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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第78話


 翌日ヴェルスのギルドの掲示板にランクS昇格の通知が貼られ、それから間をおかずい大陸にあるギルド全ての掲示板にランクS昇格者としてダンとデイブの名前が貼り出された。


 2人をよく知っている冒険者達はやっぱりなと思い、そうでない冒険者達はこれは誰だと思い各ギルドのランクAから2人の実力を聞いてびっくりし、そして納得する。

 

 そうしてあっという間にダンとデイブ、ノワール・ルージュの名前が大陸中に響き渡っていた頃2人はワッツの店に顔を出していた。


「俺達が到達できなかったランクSになっちまったか」


「2人ともやるだろうとワッツも言ってたし、私もそう思っていたけど本当にランクSになったのね」


 ワッツの店には奥方のレミーもいて4人で店にあるテーブルに座って話をしている。そしてテーブルの上には2枚のランクSのカードが置かれていた。


「ダンジョンの下層でランクSSのフロアがあったからそこでじっくり時間をかけて鍛錬してたからだろうけどそんなにポイントが貯まってるなんて考えてもいなかったよ」


 デイブがそう言ってテーブルの上のお茶を飲む。


「そうそう。ギルドのポイントなんて全く気にしてなかった。強い相手がいてこれは良い鍛錬になるぞと毎日の様に相手してただけなのにな」


「だがな、ダン。その当たり前の事ができる奴が少ない。誰だって命の危険のある格上となんて相手をしたくないってのが本音だ。俺達だって冒険者の頃はせいぜいランクS相手に鍛錬をして腕を磨いていたくらいだ。ところがお前たちは2ランク、それ以上の敵を鍛錬の相手にしている。これはやろうたって中々できることじゃない」


 ワッツは2人が来る前にプリンストンから連絡を受けていた。プリンストンが直々にワッツの店にやってきていた。


 ダンとデイブがランクSに昇格したと聞いた時は、


「当然だな。それくらいの実力のある2人だ」


 と言った。


「お前が2人に二刀流を教え込んでくれたのもあるだろう?」


「自分で言うのも何だがそれもあるだろう。もともと身体能力の高い2人が剣を2本持てば攻撃、防御ともにその力は跳ね上がると思っていたからな」


「ワッツにはこの未来が見えていたってことか」


 プリンストンが言った。


「俺もレミーもあの2人は間違いなく俺たちを抜いてランクSになるだろうって話しはしていた。あいつらは本物さ」


 その言葉に頷いていたプリンストン。



 ワッツは目の前にいる2人を見ながらプリンストンと交わした会話を思い出していた。


「それで冒険者の最高ランクにまでなったんだが、これからどうするんだ?何か決めているのか?」


 ワッツの言葉に顔を見合わせるダンとデイブ。そうして少し間を空けてからデイブが言った。


「いずれ大陸中央部の山に挑戦してみようと話ししてるんだ」


 その言葉に黙って隣のレミーを顔を見合わせるワッツ。しばらくの沈黙のあとワッツが口を開いた


「桃源郷とかエル・ドラド(黄金の都)とかがあると言われている山脈の奥だな」


 ワッツの言葉に頷く2人。


「行って戻ってきた奴がいないと言われている未開の土地だ」


「知っている。俺達は別に桃源郷を探しに行きたい訳じゃない。あの場所ならダンジョンの地下のボスよりももっと強い敵がいそうな気がするんだよ」


 ダンが言った。


「鍛錬のために行くのか」


 ワッツがびっくりして言った。2人は大きく頷く。


「ただ直ぐに向かう訳じゃない。準備もいるしそれにあの山脈に入っていくにはアイテムボックスは必須だ。まずはそれを手に入れないとな」


 アイテムボックス。容量はほぼ無限と言われていて、そしてその中では時間が止まっており氷も解けない、肉も腐らないと言われている。


「街がないからな。長期戦になるのは間違いないだろう。となるとアイテムボックスが必須になると俺もダンも考えてるんだ」


 ダンが言ったあとにデイブが続けて言った。


「アイテムボックスか。確かにないと辛いわね」


 レミーもデイブの言葉に同意する様に言ったあとで、


「でも簡単には手に入らないわよ?」


「知っている。だから直ぐに山脈に向かうことにはならないだろうって言ったのさ。俺達はあの場所を目標にしているが準備が整っていないのに出向く気はない」


 ワッツとレミーがアイテムボックスの情報を集めてやろうと言ってくれた。お願いしますと頼んだ2人はワッツの武器屋を出るとその足で雑貨屋黒猫を訪ねて店主のミンにも同じお願いをした。


「わかった。何か情報を掴んだら教えてあげる」


 ミンの店を出た2人はヴェルス市内のレストランで昼食を取りながら話をしていた。2人はリッチモンドから戻ってきた時にギルドに顔を出した以来顔を出していない。しばらくはのんびりしようということと掲示板に自分達の昇格が張り出されているから数日は騒がしいから顔を出さない方が良いぞというデイブの読みに従っていた。


「普段の鍛錬はダンジョンの下層でやるとしてもアイテムボックスをどうやって手にいれるかだな」


「あてはあるのか?」


 ダンが聞いた。


「あてじゃないんだが情報を取れるかもしれないという相手は知っている」


 そう言ったデイブの顔を見たダン。目が合うと


「ウィーナだろう?」


 と言う。ダンもウィーナなら何か情報を持ってるかも知れないと考えていた。オウルの街への物資の輸送でアイテムボックスを使っているのを認めていたウィーナ。その時はそれ以上聞かなかったが今回はどうやって手に入れたのか聞けばヒントくらいくれるかもしれない。


「ウィーナもだがもう1人いるぞ」


 デイブが言うと誰だと言うダン。


「ラウンロイドの商人のサムだ。彼は商人であちこち動き回っている。商人のルートで何か情報を持ってるかもしれない」


「なるほど」


「まぁサムはそのうちこの街に来るだろう。それまで俺達はしばらくホームのここヴェルスで鍛錬しようぜ」



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