09 ヒーラーの資質
「い、一撃!?」
空に飛ぶハーピーを一撃で倒した俺を見て、由衣は驚いている様子だった。
『ダンジョン攻略報酬 レベルが7アップしました』
着地と同時に、脳内にシステム音が鳴り響いた。
由衣にも同じことが起きているはずだ。
しかし、彼女はレベルアップよりも俺の戦いぶりに興味を示したようだった。
「あの、凛さん、このダンジョンってレベル50以上が推奨されているんですよね? そんなダンジョンのボスを一撃で倒すなんて、どれだけレベルが高ければ可能なんですか?」
そう言われて、俺は自分のステータスを確認する。
レベル欄には298と表記されていた。
思えば、随分と遠いところまで来たものだ。
とはいえ、これをそのまま伝えるわけにはいかない。
レベルに見合わないダンジョンにいる理由を訊かれても面倒だからな。
「そんなことより、自分のステータスを確認したらどうだ? お前もレベルが上がっただろ?」
「それもそうですね……やった、これでレベルが50を超えました!」
わーいと、由衣は嬉しそうに跳びはねる。
その横で俺は驚いていた。
「今50を超えたってことは、40台でダンジョンに挑んでたのか。結構な無茶するな」
「一応、私はヒーラーですので……後衛で治癒魔法を使うだけなら、危険は少ないと思いまして」
「ヒーラー? ちょっと待て。レベル50足らずで、治癒魔法が使えるのか?」
「はい、使えるのはこんな感じです!」
ステータスオープンと唱えた後、由衣は自分のステータス画面を俺に見せてきた。
あまり他人のステータスを見るべきではないが、興味の方が勝った。
「これは……」
由衣のステータス画面には、衝撃的な内容が書かれていた。
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葛西 由衣 18歳 女 レベル:51
SP:250
HP:280/390 MP:40/130
攻撃力:60
耐久力:80
速 度:80
知 性:150
精神力:100
幸 運:40
スキル:治癒魔法LV5・魔力回復LV3・魔力上昇LV3
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「……これは驚いたな。SPを使用していないのを見るに、初めからこの3つのスキルを持っていたのか?」
「はい、そうですよ!」
「……とんでもないな」
レベル51とは思えない保有スキルの数々。
これだけで、由衣がヒーラーとして規格外の才能を持っていることが分かる。
なぜ、それが分かるのか。
それを説明するには、スキルの仕組みについて知る必要がある。
スキルを獲得するには、基本的にレベルアップ時に得たSPを使用して自分の好きなスキルを選択するという方法を取る。
この方法によって、俺たちは自分の戦い方に適したスキルを獲得することができるのだ。
ただ、スキルを獲得する方法は他にも幾つかある。
その中で最も重要なのが、初めてのステータス獲得時に与えられるスキルだ。
与えられるスキルは人によって大きく異なり、10種類を超えるスキルを与えられる者もいれば、逆に一種類のスキルさえ与えられない者もいる。
この時に与えられるスキルが、冒険者人生を大きく左右することになる。
というのも、ステータス獲得時に与えられたスキルは、その者の潜在能力に大きく関係すると言われているのだ。
例えば、剣術スキルが与えられたのならば剣士の道へ、魔法スキルが与えられたのなら魔法使いの道へ行くのが、成功への最も近道であるとされている。
中でも治癒魔法はレアなスキルであり、ステータス獲得時に治癒魔法LV1でも保有しておれば、ヒーラーとして十分な才能を持っていると言ってもいいだろう。
こうしてスキルと潜在能力の関係性を知ると、由衣がどれだけ規格外かが分かると思う。
治癒魔法はLV5、さらに治癒魔法に匹敵するくらいに珍しい魔力回復と魔力上昇のスキルをLV3で保有しているのだ。
順調に成長すれば、トップクラスのヒーラーになることだろう。
うっかり、自分が冒険者になった時のことを思い出して落ち込んでしまいそうになる。
一年前、俺に与えられたスキルはダンジョン内転移LV1と、身体強化LV1の二つ。
ユニークスキルは治癒魔法以上にレアであり、初めは周囲から羨望の眼差しで見られた。
しかし実戦では使い物にならないと分かるや否や、多くの人が無能スキルだと蔑むようになった。
そうして残ったのは、使い物にならないダンジョン内転移と、最低ランクのスキルである身体強化だけ。
冒険者として成功する可能性は0に等しく、諦めるべきだと何度も言われた。
それでも諦めきれず、地べたを這いずるようにしてここまでやってきた。
そんな過去の日々が、自然と思い出されていくのだった。




