかったのに…」

 クロエは両手の拳を握り、足をダンダンと地団駄を踏んだ。


(あぁ…そうか…


 俺は安全に彼らをイベントクリアさせたいあまり、クロエを苦しめていたのか…)


 アギトは悲しそうな表情をした。理想のクリアを目指す余り、彼女の心の事を考えていなかった。


 ゲームのキャラとしてしか、彼女を見ていなかったのだ。

 苦しんでいる彼女は生きている人間そのものなのに…


ゲームと同じ世界…

でも現実的な世界観と状況…


「クロエ…ごめん。俺がキミを苦しめていた…」


ゲームでは決して弱音を吐かなかった彼女は弱音を吐き、このゲームでは決して失敗しなかった筈の自分…


全く違う運命を辿っていた。


「あ…」


 アギトの悲しそうな顔を見て、クロエは彼に八つ当たりしたことを後悔する。

彼女の瞳から涙が溢れる。


でもアギトは悲しみを堪えながら、クロエに微笑む。


「クロエ、キミにこれから授けたい案がある。


 牢屋にずっといる俺の言うことは、にわかには信じられないかもしれない。

 この案で上手く行くかは分からない。


 でも今出来るベストな行動だと思う。」

 アギトは力強い瞳でクロエを見る。


「クロエ…だから俺と約束してくれないか?


 最後まで諦めないって!」


「約束?」

 クロエは涙を拭きながらアギトに聞いた。


「あぁ…約束だ。俺も諦めない!


10日後に必ずお前達を助けに行く!」


 正真正銘の脱獄宣言だった。この後クロエがこの発言を看守に伝えれば、彼はタダではすまされない。


「ぷぷっ」

 クロエは何故かアギトの言葉に吹き出してしまった。


「ねぇ…助けるって言っても、アギト君はずっとこの牢獄にいるからレベル1のままなんでしょ?」


 アギトのほっぺたは恥ずかしさの余り、少し赤くなった。

(どうしよう…つい俺が高レベルの時のような感じで話してしまった…)


「でもあなたの必死さは伝わった。


今はそんなあなたに助けられた。最後まで諦めない。」

 クロエはそう言って笑顔を見せた。


「だから聞かせて?その信じられない案とやらを!」


 クロエの瞳に光が灯る。ゲームでは見たことの無い表情。

 だからこそアギトはクロエ達がゲームのキャラである前提を捨てた。


 しっかりとした人間として、無理の無いレベリング法等を伝授することにした。

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