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電脳ハンターヒロユキと、感情自律型AIシリーズの、伝送路悪魔 討伐記  作者: 秋野PONO(ぽの)
序章 彼らの愛の証明、そして赦しとは

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第2話 ベラケレス編 愛の証明

 電脳ハンター専用のAIはその使用者に似る、と、皆言うのだが、エイコは絶対に違うと思ってる。


 エイコは朝が苦手だ。正確に言うと眠るのが怖い。


 新しい朝、自分は自分か?いつも確かめてしまう。身体、記憶、ちゃんと昨日と地続きの「自分」だろうか。


 しかし、腹立つことに、わが相棒の政府専用回線4002番担当AI・ベラケレスは、朝から元気いっぱいなのだ。


――本日の朝ミーティングを開始します。ファシリテーターは政府専用回線4002番担当AI・ベラケレスがお送りします。

まず午前中。昨日の夜間無人監視結果の解析をお願いします。その後、「ちびっこ、春のわくわく首相官邸・都庁見学会♪」の後のお楽しみ会のための回線開放と監視をお願いします。


 わぁ。とっても良いイベントですね♪日頃縁のない……


「要点っ!頼むから要・点だけ伝えて!つか、うるさい。ボリューム下げろ」


――もう。エイコは朝弱いですね。知ってますよ。夜チェスの反復練習してるでしょ。この間の勝負累計150回負けたの気にしてるんですか?大丈夫!少しずつ保つようになってきてますよ!その調子!


「うるさいうるさい。あんたただのAIの癖になんでスーパーコンピュータ並みに強いのよ。てか将棋だったら負けないし。私日本人だし」


――スーパーこんぴゅた……。あんな一点集中のデクノボウと比較しないでくださいよ。伝送路最強回線AI ベラケレスさんですよこちらは。


ああ。うるせぇ。感情再現度パフォーマンス下げて機能優先モードの機械音声に戻してやろうか。


――あ。ひど。共有回線でつぶやきましたね今。


 そんなエイコに朝のお得な豆知識を一つ。

 朝、すっきり目を覚ますにはコーヒーを1杯飲むと効果的だそうです。こんな仕事ほっぽってお茶しましょうエイコさん。

 渋谷に20年以上続く、マスターが一人で経営するコーヒーの超絶おいしい店があるってこの間監視カメラ担当のサオリが。ぜひ一緒に……


 ……あっノイズ。やめてっ。ブツっ。


「まじで一回死ね。もう、さっさと仕事始めよう」


※※


「いやぁ最近平和でうれしいねぇ」

――そういうのを表す法則?がありましたねエイコさん。暇だと言うととたんに忙しくなる、みたいな。なんでしたっけ。マーフィーの法則?


「しらん。だいたい……」


 空気が揺れた。ぶぅん、という電子音。


 温度のないはずの電脳空間に、吹雪が叩きつけような冷気が走る。

 あまりのタイミング、一気に体が冷える。エイコは知らずブルりと震えた。

 

「……まじ?ベラケレス。10時の方向。確認を……」


ベラケレスの反応は早い。


ーもう行ってます。

 トラフィック監視モード。悪魔種類2番グリーンファントム状況、捕捉 消去しますか。

――すみません割り込み報告します。

 加えて悪魔種類69番ネメシス状況、加えて……ごめんなさい名称を省略します。

 エンダー補足、全2433体。現在補足継続、対象増加中。


「んん。何それ!アホみたいな数……とりあえず、溢れないように規制……!」


――それは完了しています、マイ・マスター。

 政府専用回線4002番、20%の通信規制を掛けました。

 警戒中、段階的に規制を上げます。

 ……状況を更新。悪い報告です。タスク割り込み…緊急…エマージェンシーモードに移行。

 エンダーが増殖しています。段階規制を中止し、一気に80%規制にします。完了。状況を分析中。

――これは、ブロードキャストストーム?


