第99話
自分達の周囲でさまざまな思惑が蠢いていることは知らずにダンとデイブは例によって未クリアのダンジョンに挑戦をしていた。
ここはレーゲンスから最も遠い場所にある未クリアダンジョンで5層までしかクリアされていない。その5層に降り立った二人は目の前の魔獣を見て
「なるほど。5層からランクAが出てくるのか」
「低ランクの層が少なかったな。これはちょっとは期待できるかな」
デイブとダンはそう言うと5層の攻略を開始する。ランクA単体の5層、6層をクリアすると7層はランクAが複数体いるフロアだった。その7層をクリアして一旦地上に戻った二人はその日はダンジョン近くで野営をすると翌日再びダンジョンに潜る。
8層、9層をクリアして10層に降りるとランクSのフロアになった。石で作られた暗い通路の先にランクSが立ってるのが見える。
「獣人のランクSか。図体がでかいだけだな」
階段から立ち上がってダンが言う。背後にいたデイブも立ち上がると両手に持っている剣が紫色に光出した。
「雷魔法かい?」
「そう」
エンチャントされた剣を持つデイブ。彼のスキルも上がっており常時エンチャントしても魔力の消費以上の魔力が供給されている。赤魔道士のジョブスキルがさらに開花していた。
「さっくりと行くか」
というデイブの声をきっかけに10層に進み出した二人。このフロアはランクS単体のフロアだったらしく二人は獣人を倒しながらフロアを隅々まで探していく。そうして通路の突き当たりで宝箱を見つける。開けると金貨が入っていた。
「50枚くらいかな」
そう言いながらアイテムボックスに金貨を収納すると再びフロアを探しながら攻略して11層に降りていく。ここもランクS単体だがフロア全体が広くなっていた。
迷路の様に入り組んでいるが二人は問題なくフロアの攻略を進めていく。ダンとデイブは交互に前後の立ち位置を変えながら剣を魔法で次々と獣人を倒してフロアを探索して12層に降りたところでこの日の攻略を終えた。
レーゲンスに戻ると既に掲示板に更新情報が貼られていたので早速二人に声がかかる。レーゲンスに長くいる二人はここの冒険者とはほとんど顔馴染みになっていたので、併設の酒場で仲間達と酒を飲みながら話をしていた。
明日は休養日としているのでゆっくりと酒を飲んでいた二人。ダンジョンの話がひと段落すると冒険者の一人が、
「デイブとダンはこの街の商会と何かあったのか?」
「ん?どう言うことだ?」
訳が分からないといった表情でデイブが言う。話題を振った冒険者がノワール・ルージュを取り込めないかと商会から相談を受けたんだよと言うと他の冒険者から俺のところにも話があったぞと言う。
彼らの話をまとめるとこの街の大手の商会から冒険者にノワール・ルージュを商会で取り組むという話が来て協力を要請されたらしい。ただ頼まれた全員が無理だと答えた様だ。
「お前らを囲い込むなんて絶対に無理だって俺達は知ってるからな」
「その前に俺達この街所属じゃないんだぜ?なんでそんな事をするんだ?」
デイブはそう言うと俺達もエドガー商会とか言う会社の制服をきた男について来いとか言われたが断ったけどなと付け加える。
「おそらくエドガー商会もランクSの冒険者を取り込んだらメリットがあるって判断でお前さん達に声をかけたんだろう」
聞いていた二人はそれでようやく道の真ん中で声をかけてきた男のその理由を知る。
「囲い込んでどうするつもりなんだ?」
黙っていたダンが周囲に聞く。
「おそらくだが高給を出して会社専属にして護衛をしたりダンジョンの宝物を回収したりするんだろうな」
みんなの話を聞いていたトムが言った。
「なるほど、商人の発想だな。冒険者の気持ちを全くわかってない」
デイブが言う。そして、
「俺達は自分が強くなるために冒険者をしている。どこかに縛られるなんて真っ平御免だよ」
その言葉に頷くダン。周囲の冒険者も同じ様だ。気ままにやるのが冒険者なのにさ、あいつら自分達のことしか考えてない。あれじゃあダメだぜという声があちこちから出ていた。
翌日は休養日で朝の鍛錬を終えた二人はそれぞれ別行動で時間を過ごしている。ダンは昼食を終えると一人でウィーナの店に顔を出した。
「今日は休養日かい?」
「そうなんだよ。とは言っても特に行くところもないしさ、邪魔しにきたよ」
「あんた達二人はいつでも歓迎さ」
そう言ってお茶を淹れながらウィーナはダンが来た事を喜んでいた。いつもはデイブと二人で主にデイブが話をする。ウィーナはもちろんデイブも好きだがいつも無口なダンが今日はどんな話をするのかとワクワクしていた。
「ダンジョン攻略はどんな具合だい?」
お茶を2つテーブルに置いて自分の前のコップを手に持って聞く。
「今挑戦しているダンジョンはようやく鍛錬になりそうなフロアに降りてきたところだよ」
そう言ってお茶を飲むダン。
「ところであれからどこかの商会があんた達にアプローチしてきたかい?」
「いいや、あれっきりだな」
そう言ってから俺たちには来なかったがこの街の冒険者の何名かが声をかけられたらしいと言う。
「俺達を取り込めるか聞いてきたみたいだ。ただ全員やめとけと言ったらしいけどな」
「そりゃそうだろう。冒険者を取り込もうなて土台無理な話さ」
「俺もそう思う。というか取り込められると思っているのが驚きなんだが」
「この街は大きな街だ。ヴェルスよりも大きいだろう?」
そう言ってウィーナが言う。大手商会が3つほどあり彼らがいつも市場を取り合いしているのがレーゲンスの実情らしい。
「そんな中Sランクの冒険者が街に来た。取り込むことができたら間違いなく市場を拡大できると考えるんだよ」
そう言われてもダンにはピンと来ない。その表情を見てウィーナが続ける。
「ノワール・ルージュが使っている武器や防具や装備品が自分達の店の商品だと宣伝するだけで冒険者の多くがやってくる。そしてお前さん達を使ってダンジョンから宝物を取ってこさせてそれを売ることもできる。なんて事を考えるのさ」
「ギルドでも言ったけど商人の勝手な思い込みだな」
とバッサリ言うダン。ウィーナも頷いて
「その通り。その発想そのものが冒険者を道具としか見てない証左さ。あんた達に話かけたエドガー商会の社長はスラムの協力を得ようとユーリーにまで話をしたらしいからね」
「本当かよ?」
その話を知らなかったダンはびっくりする。ウィーナは頷くと、
「もちろんユーリーはすぐに断ったさ。そしてやりすぎるとしっぺ返しを喰らうと逆に忠告したんだよ」




