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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第88話

翌日も軽くフィールドで体を動かした2人は夕刻に街に戻ってサムが泊まっている宿にいくとちょうどサムが木箱を荷台に積んでいるところだった。2人が手伝って残りの木箱を荷台に積み終えると、


「これがウィーナの店から仕入れた商品かい?」


「そうです。昨日も言いましたが売るだけじゃなくて仕入れもできるとは思いませんでしたよ。今日はここにもう1泊して明日の朝ヴェルスに向かって出発します」


「帰り道を護衛できなくて申し訳ない」


 ダンが言って頭を下げるとデイブも同じ様に頭を下げた。


「いえいえ、最初からその約束ですから。それにギルドで5人組のランクAのパーティを帰路の護衛として雇いましたのでお気遣いは不要ですよ」


 サムはそう言ってから顔を上げた2人を見て。


「お二人のおかげでこのレーゲンスでも大きな商売ができそうですありがとうございました」


「いやいや、俺達紹介しただけだから」


「そうそう。ウィーナと上手くいったのはサムの人格だろう?俺達は橋渡ししただけだよ」


 サムにお礼を言われてデイブとダンが恐縮してしまう。そうしてこの日もサムと3人でレストランで食事をした。



 翌朝デイブとダンは朝の鍛錬を終えるとサムの見送りに宿に顔を出すとちょうど荷台に馬を取り付けているところだった。2人を見つけたサムは


「いやぁ、わざわざきていただいて申し訳ありません」


「こっちが勝手に来てるだけだからさ」


 そうして準備ができるとサムが御者席に座って馬車がゆっくりと動きだした。

城門につくととこにはダンとデイブも知っている冒険者が立っている。


「よう、久しぶり」


 2人を見つけたランスが声をかけてきた。


「サムの護衛ってランスのパーティだったのか」


 デイブが言う。


「ヴェルスまでの護衛クエストさ。というかなんでお前たちがサムさんと一緒にいるんだ?」


 スコットが聞いてきた。


「サムがこっちに来る時の護衛は俺達だったんだよ。サムにはヴェルスで世話になってるからさ」


「なるほどそういう関係か」

 

 ランスが言うとデイブがサムを見て


「ランスのパーティが護衛なら安心だよ」


「なるほど。デイブさんのお墨付きなら問題ありませんな」


 そうしてサムとランスが打ち合わせを終えると


「じゃあヴェルスに戻ります。お世話になりました」


 サムが御者席に座ったままダンとデイブに礼を言う。


「こっちこそ、ランス!よろしく頼むぞ」 「気をつけてな」


「おぅ。任せとけ」


 サムの馬車と護衛のランスのパーティが城門から外に出ていくと2人は踵を返して通りを歩いてウィーナの店に顔を出した。


「サムは帰っていったかい?」


 店に入って勧められたテーブルに座るとお茶を置いたウィーナが聞いてきた。


「さっき出ていった。見送ってからここにきたんだよ」


「サムってのはなかなかの商人だね」


 と言った。


「ウィーナが気に入ってくれてよかったよ」


 デイブがそういうとそちらに顔を向け、


「いい人を紹介してもらったよ。必要以上に質問してこない。売り物を見たけどどれも良い物だ。そして価格も適正だった。誠意が見える商売人ってのは少ないからね。初めて会ったら普通は探りを入れる値段を出したりするものなんだけどそれもしなかった」


 ウィーナがベタ褒めだ。彼女は続けて言った。


「商談がある程度進んだところで聞いたんだよ。あんたならこの街にあるもっと大きな店に品物を売りに行けるんじゃないのかいってね。すると彼はこう言ったよ。この店はダンとデイブが出入りしていて彼らから紹介を受けた。彼らの事は100%信用している。そして彼らが良い店だと言えばそれは間違いなく良い店だ。だから何の問題もないとね」


