第73話 (レイクフォレスト)
レイクフォレスト
「ランクSS相手にたっぷりと鍛錬できたしボスも倒した。ヴェルスに戻る前にレイクフォレストに行ってみるか」
「そうだな。この街でもいい鍛錬ができたしな」
19層で鍛錬を繰り返した2人は20層のボスもあっさりとクリアする。ギルドにダンジョンクリアの報告をし酒場で仲間と酒を飲みながらの歓談を終えた2人は夜の街を宿に戻る道すがら話をしていた。
ボスはランクSSクラスの強さで、ボスがいるフロアの上の層でしっかりと鍛錬を繰り返してきた2人には全く問題のない相手だった。
ボスを倒して宝箱から魔石と腕輪が出てきたがギルドの鑑定だと腕輪は既に持っているものと同じだったので魔法袋に収納している。
2人が話しながら街中を歩いていると冒険者とすれ違う。この街の冒険者の中ではすでにノワール・ルージュの名前と顔は知れ渡っていて彼らは2人を見るとあれがそうだと言う視線で仲間内で視線を交わしている。模擬戦での実力及び今回のテーブルマウンテンでの出来事がケーシーらのパーティメンバーからリッチモンドの冒険者の仲間に広がっていき、それに合わせてダンとデイブの活躍も周囲が知ることとなった。
今やすっかり有名になっていた2人。
翌日の朝2人はギルドに顔を出すと受付でレイクフォレストへの道を尋ねた。
「休暇ですか?」
「そんなところ。息抜きしようと思って」
「ここリッチモンドの人はもちろん、それ以外の街の人も憧れる観光地ですからね」
受付嬢はそう言ってから、
「この街からレイクフォレストまで定期便の馬車が出ていてそれを利用することもできますが?」
「いや、2人でのんびり歩いていくよ。馬車は戦闘能力のない市民が使ってくれればいい」
受付の言葉にデイブがそう返す。
「ではちょうど2日後にレイクフォレストに向かう馬車があるんですがその護衛をされませんか?」
と受付嬢が提案してきた。
「リッチモンド所属じゃない俺達でも良いのか?」
「問題ありませんね。ランクBのパーティがクエストを受けているんですけどギルマスからランクBだけで大丈夫だろうかという話が出てましたから。お二人が一緒に護衛して頂けるのならギルドとしてもそちらの方が安心ですし」
そう言ってから受付嬢はちょっと待っててください確認しますからと奥に消えていった。2人が酒場で待っていると受付嬢と一緒にギルマスのウィンストンがやってきた。
「彼女から聞いたがレイクフォレストに行くんだって?」
テーブルの空いている椅子に座るなり2人を見て聞いてくるウィンストン。
「ダンジョンもクリアしたんでね。ヴェルスに戻る前に息抜きで行こうと思ってさ」
「なるほど。ならちょうどいい。彼女からも聞いていると思うが2日後に出る馬車の護衛をお願いしたい」
ギルマスのウィンストンから改めて頼まれた2人。
「俺達は構わないが、この街のランクAの冒険者がやりゃいいんじゃないの?」
この街でもランクAはそこそこいる。デイブがそう言うと、
「ちょうどランクAが出払ってるんだよ。テーブルマウンテンの護衛に行ってたり、あとはお前さん達がクリアしたダンジョンに潜ったりしていてな」
「護衛は行きだけでいいのか?」
黙っていたダンが聞いた。ギルマスはダンに顔を向けると、
「帰りについては向こうにあるうちのギルドの分署で聞いてみてくれ。ひょっとしたら帰りも頼まれるかもしれん」
「わかった」
2日後2人が城門に行くとそこには普段商人が使う馬車よりも2回りほど大きな馬車が並んでいた。馬車を牽引する馬も2頭だ。
そしてレイクフォレストに行くであろう市民が着替え等が入ったカバンを持って馬車の周りに集まっていた。
それを見るともなく見ていると
「こんにちは、よろしくお願いします」
という声が聞こえてきた。2人が顔を向けるとそこには5人の冒険者達がいた。
「今回この馬車を護衛するランクBのパーティです」
そう言って自己紹介する5人。
戦士のジョーダン、ナイトのキム、精霊士のヨアヒムが男性だ。
僧侶のミミと狩人のリンスが女性。
「ノワール・ルージュと一緒に仕事ができるなんて光栄ですよ」
とジョーダンが言う。彼がこのパーティのリーダーの様だ。彼の言葉に続いて他のメンバーもそうそう、聞いた時ラッキーって思っちゃったものとか言っている。
「俺達は後から護衛に参加させて貰ってる。気を使わなくてもいいからな」
デイブが苦笑して言うとキムが、
「いえいえ、ランクAだけど実質それ以上の実力者と言われている2人だ。遠慮なく指示してくださいよ」
そこまで言われると仕方ないなといった表情になる2人。
「レイクフォレストへの護衛の経験は?」
「今回が3度目です。前の2回もランクAのパーティとの合同でした」
「なるほど。道中はどうだい?」
「基本は安全ですがたまにランクBが単体で出てきます。前回護衛した時は行き帰りでそれぞれ1度だけランクBと遭遇したけど他は何もなかったですよ」
ジョーダンとデイブのやりとりを聞いていたダン。
「野営場所は決まっているのかい?」
聞いてきたダンに顔を向けたジョーダン。頷くと、
「4泊しますが全て場所は決まっています。いずれも荒野にある岩に囲まれている場所で火を焚いても周囲からは見えません。我々は岩の上や外側で周囲を警戒します」
「なるほどそれなら旅行客や馬車も安心だな」
大雑把な打ち合わせが終わった頃リッチモンドとレイクフォレストの間の馬車を運行している会社の担当者が現れチケットを確認しては乗客を馬車に乗せていく。20名程の乗客が荷物を馬車の後部の一角に置いてから次々と馬車に乗り込んでいった。
ジョーダンによると今回は馬車1台で20名程だがシーズンになると馬車が3台、時には4台と連なって移動することもあるらしい。
全員が馬車に乗り終えると運行会社の担当者がこちらに近づいて来た。
「揃いましたので出発します。護衛よろしく」
「こちらこそ」
そうして馬車と護衛の一行はリッチモンドの城門を出て一路レイクフォレストを目指して旅立っていった。




