第53話 (ヴェルス)
ヴェルス
ヴェルスに戻った2人はギルドに顔を出した。扉を開けて2人が中にはいるとそこにいた冒険者達が声を出す。
「DDだ」
「しばらく見なかったがどこに行ってたんだ?」
「レーゲンスに武者修行にね」
冒険者と声を交わしながらギルマスのプリンストンとの面談を求める2人。案内されてギルドマスター室に入ると
「久しぶりだな。レーゲンスから戻ってきたのか?」
「さっき戻ってきたところだよ。城門から直接ここに来たんだ」
「お疲れだったろう」
「ちょっとね。流石に荒野の長旅はきついよ」
そうしてレーゲンスでの話をする2人。話を聞き終えたギルマスのプリンストン、
「向こうでもダンジョンクリアしたのか、まぁお前らなら普通かもしれんな」
「いや、結構難易度が高くて苦労したよ」
そう言うとダンも
「確かにきつかった。でもいい鍛錬になったよ」
と続ける。その後雑談をして席を立つときにプリンストンが
「当分はここにいるんだろう?」
「そうなると思う。またよろしく」
カウンターに戻ってきた2人は知り合いから誘われて酒場に移動する。そうして酒やジュースを飲みながら集まってきた冒険者と近況報告をした。
「レーゲンスでもダンジョンクリアしたのか」
「それも未クリアのダンジョンだろ?」
主にデイブが話をしダンが隣で聞くといういつものスタイルだ。2人はレーゲンスの周辺の魔獣の様子やダンジョンでの話を聞かれるままに答えていく。
「ところでレーゲンスから来ていた奴らは?」
話が一区切りついたところでデイブが聞いた。
「あいつらは今はラウンロイドに行ってるはずだ。せっかくこっちまで来たから足を伸ばしてくるよと言ってな」
なるほど流石に冒険者だ。強くなるために武者修行は必要だ。井の中の蛙大海を知らずとならないためにもあちこちの街へ行って腕を磨くべきだとダンは思っている。
ダンとデイブが酒場で盛り上がっている頃、受付嬢はギルマスの部屋を訪れていた。そして2人のギルドカードの記録について報告をする。
「レーゲンスでランクSSを相手にしてたのか」
報告を聞いてびっくりするプリンストン。
「それも凄い数です。しかもダンジョン最後のボスはそのランクSS以上です。私もトリプルSの討伐記録を見たのは初めてです」
しばらくの沈黙のあと、
「ランクSに昇格するポイントは?」
とプリンストンが聞いた。
「相当溜まっています。このヴェルスのランクAの中でも最高のポイントになりました。ランクが2つ以上の格上とこれだけ戦闘しています。護衛クエストなんか足元にも及ばない位のポイント数を稼いでいますから」
「そうなるな。あの2人は今までの常識を完全に覆している」
2人は自宅のアパートに戻ってゆっくりと休んで疲れをとった翌日は休養日にして2人でワッツの武器屋に顔を出した。
「久しぶりだな。レーゲンスでもしっかりと鍛錬してきた様だな」
ワッツは2人をみるなりそう言ってからダンにレミーを呼んできてくれと言う。同じ報告をするのなら一度で済ませた方が良いだろう?ということらしい。
レミーがダンと戻ってくるとデイブが向こうでダンジョンをクリアしてきたことを話してからテーブルの上に2本の剣を置いた。
剣を置くなりほうと声をあげるワッツ。横からレミーもその剣をのぞき込んでいる。
「なるほど、この剣が2本でたのか。このクラスが出るということはそれなりの難易度のボスを倒しているということになるな」
それなりとワッツは言っているが内心では目の前の2人の実力がさらにアップしていることを感じ取っている。
まずデイブの剣を持つワッツ。デイブがレーゲンスのウィーナから聞いたエンチャントの話をすると、
「他のジョブをやっている奴らの中で赤魔道士のジョブスキルについて知ってる奴は少ない」
「ワッツとレミーは知っていたのかい?」
デイブの言葉に頷く2人。
「レーゲンスでも聞いたかもしれんが赤魔道士のジョブスキルが実戦で使えるレベルになるまでスキルを上げられる奴は少ない。ほとんどいないと言ってもいいくらいだ。俺とこいつが冒険者だった時にも1人だけだ。そいつはソロでエンチャントと魔法で敵を倒しまくっていた」
「ほとんどの赤魔道士の人は自分たちのジョブスキルはハズレスキルだと思ってる。そうして実際にそのジョブスキルを体感しないままに歳をとって引退していく人がほとんどよ。でもその壁を越えると今ワッツが言った様に常時エンチャントして剣で与えるダメージが増えるの」
ワッツの後に続いてレミーが言う。そうしてワッツが今のお前なら常時エンチャントでいけるだろう?と聞くと頷くデイブ。
「これでまた強くなれるぞ」
そう言ってから今度はダンの剣を手に持った。じっと見てからその剣をレミーに渡す。彼女もじっと剣を見てそうして顔を上げると、
「凄い剣ね。この店にある一番良い剣と同じ程度の剣じゃない?」
と言って剣をダンに返した。
「レミーの言った通りだ。この剣は普通じゃ見ない程の剣だ。見てくれはそれほど業物には見えないが威力と切れ味が桁違いだ。この剣でダメージを与えられない敵はいないだろう。ダンにピッタリじゃないか」
「確かにダンジョンボス、ランクSSより上の魔人だったがそれに対しても全く切れ味とダメージが変わらなかったよ」
ダンの言葉にこの剣ならそうなると当然だなという表情をするワッツ。
「この剣で暗黒剣士のジョブ特性があればほぼ永久機関並みになるぞ」
「そしてデイブは常時エンチャントか、2人ともまた強くなったわね」
尊敬するワッツとレミーに褒められてダンもデイブも悪い気はしない。その後レミーが一旦店に戻ると新しいローブとズボンを持ってきた。今のよりもまた効果が上がるらしい。
「値は張るけどそれだけの価値はあるわ。今考えられる防具でも最上級クラスよ」
そうして2人は防具を購入し、また一段高みに登っていく。
ひとしきり防具と武器の話が終わったところで
「これからはどうするんだ?また武者修行に出るのか?」
「少し休んだら今度はラウンロイドからリッチモンド方面に出向いてみようかなと思っている。知らない街に行くと生息している魔獣が違うから鍛錬になるんでね」
デイブの言葉に頷く2人。
「お前さん達はこのヴェルスで燻ってるレベルじゃない。どんどん外に出て強い敵を探して鍛錬すればさらにレベルアップするだろう」
その夜ワッツとレミーは食事をしながら話をしていた。
「とうとう抜かれたな」
「でもそれが嬉しいんでしょ?」
ワッツの言葉に悪戯っぽく返すレミー。
「まぁな。いつまでも俺たちの時代じゃないんだ。いつ、誰が俺達を抜いていくかと思って見ていたがまさか2人組の奴らとは流石に思わなかったが」
「まだまだ伸びるわね、あの2人は」
レミーの言葉に大きく頷くワッツ。




