「卑弥呼さんの文通相手は、CaoCaoの孫:三国志展」ー九州国立博物館(福岡県)
実は、私と相方は『三国志』が大好きです。NHK人形劇『三国志』の放送をリアルタイムで観て育った世代で、横山光輝御大のマンガ、吉川英治御大の小説にもはまっておりました。アニメや映画版『レッドクリフ』も大好きです。
もちろん、あれらは『三国志演義』――歴史を題材にした娯楽小説から派生したもので、史実ではない、ということは承知しています。中国古代史に興味をもつきっかけとなりました。
二〇一九年、三国時代の考古学的史料――特に、魏武王こと曹操の陵墓発掘の成果を公開する『三国志展』が開催されました。東京(七月~九月)と福岡(十月~一月)の国立博物館にて。特集番組が放映され、ネットでも話題になり、楽しみにしていました。
十月、私達は九州国立博物館へ向かいました。この日のために私は宮城谷昌光御大の『三国志』全十二巻(文春文庫)を読破し、高校生の娘には人形劇『三国志』のDVDを観せて布教し(川本喜八郎さんの美麗な人形を観た娘は、「なにこれ、イケメン♥」と大興奮していました)、小学生の息子には特集番組をみせて中国の弩や投石器に興味をもたせ――予習をしたうえで臨んだのです。
福岡市といえば、国宝「金印」や黒田官兵衛ゆかりの展示で有名な福岡市立博物館や太宰府天満宮など、みどころ沢山な都市です。ですが、今回は『三国志』に的をしぼり、国立博物館を目指しました。
ふんぬっ(`・ω・´)←気合★
(注*:以下の文章は『三国志展』に到着したいちファンの、かなり浮かれた観光記録です。ご容赦ください。)
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初めて訪れた九州国立博物館は、全面ガラスばりの壁に映る青空が美しい、かまぼこ型の建物でした。「はあ~( ゜Д゜) すごい」と見惚れる時間を惜しんで中に入り、エスカレーターで展示会場へ。既に行列ができていました。
中国から「一級文物(国宝)」品が多数出展されているのですが、なんと写真撮影OKです。いいんですか? 中国さん。太っ腹!……と、わくわくしながら臨む私たちの前に、いきなり関羽さまが。
『三国志演義』で「身長九尺三寸、髯長一尺八寸」と描写されたほぼ等身大、青銅の関羽さまです(明代、十五~十六世紀)。鎧姿が凛々しいだけでなく、「どの方向から観ても目が合う」という解説そのままの美・関羽さまで、くらくらしました(*ノωノ)……なんかもうお腹いっぱいな気分になりつつ、先へ。壁画や写本、彫刻にえがかれた『三国志演義』の世界と神格化された関羽さまの説明などを拝読した後は、考古学の世界へ進みます。
曹操・劉備・孫権それぞれのルーツを示す文物――曹氏一族の墓から発見された煉瓦。劉備の祖・中山靖王劉勝の墓の副葬品(一級文物)。孫権の呉の王墓から発掘された土製の船など。――見学したのちは、漢王朝の王墓の豪華な副葬品へ。
石製の獅子、琥珀や瑪瑙の装飾品、太平道や五斗米道といった原始道教教団が用いた「天帝使者」の印(厨二心が刺激されますな!)。青銅製の儀仗俑は小さな兵馬俑で、当時は鐙がまだなかったことが判ります。埋葬用につくられた道具(明器)には青銅器や、鏡と鏡台、穀倉楼などがあり、人間や犬までついていて当時の暮らしが想像できます。いずれも後漢・二世紀の文物です。
青銅製の弩やマキビシ、青銅と鉄の剣・矛・戟、鏃や太刀は、フィクションの物より小ぶりで細い印象でした。実際に三国時代(三世紀)に用いられたものを観られるのは感動です。長江を運行し、「赤壁の戦い」で必ず登場する木製軍船の模型もありました。
関羽も授かったという「偏将軍印章」の金印や、呉の武将・朱然の墓に副葬された漆器を眺めた後は、三国の文化を紹介するコーナーへ向かいます。
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【蜀~雲南】
蜀の南方、雲南の地は後漢時代(三世紀)に漢人豪族が支配しており、諸葛亮(孔明)がこれを攻めた記録が残っています。この地の豪族・孟氏の墓には、青銅の印章や鐎(酒を注ぐ器)、酒壺、灯台などが納められていました。
【曹休の墓】
曹休は曹操の甥にあたります。呉との闘いで戦死した彼の墓からは、「曹休」の名を描いた印章や金銀象嵌の帯鈎(バックル)などが出土しています。
【魏の富裕層の墓】
黄河流域~北岸の地を治めた魏の富裕層の墓からは、金印や定規、硯、紙、青銅製の鏡、すごろくに似たゲーム六博盤、鼎や鐎、井戸や豚小屋の模型、石碑のかけらなどが出土しています。
日本にも渡った銅鏡に似た鏡を観ると、テンションがあがりますヾ(*´∀`*)ノ
【蜀の俑】
蜀の墓に納められた人形「鎮墓俑」には、踊っている女性や琴を奏でる男性、料理人、かっこいい犬などがあります。大型犬の俑は写実的で、現代に売られていても不思議ではないと思えました。ワンコ欲しい……。
お寺から出土した画像石には、西王母や九尾狐、三本足の烏などが描かれていて、中国神話の世界を表現されています。墓に何故西王母が?と思いましたが――この時代(後漢・二世紀)は、まだ仏教が伝来していないのですよね(*_*)
【呉の名刺・青磁・化粧道具】