「電脳嵐か。教科書でしか見たことない……!」


――はい。宛先不明パケットが増殖して通常伝送路まで圧迫してます。

 マスター、早めに自動判断モードに…確認しました。ありがとうございます。

 さて、強制通信を開きます。一般緊急回線18番専用AI、アンバーへ。ベラケレスより。

  現在、強制的に回線を開いています。

 アンバー、アンバー、聞こえますかこちらベラケレスです。緊急事態発生。

 そちらの回線を30%貸しなさい。これは申請ではなく命令です。制御はこちらで行います。

 大丈夫。本日の関東一円は晴天。台風、土砂災害、地震等無し。そちらの伝送路使用率は5%以下です。


 余裕ですよ。


アンバーと相棒アリスのわめき声が背景に聞こえるのだが、気にしたら負けだ。それより…。


「……これより、電脳ハンター統括 エイコ・ヤン・風上(かざかみ)の権限により、政府、警察関連、全組織の最新情報へのアクセス権を付与します。

 電脳緊急事態条項14条に同意します。

 また関東全回線へのアクセス権、および一帯の警視庁監視カメラ映像へのアクセス権も付与することとします。

 続いて、申請、取得した全権限を政府専用回線AI、ベラケレスに移譲します。承認。

 ……任せたわよベラケレス」


――日本をぶっ壊せる権限が我が手に。

 ヒリヒリしますね!お任せください。

 演算領域を40%まで解放、アンバーの回線をハックし、政府緊急回線に空きを確保しました。

 残りの演算領域のうち30%を関連施設の捜索に回します。

 ……本騒動の原因を発見しました。都庁、21階でループ攻撃を受けたスイッチを確認。

 また、12階でケーブルを所持した逃走中の男を認識。


 ……どうやって紛れ込んだのでしょう。


 警視庁4課には連絡済みです。


「……ああああ……。それって「ちびっこ♪春のわくわく首相官邸・都庁見学会♪」じゃない!?親も入れるしっ。まったく!最近の日本はどうなってんの?!前代未聞よー!」


――逃走中の男を逮捕、および原因スイッチの交換まで済みました。


「ふぅ……」


――想定外。予測を上回るスピードでエンダーが増殖しています。エンダーがエンダーをコピーしている。倍々ゲームです。

 AI研究所の所長・ヘンリーから緊急通信要請がありましたが、スキップしました。

 余力がありません。


 暫定対処として不明パケットの宛先をすべてベラケレスに設定しました。これでしばらく保ちます。

「……ただちに演算領域を拡張する。申請、エイコ・ヤン・風上の領域をベラケレスに接続してください。」


――拒否。その申請はマスタ権限により拒否されました。

 あと2分で発熱誘導爆発が起きます。

 代わりにベラケレス本体のルート領域を解放します。5億体のエンダーの捕縛を完了しました。


 また、1体分の逃走ルートを確保しました。1分も持ちませんのでお急ぎをマスター。


「ちょっとぉ……!」


――ルート領域が解放されたため、人格再現用のプログラムをスリープし機械音声が復元されます。

 マイ・ハニー、エイコ。ごきげんヨウ。また会う日マデ。


エイコが逃走ルートに強制的に乗せられた直後、伝送路4002番は大爆発した。


※※

 大爆発事件から4日後の午後であった。ヒロユキは遅刻の謝罪に出向いたAI研究所のヘンリーのデスクで鬼の形相をしているヘンリー所長に話しかけた。

「よっ所長様。ディザスタリカバリー中かい?しかし例の一件、さすが最強AI ベラケレスだよな。

 すさまじい爆発音だった。

 あれで使用者生き残るかよ。

 てかコリンダーじゃなくてまじよかった」


「おう。ヒロユキ。俺様のことは復旧の鬼と呼んでくれ。バックアップ伝送路への切り替えなんて1分で完了したよ。

 ……今は顛末書と報道規制作業中。こっちの方がきついって。あいつならベラケレス用のサーバ室だぞ。ぜーんぶこっちにぶん投げで、あいつはベラケレスの復旧作業だ」


「え。復旧すんの。細胞5兆越えの高性能AIを?あの大爆発から?

 ……変態かよ。作り直した方が早いって絶対」


「もう4日もサーバ室にこもってる。まぁ初めてじゃない。くそ。あいつ。スーパーコンピュータ2台と予備PC20台、書庫からかっぱらっていきやがった。書庫空っぽ……。おまけに俺のノーパソ4台まで……。追いはぎかよ……」


「まじすか?オレ休みでよかった。

 んで所長様はそのちぃせぇタブレットで顛末書書いてんの。ご愁傷様」

「文字が小さい。目がきついて……。……ああもうものすごい腹立ってきた。もう絶対あいつが泣いて謝ってくるまで次の論文通してやらん!今決めた!」


「ほう。型破りな天才、エイコ女史の次の論文タイトルなに?興味あるなー俺も読みたい」

「……。「AIに哲学書読ませてみた」口にするのも恥ずかしい。……ったく。ラノベじゃねぇぞ」

「……ぶっ。ぶははっ。やっぱエイコ天才だな!才能の無駄遣いの!」


※※

 サーバ室のモニタの前で、エイコは復旧作業の続きを行っていた。

 慎重に。慎重に細胞ブロックをあるべきところにつなぐ。4日眠ってないのでちょっと目がしょぼしょぼする。


 スーパーコンピュータに基本性能はバックアップしてあるとはいえ、最新データ含め流動細胞データのブロック配置は職人技なので手繋ぎだ。


――復元率99パーセント到達。起動しますか?


 スーパーコンピュータの機械音声が告げる。

「もう少し、99.98パーセントまでもっていくわ。…よし。完了」

 AIの復元では、100%まで接続しないのが定石、必ず99%~99.99%までにとどめておくように。師匠の教え通りだ。エイコの腕ならば100%復元は可能だ。


 しかし、AI復元では基本それをしない。残りの1%の何かに魂がこもってるとかなんとか。


 くだらない迷信だ。サーバ室に神棚が置いてあるやつ。あれと同様の。


 だが、どうしても無視しきれない。電脳ハンターとはそういう生き物だ。


「もうまじで嫌い。この作業。あんたがあんたでいられるかの境界線。どうしようかね。目が覚めたら全く違うあんただったら?つかAIの眠りってどうなってんの?」


 超高度化電脳社会になっても、私達には、わからないことだらけだ。


 この瞬間がものすごく嫌いだ。というか怖い。

 迷っていてもしかたない。さあ起きなさい眠り姫!(ただし男)

 起動ボタンを押す。

 サーバ室のスクリーンに映像がともった。


――おはようございます。なんと美しい方。目の僥倖です。ぜひ、私とお茶しましょう。

「……いいわね。渋谷になんかいい喫茶店あるらしいわよ。親友に聞いたの。

 でも、その前に…仮眠させて……」

エイコはにやりと笑い、机に突っ伏してさっそく眠りについた。


なんなら明日まで眠り通したっていい。

何度だって、夢から覚めてみせよう。

ベラケレスさんは、プライドが高くて皮肉屋さんですが、エイコに対してのみ限定で従順なワンちゃんですので、この話では明るい彼しか出してないかもしれません。

ベラケレスさんの、こいつ性格ワリィなエピソードはep16へどうぞ。

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― 新着の感想 ―
おお…やっぱりバリバリIT系じゃないですかぁぁ〜 こんなにもロマンチックなディザスタリカバリ、見たことないです!!!
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