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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第59話


「お久しぶりですな」


 挨拶をしてソファに座るとそう話しかけてくるサム。


「あの後もヴェルスにはお邪魔しておるんですがお二人の姿は見えませんでしたな」


「ああ、1年近くレーゲンスに武者修行に行ってたんだよ」


「レーゲンスにね、なるほど」


 サムはヴェルスに行った際には必ずレミーの防具屋には顔を出している。そこで目の前の2人がレーゲンスに行っていることは知っていたのだがそんな素振りを見せず話のきっかけとして話題を振る。このあたりは流石に商人だ。当然目の前の2人がランクAに昇格していることも知っている。気にかけている冒険者の動向はチェックしていたのだ。


「それで今日は?」


「ああ、実はこれを鑑定してもらえないかと思って」


 そう言ってダンが魔法袋から腕力の腕輪を取り出した。テーブルに置かれた腕輪を手に取ってじっと見るサム。しばらく見てから顔を上げると、


「腕力の腕輪ですな。今お二人がしているものと同じ効果の腕輪です」


「そうか、同じ効果だったか」


 期待していただけにダンの言葉には落胆の匂いがしていた。それを見逃さずに何かあったのですかと聞いてきたサム。デイブが隣から


「いや、ダンがひょっとしたら同じ腕輪でも効果が違うかもしれないからギルドの鑑定以外にダブルチェックをしようと言ってね。この商会には以前お邪魔していたしダメ元で来たってこと」


「確かにごく稀に一見同じ装備でも効果が違うものがありますよ。腕力の腕輪だとすると今装備しているものより効果が大きいものとか、本当に稀にありますな」


「稀か、じゃああのダンジョンじゃ無理だな」


「そうだな。易しいダンジョンだったからな」


 2人はサムに聞かれるままにこのラウンロイドでクリアしたダンジョンの話をする。


「なんとランクSSのボスを2人で倒されたと?」


「いや、2人じゃないな。ダン1人だよ。部屋に入ったらボスがダンに襲いかかってそれを交わして剣を振ったら頭と胴が綺麗に2つに分かれて終わったからね。俺は何もしてないよ」


 デイブが笑いながら言う。冒険者との付き合いが長いサムでもランクSSをソロで倒したという話は聞いたことがない。


「ランクSSというかS以上SS未満の強さだったよ。たまたま俺が倒したけどデイブだって同じ様に1人で倒せるだろう。強くもなんともないボスだった」


 謙遜している訳でもない。自慢している訳でもない。淡々と話をするダン。そこには自分を強く見せよう、高く見せようという意思は微塵も感じられない。それは隣に座っているデイブも同じだ。だからこそ凄みがある。


 今まで見てきた冒険者達とは全く違う冒険者が目の前にいた。ワッツとレミーが言っていた通りだ。以前会ったときよりもさらに凄みが増している。


 「なるほど。とにかくこの腕輪については残念ながら今お二人が身につけている物と同じ物でした。ということでご不要なら金貨10枚で買い取りますがどうされますか?」


 金貨10枚と聞いて2人の表情が変わる。デイブがギルドで金貨8枚で買い取ると言われたというと


「ギルドの手数料がありますからな。全ての品物がそうじゃないですがこの腕輪の様にギルドの買取が安くなるものも中にはあります」


 デイブもダンもう〜んと唸っている。


「どうしましたか?」


 しばらくしてからデイブが口を開いた。


「ダンもおそらく同じことを考えていたんだと思うけど、俺達はギルド所属の冒険者だ。そりゃここはラウンロイドでヴェルスじゃない。とはいえギルドに世話になっているのは間違いない。高く買ってくれるからってじゃあお願いしますと言って良いものかどうか。世話になっているギルドを裏切る様な気がしてね」


「その通り。でも決めた。サムには鑑定までして貰って申し訳ないがこれはギルドで買い取ってもらうことにするよ。ギルドを裏切る様なことはできないよ。申し訳ない」


 頭を下げるダン。デイブもすまないと同じ様に頭を下げた。


 サムは2人の言葉を聞いてまた彼らに対するポイントを上げていた。仁義を重んじるのは商人の鉄則だ。その時々で自分の利だけを考えて行動する人間は信用できない。


 そう言う人間はここ一番と言う時に裏切ったり嘘をついてきたりするのを経験から知っているサム。


 目の前の2人は商人ではなく冒険者だがそれでも基本は同じだ。世話になっているギルドを裏切る様なことはしたくないというのは理解できる。


「いえいえ気にされずに」


 と笑みを浮かべたまま言う。


「お世話になっている方のことを考えるのは商人も同じです。人間としての基本ですな」


「そう言っていただくと少し気が楽になったよ」


 ほっとした表情でダンが言った。


「それで今回はどれくらいの期間ラウンロイドに滞在予定なんです?」


 買取の話はここまでとばかりにサムが話題を変えて聞いてきた。


「いや、今回はここが最終目的地じゃないんだよ。この先のリッチモンドに行ってみようかと思っていてね。あと数日で一度この街を出てリッチモンドに向かう予定をしている。もちろんリッチモンドからヴェルスに戻る時にはまたこの街に寄るけどね。まぁダンとは知らない街にあちこち行ってそこで武者修行しようって話をしててね、今回のリッチモンドもその1つってこと」


 デイブが言った。


「リッチモンドですか」


 そう言ってソファに座って天井を見るサム。顔を2人に戻すと


「私も商会はリッチモンドとも商売がありましてね。そろそろ行こうかと思っていたところなんですよ」


 そう言ってから2人を見て私がリッチモンドに行くまでの護衛をしていただけませんか?と聞いてきた。


「護衛?」


 まさかの言葉が出てきてびっくりする2人。


「ええ。リッチモンドまでの護衛です。往路だけでいいですよ、復路は向こうで冒険者を雇いますから」


 澄ました顔をして言うサム。


「でも俺達2人なんだけど?」


 ダンが言った。


「数は関係ありませんな。役に立たない冒険者が10人いるよりは優秀な冒険者2名の方が我々もずっと安心できる」


 そうしてダンとデイブはクエストとしてサムの馬車をリッチモンドまで護衛することになった。



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