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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第46話


 ダンとデイブは案内された子綺麗な部屋のソファに座ってジュースを飲んでいた。


「俺達の仕事はオウルの鉱山の坑道での魔獣退治だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 デイブが言うとダンも、


「その通りだ。相手が強そうだから楽しみなんだよ」


「ダンらしいな」


 暫くすると扉が開いて準備ができましたというので立ち上がる二人。廊下に出るとウィーナが二人を待っていた。


「当たり前だけど城門からは出ないよ。あんた達だから秘密の通路を教えても大丈夫だろうしね」


 そう言って3人が屋敷の様な家を出るとスラムの細い路地を少し歩いて今度は物置に毛が生えた様なボロボロの平屋の家の前に着いた。ウィーナが扉をノックする。


 中から扉が開いてどうぞと言われて中に入る3人。あっさりと扉を開けてくれたところをみると覗き窓があるのかそれともスラムの中では部外者の動きはあちこちから見られているのか。3人が家にはいると背後の扉が閉まりそのまま奥の部屋に案内される。そうしてその部屋には二人の男が立っていて3人を見ると軽く頭を下げてくる。


「一緒に行く連中さ」


 二人とも年は20代の後半だろうどこか剣呑とした雰囲気を持っている男だが殺気は感じられない。

 部屋に案内をした男が部屋の床板を外すと地下に降りていく階段が見えた。


「暗いから注意してください」


 そう言って男を先頭に、ウィーナ、デイブ、ダン、そして二人と順に階段を降りると薄暗い地下道を歩いていく。数百メートル程歩くとそこには上に上がる階段があった。


 先頭を歩いていた男が天井のはめ板の鍵を外してゆっくりと板を横にスライドさせて頭を出して周囲を見渡してから頭を中にいれて


「大丈夫です。どうぞ」


 その声を聞いて順に地上に上がっていくとそこはレーゲンス街の外にある荒野でゴロゴロしている岩の背後、街からだと反対側に階段の出口があった。いい場所だ、荒野にある大きな岩の背後に出口を作っているのでまず見つからない。


 全員が外にでると案内してきた男が階段に半分体を入れてお気をつけてと言ってから外したはめ板をしっかり留める。中から鍵をかける音がすると同行する二人が板の上に周囲の砂をかけて板が見えない様にした。


「行こうか」


 砂をかけ終えたタイミングでウィーナが声を出し、5人は夜の荒野をオウル目指して歩き始めた。


 5人ともほとんど荷物がない。皆魔法袋を持っているので歩く速度は普通よりやや早めだ。ウィーナも歳を感じさせない足取りで歩いていく。


 そうして外に出て3時間ほど歩いた頃に


「ここらで仮眠しよう。ダンとデイブは見張りは不要だよ。この二人が交代でやってくれるから」


 ウィーナの言葉に


「見張りは俺達でやりますんでごゆっくり休んでください」

 

 同行しているうちの一人が初めて口を開いた。


「手に負えないと思ったらすぐに起こしてくれて構わないから」


 デイブが言って二人はテントの中に入っていった。



 翌朝各自で朝食を取るとテントを畳んで荒野をまた南に向かって歩き出す。他の街と街との移動と違ってここには道がない。文字通りの荒野の中を5人は歩いていく。周囲に緑はなくたまに緑よりも茶色に近い色をしている低木が生えている場所があるがそれ以外は一面土と岩の世界だ。


 歩いていると右前方に狼の野獣の姿が見えた3頭が固まっていてこちらを見つけると一斉に襲いかかってきた。


 同行の二人が剣を抜くがそれを制するとダンとデイブが魔法を撃って2体の頭を吹き飛ばし、残りの1体もデイブの2度目の精霊魔法で頭が吹っ飛んで絶命する。


「雑魚だろう?」


 魔獣を見ても歩みを止めずに前を歩いているウィーナが言うと、


「ランクBクラスかな。雑魚だよ」


 ウィーナとデイブのやりとりを聞いていた二人の男は黙って顔を見合わせていた。旅立ちの前に荷物を魔法袋に詰めている時に彼らの上にいる男、そうユーリーがスラムで一番腕が立つと言っていた男が二人を前にしてこう言っていた。


「一緒にオウルに行く2人の冒険者には絶対にからむな、俺でも勝てない程あの二人は強い。腕試しの様な軽い気持ちで突っかかると次の瞬間に死んでるぞ」


 その時はわかりましたと返事をしていた二人だが、目の前で遠くにいる敵を無詠唱の精霊魔法で倒す二人を見て言葉が出ない。ウィーナと雑魚だなと言っているが圧倒的な力の差を見せつけられていた。


 その後は日に1度程度ランクBの魔獣が一行に襲い掛かろうとしてきたがことごとくデイブとダンの精霊魔法で近づく前に倒されていく。


 そうして荒野を歩くこと18日目、一行の前に高い山々が見えてきた。そこで立ち止まったウィーナは後ろを振り返ってダンとデイブを見て、


「もうすぐだよ。あの山に沿って右手の方向に歩いていくんだ」


 再び歩き出す一行。その2日後の昼前に山と山との切れ目、谷間になっている場所に大きな城壁が見えてきた。


 その城壁を見た時にダンはどこかで見た記憶があるなと思った次の瞬間思い出す。

 ダムだ。あれはまるでダムの様だ。

 

 実際にはダンが覚えていたアーチ式ではなく直線に城壁が作られており、その高さも本当のダム程高くはないがそれでも今まで行った街よりはずっと高い城壁が谷間を防ぐ様に立っている。


 確かにあれだと1箇所の城壁だけで十分だろう。左右の山々は険しくそして連なっていて山越に街に入るのは不可能だ。


 近づいていくとさらにはっきりと城壁が見えてくる。高さは10メートルではきかず地面から聳え立つ様に立っている。鉄と石を組み合わせて作ってある城壁は堅牢に見える。


「ようやく着いたよ」


 そう言ってウィーナは城壁に近づいていった。近づかないとわからないが城壁の下、地面と接している場所に扉が付いている、通用門の様だ。そしてその近くには覗き窓の様な小さな枠に囲まれている窓が見えた。


 ダンとデイブはウィーナのあとに続いて城壁に近づきながら周囲を警戒していた。ウィーナが同行しているとは言え何が起こるかわからない中では気を緩めることができない。


 ウィーナが近づくと覗き窓が少し開いてそこから声がする。


「今扉を開けます」


 そうして窓が閉まるとすぐに鉄の扉が内側に開かれた。ウィーナの後にデイブ、ダン、そして同行の2人と城壁の内側に入っていくと背後で扉ががっちりと閉まる音がする。


 城壁の中、オウルの街に入った2人は目の前の景色を見て驚愕する。


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