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電脳ハンターヒロユキと、感情自律型AIシリーズの、伝送路悪魔 討伐記  作者: 秋野PONO(ぽの)
終章 異変…そして。愛とは…

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第12話 お仕事そっちのけー回線増設任務ー1

ここからは、ちょっと連続の話になってきます。最初はいつものドタバタ。

AI研究所ウェストの、濃い、うるさキャラ達の(笑)わちゃわちゃ話もお楽しみください。

「ヒロユキさんずるいわぁ。惚れてしまうやん…。」


 ま・ず・い。そう気づいたときには逆地雷を踏みぬいていたことに気づいたヒロユキだった。


※※


 さかのぼること1日前。

「ウェストのAIは「感情値多め」な奴らが多いんで、結構すぐ怒り出されたり、逆に惚れられたりする。基本的には気のいいやつらではあるけど。そこだけ気を付けてくれ」

 ウェストのAIと協業でのミッションに当たって、AI研究所のヘンリーが、開口一番注意したのはそんな内容だった。


「感情値多め」のAI。なんじゃそら。聞きなじみのない単語にヒロユキは首を傾げた。


「てか、それどうやって気を付けるんすか……」

「とりあえずお前だけでも冷静さを忘れないでってこと。なんかウェスト側が、どうしても先日アナログ回線で手伝ってもらった、借りを返したいらしい。強引に入れられちまった。エクスポ2050も無事終了して暇になったんじゃね?ちょうどこれが明日からの任務の内容だ」


「ほぉい。ま、エンダー狩りも飽きてきたんでたまにはいいんすけど。…ってなんだこれ。回線増設計画?」


「そ。伝送路のK区画、C区画が、容量足りないんだそうだ。増設回線用の装置を設置するためエンジニアが配置しに行ったんだが、あのあたりエンダーが多くてな……。みんな逃げ帰ってきちまって……」


ヘンリーがため息をつく。


「これを持って行って設置すればいいのね。1,2,3……げ。12個もあんじゃん。こりゃコリンダーと二人だとめんどくせぇわ。ウェストのハンターと半分ずつやればいいってことね。助かるじゃないっすか」


 ヒロユキはテーブルに並べられた小さな箱型の回線装置を、ポンポンとたたきながら言う。

 一つ一つはティッシュ箱程度の軽さ、重さなので持ち運びも簡単だ。

 しかし、12個もあると、物質体になってもらってコリンダーと半分ずつ持っても多い。

 何度か往復してもいいのだろうが、K地区とC地区は行き方向が途中まで同じなので、何度も戻るのがめんどくさい。


 まぁ、感情値多めって言われてもピンとこないけど、いきなり殴りかかってきたり怒鳴ってきたりするようなやつらじゃないよね。

 仮にも電脳ハンター試験通った精鋭なんだし。

 にぎやかなのは嫌いじゃない。


 ウェストのハンターに会うのも初めてだったヒロユキは、楽観的、どころか少々楽しみだなと思っていたのだ。


 ……この時点では。


※※


 ウェストのハンター達は、回線端の入口ですでに待機していた。物質体調整中だったため、体ありで入口に来たコリンダーに気づくと、礼儀正しく頭を下げて、人懐こそうな笑顔を向けてくる。

「鍋島ヒロユキさんとコリンダーさんですね。AI研究所ウェストの天地渉(あまち わたる)です。

 こっちが相棒のイレーション」


 天地が通信用のモニタを付けると、大画面で女性の動画が映し出される。

――おっはよう!ヒロユキさん?イレーションいいます。あっ!あんたがコリンダーさん!やぁん。実物見れて感激っ。あんたさん2045年製やんな?あたしもおんなじ!同じ会社やったら同期やってんにな。残念過ぎるって思ってた!


 大音量の声にコリンダーが攻撃を受けた時のようにブルブルっと震えて後ろにのけぞった。

 しかしすぐに、耳のボリューム調整ボタンではなく、こっそり腰の後ろの全制御パネルから受話音量を下げて、ほほ笑んだ。


――よろしくお願いします。イレーション。お会いできてうれしいです。どうぞ、コリンダーと呼び捨てでおよびください。回線内調整は順調ですか?

――うん。もう終わったよ。こっちちょっと電圧強いんね?調整苦労したわ。


※※


 ヒロユキ・コリンダー、ワタル・イレーションの豪華メンバで、本日の任務は楽勝になるはずだった。

 入口奥の会議部屋で4人は回線装置の設置順番や役割振りについて話合う必要があり、会議部屋の鍵を開けて中に入る。

 会議部屋は電脳ハンターの作戦立てのためにあつらえた部屋で、ハンター以外は入室ができない。

 通常は、必ずここで作戦立てをしてから出ていくことになっているが、真面目にそれをこなすハンターはほとんどいない。部屋からは、しばらく使っていない、かび臭いようなにおいがする。


「さて。ヒロユキさん。コリンダーちゃん。さっき挨拶で握手できんかったから改めて。よろしく。イレーションです」

 イレーションは物質体の右手を差し出すとヒロユキとコリンダーと握手する。イレーションは身長150センチ程度しかないため、170センチ超えのコリンダーは、かがんで握手を受ける。


「ええなぁ。コリンダーちゃん。スタイルいいし、何より名前かわいいわぁ。なんで私らこんな名前なんだろう。イーストの名前かわいいやんなぁ。ミーシャとかエンジェルとか……。エンジェルとかもう私やん…!ウェストの研究者センスなさすぎやわ!」

