キャラメルナッツのパウンドケーキ
ミリス様が去り、私は手作りのお菓子と言う課題――ミリス様からの厳命に従い何を作るか頭を悩ませました。
こちらの世界のお菓子は、日本物とそう変わりありません。異世界なのにお菓子も食事も日本人の私の舌に合う物ばかりですので、私と同じ落ち人の中に料理人がいたからでしょう。
アレの好むお菓子ですか……何を作りましょう。家政婦業をやっていた経験からお菓子を作るのも得意ではあるのですが、如何せんアレの好みが不明です。私の好きに作って良いのかすらわかりませんね。
「んー。パイ系の方が長持ち? それならパウンドケーキの方が良さそうですね。パイは生地作りがめんど――時間がかかりますし、持っていくのに間に合わないですね」
ツラツラと作り方を考え、少しだけ手の込んだキャラメルナッツのパウンドケーキを作る事に決めました。
作るものが決まれば後は材料を買うだけです。
流石にホットケーキミックスはこの世界にないですから仕方なく薄力粉、バター、クルミとアーモンド、カシューナッツ、生クリーム、卵を買って、残すは、ベーキングパウダーとグラニュー糖なんです。
一時間ほど二つを探しまわり探したのですが、どちらも売ってるお店に辿りつけませんでした。
ですからベーキングパウダーは天然酵母――パンなどに使うふくらし粉で。グラニュー糖は砂糖で代用しようと思います。
材料を両手に抱え、寮に戻った私は寮管さんに誠心誠意お願いしてキッチンを借りました。夕飯を作る前までなので、急いで作ろうと思います。
作る工程は割愛です。
ピザ窯のようなオーブンから香ばしいナッツとキャラメルのいい匂いが漂ってきたので、中を覗き膨らんでいる事と中に火が通っていることを確認して、満遍なく焼き色がついたら出来上がりです。
さっくり割れたパウンドケーキは、きつね色でとても美味しそうです。
材料が余るのを防ぎたいかったせいかキャラメルナッツのパウンドケーキが四本も出来ました。
出来たケーキの一本は無理を聞いて下さった寮の管理人さんに。もう一本は窯の具合を見て下さったり、ナッツを炒って下さったシェフさんにお渡ししました。
「さて、部屋に持っていって冷えたら包装しましょう」
残り二本の内一本はアレに持っていくとして、残り一本は……どうしましょう? 先ほどのお礼代わりにミリス様にお渡しするか。この間のお茶会のお礼にマリアーヌ様にお渡しするか。それとも、いつもお世話になっているサイエンス先生に差し入れするか……悩ましいです。
「はっ! そうです。冷えたらカットして、袋に……ダメですね。ビニールがありませんし。貴族のお嬢様にたった二枚を持っていく訳には……いきませんよね。はぁ~、どうしましょう?」
机で冷やしているパウンドケーキを前に悶々と悩みました。
そして、思いついたのです。一本が二十七センチほどのパウンドケーキ二本を半分ずつに切り分け、四本にすればいいのではないかと。
「よし、出来ました。後は清潔な布に包んで……リボンをつければ……いい感じですね」
アレには青っぽいリボンを結び、マリアーヌ様は赤、ミリス様には黄色、サイエンス先生には緑で色分けします。
マリアーヌ様とサイエンス先生は明日にでも渡すとして、先にアレとミリア様の元へいきましょう。
決めるなり青と黄色のリ本がついた包みを二つ下げ籠に入れ、部屋を出ます。本当ならお風呂を済ませ、着替えてから行くべきところなのですが寮の玄関が施錠されるまで時間がありません。
職員用の寮の三倍は有ろうかと言う学生男子寮に着き、入口でアレに面会の申し込みを行い。立ち入り許可の書類を書きます。貴族専用の寮ですから、それなりに厳重です。
「では、お邪魔致します」
「一時間ほどで施錠になりますので、それまでにご退室下さい」
「わかりました」
ひとまず先に、アレの部屋の入口から右にある使用人用の小部屋に向かいます。そこは、ミリア様の部屋です。
一応アレでも公爵子息なので、学生寮とは言えアレには五人の従者の同室がゆるされています。――五人の内訳は、使用人が三人と護衛が二人。
「あら、リアさんどうなさったのですか?」
「ミリス様。先ほどはご助言頂きありがとうございました。これは、ほんのお礼ですので、食後にでもお召し上がりください」
「あら、まぁ! わたくしにまで……ありがとうございます。後で頂きます」
渡した布袋を持ち上げ匂いを嗅いだミリス様は、本当に嬉しそうに微笑まれました。
「では、お坊ちゃまの部屋を尋ねさせて頂きます」
「ご案内いたしましょう」
ミリス様が先導して下さりアレの居住区へ案内された私は、周りに分からないよう数回深呼吸をして気持ちを落ち着けます。
コンコンと扉を叩き、ミリス様が私の来訪を知らせるために入られます。許可が下りなければここで帰ることになるのですが、アレは即座に許可を出したらしく扉から顔を出したミリス様に入室を促されました。
流石と言いますか、何と言いますか。お金持ちの部屋と言った感じのリビングです。柔らかそうな三人掛けのソファーが二つと、一人が家が一つ。光沢ある黒の石を使ったテーブル。調度品もかなり良い物が揃っています。
昔仕事で行った富豪邸のような感じですね。
「お坊ちゃまは今お着換え中ですので、ソファーに座ってお待ちください」
「はい。ありがとうございます」
屋敷では見た事のない侍女さんがソファーを進めて下さいました。
アレが来るまでもう少し時間があるようです――。
来週は、引っ越しのため更新が難しいかもしれません。
ストックが出来れば、予約投降したいと思いますのでよろしくお願いします。




