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地味顔悪役令嬢?いいえ、モブで結構です  作者: 空木
第5章 姫巫女が遺したもの
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 目が覚めてから、障壁を張り直して、少し時間が取れたところで、与えられた部屋に戻る。カーテンから家具まですべて白いその部屋の中で、唯一白くないのは、私の持ち物だ。


 エルデ王国から持ってきていたカバンを広げて、その中からノートを探し出す。何冊かあるノートの中から、今までお姉様と共に調べた内容をまとめたものを取り出した。少し厚みのあるそれをぱらぱらとめくり、オールディス家についてまとめたページを探す。


 やがてページを探し当てると、その中でも家系図にあたる部分を辿った。こうして改めて読んでみると、やはり王家派閥の家から婿入り、嫁入りしていることがよくわかる。一通り目を通していき、一番上までたどり着く。そうはいっても、前回私たちがたどることのできていた中での一番上だ。


「やっぱり……オリヴィア・オールディス。ここに名前がある」


 私たちが文献や、オールディス家の記録を見ながらたどることができたのは、オリヴィア・オールディスという人物までで、その父親、母親については記載がなかったのだ。夢の内容を信じるのであれば、彼女の両親は、初代国王陛下と姫巫女様。


 このように、実際に記録に残っている人物が出てきたことを考えると、今まで見てきた夢はただの夢ではなく、姫巫女様の記憶で間違いないだろう。


 ノートを片手に、部屋の隅に置かれている椅子へと座る。目の前のテーブルに用意されているペンを手にすると、新しいページを開いて、今までの夢の内容を整理して書いていく。


「……オールディス家の地下室」


 そういえば、先日クリフから聞いた話では、お姉様が辺境伯領に何やら持ち込んでいることにより、戦況が思ったほど悪化していないと言っていた。もしかして、その地下室とやらに、持ち運べるサイズの何かがあったのだろうか。


 本当に何か有用なものが置いてあったのだとしたら、夢の信憑性は上がるだろう。


「でも、どうして両国が手を取り合うための古代遺物が、あのような戦争の道具に……?」


 家庭教師が目の前にいたら怒られそうな少し崩れた体勢で考え込む。姫巫女様の話では、どちらかと言えば戦争を終わらせるための古代遺物のように思えたのだが、現在、あの古代遺物からは光が放たれており、当たればひとたまりもないという状況だ。要するに兵器として使われている。


 これは、姫巫女様が意図していた使い方なのだろうか。


「あぁ、もしかして」

「もしかしてどうしたの?」


 驚いて小さく声をあげて、振り向けば、クリフがそこに立っていた。


「あの、ノックくらいしてくださっても……」

「何回かしたよ。気が付かなかったみたいだから、心配になって開けちゃったんだけれど」


 どうやら、私が気が付かなかっただけのようだ。


「それで、さっきの独り言は?」

「あぁ、それは……」


 彼が扉を閉めて、ソファーに座ったことを確認してから、口を開く。


「エルデ王国の王城にある石碑について考えていました」

「あれか……」


 そういえば、クリフもあの古代遺物についてはよく知らないと言っていたな、などと思いつつ、話を続ける。


「はい、姫巫女様の夢を見て、あの古代遺物を使用すれば戦争を止めるための糸口になるかもしれないと思って考えていました」

「どういうこと?」

「まだ考えがまとまっていないのですが、姫巫女様のお言葉では、どうにもあの古代遺物の本来の力は、古代遺物の力そのものを無効化するもののようです。詳しいことが分からないので、その範囲であったり、どの程度の効果があるかはわかりません。それに、今はその古代遺物が兵器として使われているので、そもそも姫巫女様のお言葉が本当であったかもわかりません」


 タイミングよく轟音が響く。あれが本当に古代遺物を無効化するものなのだろうか。


「……古代遺物を無効化」


 私の説明を、どこか上の空で聞いていたようで、彼がぽつりとつぶやいた。何か心当たりがあるのかと思って顔をあげてみたが、いつもよりもぼーっとした表情をしている。少し不思議に思いつつ、そのまま彼を見ていると、はっとしたようにこちらに気が付いた。