 イレーションのあまりに立腹ぶりに、名前には思うところあったヒロユキは、ちょっと同情心が湧いてしまい、慰めてしまった。


 褒めてしまった。まず、これがいけなかった。


「あはは。いや。イレーション。めちゃくちゃいいと思うけどな。まず響きがかっこいい。そのくせ、意味が喜び、幸せ、ご機嫌って意味だよね。

 ご機嫌な女の子なんて、いつでもそばにいてほしい。完璧すぎる」

 え。とイレーションのおしゃべりが止まった。

「……ヒロユキさん優しいなぁ。ずるいわぁ。惚れてしまうやん……」

 冒頭の言葉である。イレーションは、ヒロユキからぷいと顔を背けて、ぼそぼそとつぶやいた。


  まずい、ヘンリーの忠告が無駄になった。余計な一言で。


  ただ、これは崩壊の決定打ではなかったはず、とあとになってヒロユキは自己弁護した。

 その後、ワタルとイレーションが大げんかを勃発させなければ。



「万一の事考えてコリンダー・ヒロユキ組でK地区にしましょか。設定はAutoコンフィグなので、私ら線つなげばいいだけなんだけど、一応エンダー多いし、万一考えてコンフィグ設定資格持ってるコリンダーちゃんがいた方がええな」


「異議なし。イレーションはエンジニア資格持ってなかったか」


 きっかけはワタルのこの一言。


 これがイレーションの勘に触った。……と、あくまで責任を負いたくないヒロユキは、のちの顛末書に赤線をつけてそう追記した。

「あん?そんな古臭い資格、最近の研修では取らんわ」

 この一言は、今度はワタルの勘に触ったようだ。

 なんかめっちゃ似たもの同士じゃね?とヒロユキは思った。

「おま。なんちゅうこというんよ。コリンダーさんに失礼だろうが」


 その後は、

「なんであんた取ってないんよ。人間の仕事だろがこういうのは」とか「こっちのセリフだわ。てか、ネイルとか、わけわからん資格取る時間はあるんだぁ」とか、売り言葉に買い言葉で、あっという間に喧嘩が勃発してしまった。


 最終的に、ふぅ、とイレーションが一息ついて言い捨てた。

「よぉわかったわ。ワタル、ほなら、あんたとコリンダーちゃんでC地区いきや。私ヒロユキさんとk地区行くわ。ヒロユキさんの方が地の利もあるし遠い任せた方がええ。

 さらにコリンダーちゃんが資格あるし万一考えてc地区の方がええ。

 効率的やなぁ?」


 そう言うイレーションの顔が、菩薩の面をかぶった般若のように見えて、ヒロユキとコリンダーは、思わずこくこく、とうなずいてしまった。


※※


……私ちょっといいなと思うとすぐ惚れてまうんよね。なんか自分でもちょっと恥ずかしいんよね」

 イレーションが恥ずかしそうに言うのに、ヒロユキは首を傾げた。

「そんなことあるか?」

「ある。私、極秘書類見ちゃったんだよね。偶然、多分博士たちは見せる気なかったと思うんだけど。」


 イレーションの声が読み上げモードに切り替わり、書類の一文を読み上げる。

 感情と論理値について。本所ーーAI研究所ウェストのコードネーム・ブレイクスルーには、従来型より、感情値を1%増加することで、より人間に近い豊かな感情を発現するものである。

(中略)

 このことにより、歓喜、共感などのプラス方向の感情のみならず嫉妬や憎悪といったマイナス方向の感情にも注意が必要。身近なパートナーとして接する場合、友情を超えて恋愛に発展してしまうといったデメリットも……。

 うん。以下略。


「あー。まぁ、そうね。まぁでもさ。ちょっと惚れっぽい人って人間にはいっぱいいるし、個性の範囲で、普通だよ普通」

 そうかなぁ。と自信なさげに言うイレーションに、そうだよ。と返すヒロユキ。

「俺は、いいなと思うのと好きになる、の間が結構離れてて、好きだって自覚した頃にはタイミング遅すぎたりして。後悔ばっかりだよ」


「んー。あるの?ヒロユキさんも突然好きになっちゃうこと」

 いじわるそうに問うイレーションに「んー」と同じように返して、ヒロユキは苦笑した。


「……あるある。

新入社員のときだな。すごいできる、みんなに大人気の教育講師に。

 半年くらい、いいなぁ、って思いながら持ち越して、やっと気づいたときにはもう電脳ハンター統括っつー手の届かないとこにいたわ。

 半年間トレーナーっていうおいしい位置にいて、肩書もない先輩だったのになー。

 なんで俺がんばらなかったんだろ」


「ふーん。AI研究所イースト、現電脳ハンター統括、エイコ・ヤン・風上。国籍、日本。出身、中国・ハルビン。29歳。趣味……」


「やめやめやめ!検索すな」

「だってぇ。独身みたいやで。間に合うやん」

「……いや。もう完全に吹っ切れてるし、昔の話なんだわ。

 てか初めて人に話したな。誰にも言うなよ。

 昔の話だとしても。いらん波風立てたくないし」


 そっか、とつぶやいてイレーションは電脳空間の向こうを見つめる。


「……ありがとう、ヒロユキさん、じゅうぶん、慰められたよ。今だけマスターって呼んでいい?」

ヒロユキくんはわざと自分のちょっと恥ずかしい話をイレーションのために披露してくれます。心から優しい男です。

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