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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第65話 (テーブルマウンテン)

テーブルマウンテン


 ダンとデイブがダンジョンで鍛錬をしている頃、彼らがいるリッチモンドからから徒歩で20日ほど離れた場所にあるテーブルマウンテン。そこでは異変が起こっていた。


「投石するんだ。上から石を投げろ!」


「市内の城門をしっかり閉めろ!魔獣を中に入れさすな!」


 怒号が飛び交う中市民が自分に家に戻っては扉に鍵をかける。城門が全て閉じられると普段は人通りが多い街の中はほとんど人がいなくなり、市民は皆鍵をかけて家に閉じこもった。魔獣は城壁に近づくと城壁を叩き硬く閉じられた扉にも何度も拳をぶつけてくる。一方城壁の上には衛兵と呼ばれる者達が陣取り、城壁の上から岩や石を投げ下ろしているがほとんどダメージを与えられなかった。



「もう一度報告してくれくれるかな」


 街の中心部にある大きな神殿の様な建物の中で5人の男女が座っている。

 長方形のテーブルの正面席に老人が座っており、その右手側には男性が二人、左手側の席には男性と女性が着席している。全員が白くて丈の長いローブを着ている。


 会議室のテーブルの中央に座っている老人が声を出した。

 テーブルの右手の奥、老人から遠い席に座っている男が立ち上がって報告する。


「はい。今朝坑道で採掘をしていたところ、坑道の壁が突然崩れ、それと同時に壁の向こうから魔獣が姿を現して我々に襲いかかってきました。すぐに作業員を引き上げる様にしましたが壁の向こう側から次々と魔獣が押し寄せてきて坑道内にいた作業員はおそらく全員が死亡。入り口付近にいた作業員の多数も同じ様に魔獣にやられております。

 城門の見張りをしていた衛兵が鉱山地区での異変に気づいてすぐに鉱山側の城門を閉鎖、その後正面と南の城門も閉鎖しました。魔獣は市内には入ってきておりません」

 

「鉱山地区にいた作業員である市民は全員死亡したのかね?」


「安否は確認できませんがおそらく」


 その言葉に頷く老人。


「そして魔獣達はいまこの街の城壁の外側に集まってきているということだな。その数は?」


「報告を受けた時点で20体以上でした。今はさらに増えているかもしれません」


 老人がよろしいというと着席する男。老人は今度はこの会議室にいる全員を見渡すと、


「今の報告を聞くとこの街は現在は安全な様だ。ただ城壁の外側には魔獣が徘徊しており身動きができない。さてこの状況下で我々は一体何ができるのかね?」


 老人の左手前に隣に座っている男が発言を求めた。


「3日後に商人が広場にやってきます。商人は常に護衛の冒険者を連れてきています。彼らに魔獣退治をさせてはいかがでしょうか?商人も魔獣がいて商売ができないとなると困ると思いますのでこちらが何もしなくても奴らが退治してくれるのでは。この城門はしっかりしており3日程ならなんら問題はございません」


 その発言を聞いて別の男が手を挙げた。右手前に座っている男だ。


「それはよい考えですな。商人は日頃から我々が苦労して採掘した商品を売ってやっている相手だ。そして常に冒険者という下賤な職業のやつらを護衛として連れてきている。魔獣退治にはちょうどよい。下等な魔獣の処理は下賤な民の仕事ですぞ」


 この男の頭の中には自分たちがその商人から様々な生活用品や鉱山で使用する道具等を仕入れているというという認識は全くなかった。


 黙って聞いていた左手奥の女性が手を挙げた。老人が頷くと、


「冒険者を使うことは賛成ですが、彼らは商人の護衛がメインだと聞いております。魔獣退治となると別に報酬を準備した方がよろしいのでは?」


 女性の発言が終わるや否や即座に右手前に座っている男性、先ほど売ってやっていると言っていた男が軽蔑した表情で女性を見ながら発言した。


「何を仰っておる。下賤の民の中でも最下層に位置する冒険者に我々から報酬だと?恐れ多いわ。それに護衛ということなら商人が移動中に遭遇する魔獣の退治も含まれておるはずだ。魔獣が道中にいるかこのテーブルマウンテンにいるかの違いにすぎん。報酬は商人どもに払わせれば良い」


「つまり我々は何もしなくてもその冒険者達が勝手に魔獣を退治してくれると申しておるのかな?」


 老人が今発言した男性に顔を向けて言った。


「仰る通りでございます。我々からお願いするなどもっての外。黙っていても下賤の民が勝手に魔獣退治をするでしょう。でないと我々から品物を買えないのですからな」


 老人は頷くと女性を見る。


「ミーシャの言うこともわかる。彼らは金が全てだ。労働の対価として報酬を支払うというのも理解できる」

 

 そこで一旦言葉を切る。そして続けて言った。


「一方でセルゲイの言うのも理解できる。彼らが商売をするためには邪魔者は排除する必要があるからな。その邪魔者がたまたま我らが街の周辺におる。となると必然的に彼らは魔獣を討伐するだろう」


 長老の言葉に頷く3人の男性。女性が再び手をあげて発言する。


「城門の外にいる魔獣については畏まりました。一方で鉱山区では壊れた壁の向こうから通路を通って引き続き魔獣が現れてくると思いますがそれについては如何対処されますか?」


 女性の発言で他の男性達が言葉に詰まる。今そこにいる魔獣のことしか頭の中になかったのだ。


「ミーシャにアイデアはあるかな?」


「これこそ冒険者に報酬を与えて討伐させてはいかがでしょうか? 城壁の周囲の魔獣の討伐後に彼らに穴が空いた通路から中に入らせて魔獣を討伐させ、最後にその通路の出口を塞いでしまえばよいかと」


 顔を向けて聞いてきた老人を見ながらミーシャという女性が答えた。


「鉱山区は街の外側にある。この城内に入ってこないのならば今ミーシャが言った様に報酬をもって冒険者達に魔獣討伐をさせ、安全になったあとで我々がその通路の入り口を塞げば良いと思うが?」


 長老は大きく頷くとこの場にいる全員を見渡して言った。

 参加者全員が頷き方針が決まった。



 彼らは大きな誤解をしていた。


 1つは彼らが魔獣というものをよく知らなかったために魔獣という一括りで判断したことだ。実際には最初こそランクBクラスの魔獣が通路を通って侵入していたが今や穴からテーブルマウンテンに入ってくる魔獣の中にはランクAもおり、さらにはランクSクラスもちらほらと混じっていたのだ。


 そしてもう1つ彼らが冒険者や商人は金のためならなんでもすると思い込んでいることだ。商人にとってはテーブルマウンテンが危ないとなれば他の都市と商売をすれば良いだけの話だし、冒険者は自分たちのスキルと敵のランクを見て戦闘するか逃げるかを判断する。金のために命を落とそうとする冒険者などは存在しないのだ。


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