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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第69話


「あの穴っぽいな」


 近づくと壁が壊れてその土や石が地面に散らばっている。その先には洞窟の様な通路が見えていた。


「ここまで掘り進んで、そして向こう側の壁を壊して繋がってしまったんだろう」


 デイブの言葉に頷くダン。デイブはダンを見て、


「奥から呼んでくるか?」


「ちょっと待て。この坑道で間違いないか俺が先に奥に行って見てくる」


「1人で大丈夫か?」


 そう言ったデイブだがすぐに


「愚問だったな」


 と言って笑う。ダンも任せとけというと1人で横穴に入っていった。

 ダンが壊れた穴を潜る様にして少ししゃがんで洞窟に入ると中は坑道と同じくらいの広さだった。ここは明かりは点いてないが先から光が漏れ入ってきている。どうやらこの洞窟はそれほど長くない様だ。


 真っ直ぐに伸びている洞窟を100メートルも歩かないうちに洞窟の出口が見えてきた。ダンは洞窟の中央をゆっくりと歩いて出口に向かう。途中には魔獣はおらずそのまま洞窟の出口に着いた。


 出口からみた景色はオウルの街でみた洞窟の出口と似ていた。荒野からテーブルマウンテンに来たので見えなかったがこのテーブルマウンテンのスロープがある側と反対側、今ダンがいる場所はテーブルマウンテンの背後にある山裾と繋がっていたのだ。


 出口に立って左手を見ると小高い丘になっていて外側からは中は見えないが普通に乗り越えられる丘だ。そして右手を見るとそちらは荒野が広がっている。


 そして正面には少し先の方に木々の生えている森があった。魔獣はおそらくこの森の中から出て洞窟に入って来たのだろう。


 ダンはもう1度ぐるっと周囲を見てから洞窟を引き返していった。ここで間違いないというダンの言葉を聞いてデイブが坑道を戻って広場で待機している連中を呼んできた。


 そうして集まってきたケーシーや作業員の市民を連れて坑道から洞窟を案内する。洞窟の出口で説明をするダン。


「ここを塞げば大丈夫だ。ただランクSクラスの魔獣を想定して頑丈な造りにした方が良いだろう」


 ダンが言うとケーシーらもそれがいいだろうと言うが、それを聞いていたテーブルマウンテンの住民であり作業員でもある彼らが戸惑いの表情になる。聞けば魔獣にランクがある、魔獣によって強さが違うということを知らなかった様だ。


「街から出ない、冒険者もいないとなるとそう言う認識になるよな」


「魔獣自体、言葉では知っていても見たことがない人も多いんじゃないか」


 ケーシーらのパーティメンバーが作業員に魔獣の強さ、ランクについて説明をしているのを横で聞きながらダンとデイブが話をしている。


 説明を終えると市民の作業員同士でどうやってこの入り口を塞ぐのが良いか話はじめた。そうして1人の男性が少し離れたところにいたダンら7人に近づくと、


「さっきは魔獣の強さについて説明してもらって助かった。それで具体的な作業なんだが」


 そう言ってからアイデアをいくつか提案してきた。鉄の扉でしっかりと塞ぐのが一番良い方法だがそれだと工事に時間がかかる。かといって簡単な方法だとまた穴から入ってくるかもしれない。


 結局洞窟の入り口に石を積み上げてそれをしっかりと固定することにする。街の城壁を作る時の材料もあるし石垣を強化するノウハウもあるという話に納得する冒険者達。


「洞窟を塞ぐ石は城内にあるが作業は明日になる」


 作業員が言った。


「構わない。俺達はここで夜通し見張ってるから明日来てくれればいい」


「わかった」


 そう言って作業員は明日の準備をするために坑道から市内に戻っていった。

 残ったのは7名の冒険者達。

 

 坑道の中にテントを広げ、持参している食料で夕食を取りながら話をしていた時にデイブがケーシーに顔を向けて、


「俺とダンが見張ってるからケーシーらは街の中に行ってもよかったんじゃないの?」


 そう言うと首を横に振るケーシー。


「いや。ここでいい。街に入れば俺たちは初めての外部の人間だろう。選民思想の強い住民が多いと聞いている街に入って不愉快な思いするくらいならここの方がずっと楽さ」


「今来ていた作業員も皆ここの住民でしょ?誰も安全な城内で夜を過ごさないかって言ってこなかったわね。内心では嫌がってるのが見え見えなのよ」


 ケーシーの言葉に続いて狩人のキャシーが言うと他のメンバーも頷く。


「最初に城門から出てきて挨拶してきたローブを着ている女性はまだまともに見えたが、その後ろにいた男性は軽蔑の眼差しで俺達を見てたしな」


 スピースがその時を思い出して言い、そして


「自分たちじゃあ何もできないくせにプライドだけは高い奴らと一緒にはいたくない」


 そう言うと皆その通りと大きく頷いた。


 坑道の中で交代で見張りをして夜を明かした翌日、彼らが広場で待っていると大勢の作業員が台車に石材や資材を乗せてやってきた。


 作業員は全部で20名程で、坑道に入ると前後を冒険者で固めた中を移動し洞窟の出口に着く。そしてダン達が周囲を警戒する中で洞窟の入り口を塞ぐ作業をはじめた。


 直方体に切り出された石を積んではその隙間をセメントの様な接着剤で繋いで強化しながら穴の周囲から作業をする。洞窟から向こうの景色がだんだんと小さくなっていき昼過ぎには穴が綺麗に塞がった。彼らは同じ作業を繰り返して石垣を2重にして強度を増していく。その日の夕刻にはがっちりと固まった石垣で洞窟の入り口は完全に閉じられた。


「これなら大丈夫だろう」


 出来上がった石垣を軽く叩いてケーシーが言う。他のメンバーも問題ないと言い洞窟を防ぐ作業が終了した。


 そうして作業員と冒険者全員が洞窟から坑道に戻り、地上に上がった時には陽は大きく西に傾いていた。



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