96 懇願
何者かに足を掴まれたような感覚がして、華はその場で転んでしまう。
見ると、足首にはツタが幾重にも絡まっていた。
それによって立ち上がることすらできない。
「ツタ? なんでこんなものが私の足に……! いや、それよりも早くほどいて皆を追わないと!」
しかし、絡まったツタを外すのに手間取っているうちに、皆は先に進んでいく。
このままだと置き去りにされてしまう。
そう考えた華は、待ってもらうために声を上げようとする。
「皆さん! 待ってくださ――んむっ!」
しかしあろうことか、ツタが今度は華の口をふさいだ。
まるで助けを呼ぶことを止めるかのように。
(そんな! こんなことしてる場合じゃないのに! 皆との距離がどんどん離れていっちゃう! 早くこれをほどかないと――)
必死にほどこうとしていると、力を失ったように突然ツタが滑り落ちていく。
「ごほっ、ごほっごほっ。なんで、いきなり外れたの? ううん、それよりも早く皆を追わないと――ッ!」
悲劇はそこで終わらなかった。
立ち上がり必死に駆けだそうとする華の前に、突如として巨大な壁が出現する。
いや、違う。これは壁ではなくトレントだ!
「下がってください!」
「ッ!」
――その言葉を聞き、反射的に華は後ろに飛び退いた。
すると、先ほどまで華がいた場所にトレントの鈍重な一撃が落とされる。
「……はあっ、はあっ」
もし回避が遅れていたらどうなっていたか、考えるだけで体の震えが止まらなくなった。
そんな華の横に、柳がやってくる。
「申し訳ありません。突然トレントが狙いを僕から変えたせいで、対応が遅れてしまいました」
「…………は、はい」
「大変心苦しいのですが、片桐さんたちへの道が防がれてしまいました。こうなってしまった以上、追いかけるのは難しいでしょう……」
「そんな……!」
柳は眉をひそめ、残念そうな表情でそう告げた。
彼の言葉を聞き、華の鼓動が早くなる。
柳の言う通りなら、自分はもうここから離れることはできない。命の危険に晒されながら、柳とトレントの攻防を見届けなければならない。
絶望する華。
しかし柳は覚悟を決めたような表情を浮かべると、おもむろに口を開く。
「天音さん、貴女に一つお願いがあります」
「……え?」
そして、信じられないようなことを告げた。
「この窮地から脱するために、貴女のユニークスキル――技能模倣の力を貸してもらえませんか?」