「ごめん、少し昔のことを思い出していたんだ」

「何か心当たりが?」

「いや……役に立つようなことは何も」


 そう言った割には、どこか上機嫌なように見えるが、それも気のせいだろうか。そのことについて考えようとして、ふと思い出した。戦争とは直接関係がないが、前から少し疑問に思っていたこと。その答えを見つけてしまったような気がして、しかし、ただの推測に過ぎないと思って頭を軽く振る。


「どうしたの? 雑念でも振り払ってた?」


 面白がってそういうクリフをジトリと見ても、彼は軽く笑うだけである。


「……クリフは、古代遺物が無効化されることについてどう思う?」

「うん? そうだね。ミカニ神聖王国としては、今でも古代遺物を使用しているところがあるから、最初は不便に感じるかもしれないけれども、特に問題はないと思うよ。それに、古代遺物が無効化されれば、停戦になる可能性もあるだろうね」


 クリフの言う通り、現在、この戦争は古代遺物の使用が中心であり、人はそれほど投入されていない。一斉に使えなくなれば、両国とも混乱状態になるだろう。すぐに戦争が再開される可能性はもちろんあるが、少しの間だけでも停戦になる見込みはある。


 それにもう一つ。


「クリフ個人の意見としては?」

「え? だからさっきも言ったけれど――」

「そうじゃなくて、()()()()()()()()を聞きたいの」


 私の言葉に何度か瞬きを繰り返す。私の思い違いだったかなと思ったのと同時に、彼がへらっと笑った。


「……なんだ、気が付いてたんだ。別に僕個人としても問題ないと思っているよ。むしろありがたいくらいだよ」

「そう」


 彼の答えを聞いて満足する。彼が、先ほど古代遺物の無効化という言葉に反応して、少し上機嫌になったように見えたのは、気のせいではなかったらしい。


「エルデ王国に戻る?」

「……戻って城の古代遺物を使いたいところだけれど、いくつか問題があるの」


 まず、私がここを離れれば、障壁の張り直しができなくなる。血を置いていくことも考えたが、時間が経つと凝固してしまうため、古代遺物に使用できなくなる。そう考えると、数日間ここを離れるのは難しい。


 二つ目に、仮に私がここを離れたとして、私と同じ目的を持って古代遺物を使用してくれるエルデ王国民を探さなければならない。辺境伯領に行けば、誰かしら手伝ってくれる人は見つかりそうだが、ここで三つ目の問題が出てくる。


 そもそも、私も、私に協力してくれそうな人も、現在はエルデ王国と対立しているのだ。何も考えずにエルデ王国内に入って城を目指せば、途中で捕らえられたり、最悪の場合、殺される。城の石碑までたどり着くことはこの上なく難しい。


 頭を悩ませている私をしばらく見ていたクリフが、そっとドアを開けた。何となくそちらを見てみれば、なぜか扉の前には聖職者たちが集まっていた。


「障壁のことはご心配なく。ミルドレッド様ほどの力はありませんが、数人で力を合わせれば、障壁を張ること自体は可能です」


 いつの間にか敬語に戻っているクリフの言葉に、あぁ、そうかと頷く。確かに、ミカニ神聖王国民であれば、古代遺物を使用する力を持っているのだ。その力がやたらと強いのが姫巫女の血筋というだけで、数人で集まれば、同じ効果を出すこともできる。


「我々にお任せください」

「どうかご心配なさらず」


 扉の向こうに控えていた彼らが、次々と声を上げる。その様子を見て、一つ目の問題については解決できそうだと判断する。問題は二つ目と三つ目だが、二つ目についても、辺境伯領にたどり着けば、何とかなるだろう。最後の城を目指す部分が難しいが、この場にこれ以上とどまっていても状況が改善することはない。


 リスクを伴うが、一度辺境伯領に行ってみて、王城を目指せるか相談した方が良いのかもしれない。向こうには、お姉様もいる。もともと私よりも頭の回転が速い彼女であれば、何か解決策を出してくれる可能性はある。


「ありがとうございます。解決できるかはわかりませんが、一旦辺境伯領に行って、相談してみます」

お読みいただき、ありがとうございます。

次回の投稿は本日の夜ですが、仕事が長引いた場合は日付を跨ぎそうです。

よろしくお願いいたします。

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