湖南省長沙市から三国時代(三世紀)の呉の竹簡と木簡が大量に出土しています。船の装備やコメの管理に関するものなど、行政文書だったようです。また、呉の王墓からは古代の名刺にあたる「童子史綽」が出土しています。『○○再拝、問起居』と姓名とあいさつ文を書き、字と本籍地を書いていました。長さは二十四cm(当時の一尺)です。当時は身分のある人に面会を求めるときには名刺をさしだす習慣があったので、あの世で使うために副葬したようです。
胡粉をひいたと思われる化粧盤(現代の硯にそっくり)は、鏡や釵(髪留め)のそばに納められていました。書字のための硯は、当時は円形のものが多かったようです。
まるっこいフォルムが可愛らしい羊尊、蟹や亀がたくさんついた壺など、呉の青磁のデザインは独特です。どれも死者のための明器でした。
【「山越」の文物】
呉の南部、現在の広西チワン族自治区の山岳地帯に暮らしていた人々は、漢族とは違う文化をもっていました。太陽の光芒をかたどった文様の周囲に鳥や蛙、騎馬像などを配置した銅鼓は、彼らが祭祀儀礼で使ったもののようです(呉~南北朝・三~六世紀)。
古代中国では鉛とバリウムを主成分とするガラス製品がつくられましたが、広東省と広西チワン族自治区ではカリ硝石と石英を原料とするカリガラス製品がつくられました。カリガラスは微量の銅や鉄を含み、半透明の青緑色を呈します。後漢・一~三世紀につくられたガラス盤、連珠などの装身具が残っています。
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■曹操高陵
二○○八年~九年にかけ河南省安陽市で発掘された曹操の墓陵です。古記録の場所に発見され、副葬品に「魏武王」と記した石牌があったことなどから同定されました。盗掘に遭っていますが、頭蓋骨も発見されたそう……。『三国志演義』では悪役な曹操ですが、実は名君であったと最近は評価されています。
本展示会の中心ですからね。会場のほぼ中央に立体的な模型を配し、観客がイメージしやすいよう演出されていました。副葬品はとても質素。曹操自身が「遺体を飾ってはならぬ。金玉珍宝のごとき宝飾品も墓に入れてはならぬ」と遺言したそうです。
石牌や土製の鼎、青磁の壺(罐)、世界最古といわれる白磁の罐、銀製の飾板、玉と瑪瑙の装身具、画像板……などです。
薄暗い展示場を息を殺して見学していたところ、娘が「かおかお♪ かおかお♪」と囁きはじめました。いったい何事かと問うと、
「曹操、CaoCaoって書いてある」
本当だ……( ゜Д゜)
日本では曹操で通っていますが、あちらでは「CaoCao」なんですね……。なんか可愛い(違う)イメージが(違う)……(;^_^A
曹操高陵の展示物を拝見したあとは、魏の文帝(曹丕)が欲しがった「鮮卑頭」と呼ばれる華麗な金銀細工、白玉細工の帯先金具を拝見。魏の曹植(曹丕の弟、曹操の息子)の副葬品であった玉製品や土器を観てから、蜀の大墓へ。
■蜀の大墓
後漢・二世紀に蜀の地に築かれた墓には、墓主は不明ながら大型のものが多く、揺銭樹のような独特の副葬品があります。
青銅製の巨大な揺銭樹には、銅銭、西王母、鹿にのる人物などの像がついています。死後に仙人になれるように、財に恵まれるように、といった願いや信仰を表しているそうです。台座にも怪獣(辟邪?)や鳥、龍、ヒキガエル、霊芝(仙人の好むキノコ)などがついています。
■呉の大墓
現在の南京市、呉の首都であった建業で発掘された王墓には、金製の指輪、青磁器などのほか、棺を置くための台「虎型棺座」が納められていました。大きな牙をむいた虎ですが、どこか愛嬌があって可愛らしく見えます。
◇◇
……展示をひととおり眺め、「晋平呉天下太平」磚(二八○年、南京市の地方豪族の墓室に用いられた磚で、晋が呉を滅ぼして三国時代が終わったことを記している)まで来て、しみじみ感慨に浸っていると、
横山光輝御大の『三国志』の原画が! 「桃園の誓い」が!( ゜Д゜)
川本喜八郎御大の『三国志』の人形が! 曹操が、劉備が、孔明が!( ゜Д゜)
ずらりと展示してあり、私は倒れそうになりましたよ……(@▽@;)こんな最後にもって来るなんてヒドイ、いや嬉しい、いややっぱりヒドイ(←どっちなんだよ・汗)
すっかり舞い上がってしまった私は、冒頭の関羽さまのフィギュアと、図録と「幸せの黄色いハンカチ」(嘘です。太平道の黄色い頭巾です)を購入して帰路につきました。
コロナ禍で海外旅行なんて当分できそうにありませんが、機会があればまた拝見したい内容でした。(あの時、もう二~三回通っていれば良かったなあ(ノд-。)クスン)
参考図書:
「三国志 THREE KINGDOMS-UNVEILING THE STORY」東京国立博物館・九州国立博物館・NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社:編(美術出版社)
「川本喜八郎 アニメーション&パペットマスター」(角川書店)
「三国志」宮城谷 昌光(文春文庫)
「三国志の考古学―出土資料からみた三国志と三国時代」関尾 史郎(東方選書)
「漢帝国―四〇〇年の興亡」渡邊 義浩(中公新書)
「三国志の世界―後漢 三国時代」金文京(講談社学術文庫)
「戦争の中国古代史」佐藤 信弥(講談社現代新書)
「古代中国の24時間―秦漢時代の衣食住から性愛まで」柿沼 陽平(中公新書)
「中国古代の貨幣:お金をめぐる人びとと暮らし」柿沼 陽平(歴史文化ライブラリー)