 ダンはサムという商人の懐の深さに感心しながらウィーナの話を聞いていた。


「サムは俺達が住んでいるヴェルスに支店と倉庫を作った。レーゲンスへいろんな商品を持ち込みやすいからってな」


 デイブが言うとウィーナが頷いて、


「仕入れ先は多い方がいい。オウルでも必要だからね。ただだからと言って闇雲に仕入れ先を増やすことはしてないんだよ。でもサムの店経由なら安心だね。レーゲンスに持ち込んできた商品は今後も全部買い取ってもいいよと言っておいたよ」


 聞いていたデイブがウィーナ見て言った。


「サムはこの街で仕入れもできたと言っていた。ひょっとしてオウルのミスリルを彼に販売したのかい?」

 

 ウィーナが顔をデイブに向ける。

 

「デイブ、あんたいい読みしてる。その通りさ。店にあるミスリルを見せたら目の色が変わったよ。あるだけ買い取らせてくれって。それで出どころを言わない条件なら構わないよって言ったらそれは大丈夫だと言ってくれたよ。オウルのミスリルは私経由である業者に販売はしているが彼らの買取りできる数量にも限りがある上に万が一その業者に何かあったらその瞬間に販売先が無くなる。新しい販売先が増えるとオウルの人も安心できるしね」


 人物鑑定ができるウィーナだからこそミスリルの話を持ちかけたんだろう。お互いに良い関係になりそうだ。


「サムも売り買い両方できるのならこれからもレーゲンスに来る頻度は高いだろうな」


 デイブが言うとダンも上手く言ってよかったよと言う。

 飲んでいたお茶の入っているコップをテーブルに置くとウィーナが言った。


「それでいつからダンジョンに潜るんだい?」


「明日から未クリアダンジョンに挑戦しようと思っている」


 デイブが答えると鍛錬かい?と聞いてくるウィーナ


「鍛錬はもちろんだけどそれ以外に目的があるんだよ」


 その言葉に目的?と言いながらデイブを見つめてくるウィーナ


「アイテムボックスを探しているんだ」


 そう言ってデイブがいずれダンとこの大陸中央にある山脈の奥に出向くつもりでそのためには長期間保存できるアイテムボックスが必須になるんだよと説明をする。


「桃源郷とか黄金の都があるとか言われていて腕自慢が挑戦しては帰ってこないあの場所かね?」


 その通りと頷く2人。


「確かにあそこに行くならアイテムボックスは必要だろうね。街もないし食料や水をたんまりと持ち込む必要がある。魔法袋だと中のものは腐っちゃうからね」


「なので未クリアダンジョンに片っ端から挑戦しようと思っているのさ。ヴェルスの未クリアダンジョンはクリアしたんでレーゲンスにやってきたってこと」


「あんた達ならダンジョンのクリアは難しくないだろうけどアイテムボックスは本当に滅多に出ないって聞いてるよ」


 ウィーナの言葉に今まで黙ってデイブとウィーナのやりとりを聞いていたダンが口を開いた。


「もちろん簡単じゃないってことは俺もデイブもわかってる。でも可能性があるなら挑戦すべきだと思っている。それに山の中央部は逃げないからさ、焦らずに鍛錬も兼ねてダンジョンを攻略するつもりだよ」


 ウィーナは話を聞きながらこの2人ならひょっとしたらあの山の奥まで行って帰ってくるかもしれないと思っていた。今まで腕自慢と言われていた冒険者達も目の前にいる2人よりはずっと下のレベルだろう。ランクSS、それ以上のクラスの魔獣を普通に倒せる冒険者なんてダンとデイブくらいだろうねと。


 頑張りなよというウィーナの言葉にデイブがダンを見てから


「ところで実はヴェルスのダンジョンから出たアイテムを持ってきているんだけど、ウィーナに鑑定してもらえないかな?」


 見せてみなというウィーナの言葉を聞いてデイブが魔法袋から片手剣、腕輪、指輪、そして最後に大きな水晶の様な塊を取り出してテーブルに置いた。


 ダンが最後にテーブルに置いたその塊を見た瞬間にウィーナの目の色が変わった。



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