87 第四階層 『死獣の宝玉』⓪
第四階層に足を踏み入れた俺は、眼前に広がる光景に目を疑った。
「なんだ、これは……?」
まず、目の前には高さ1メートル程度の台座があり、そこには丸い窪みが4つ存在していた。
まるで何かを入れろとでも言いたげに。
しかし、俺が驚いたのは台座に対してではない。
その先に広がる現実離れした光景に対してだった。
横幅は約50メートル、奥行きは300メートル前後だろうか。
そんな巨大な一本道には、数百数千の魔法が行き交っていた。
遠目でよくは見えないが、その先には何の魔法も存在してはいないようだ。
炎の渦、氷の槍、落雷、カマイタチ。
一つ一つが軽々と人の体を破壊してしまうほどの威力を有していた。
「この光景だけでも異常だけど、問題は他にもある」
続けて俺は左右に視線を向ける。
右に2つ、左に2つ、計4つの巨大な扉が存在し、その内側から尋常ならざる密度の魔力が漏れ出していた。
これまで戦ってきた相手とは、一線どころか二線三線を画するような強力なオーラだ。
「明らかに、第三階層までとは雰囲気が違う……! いったい何をさせられるんだ?」
疑問を抱いていると、システム音が鳴り響いた。
『第四階層のクエストは【死獣の宝玉】です。魔法の壁を突破し、目標地点まで辿り着いてください』
『第四階層内にある4つの部屋にはそれぞれ炎の死獣、氷の死獣、雷の死獣、風の死獣が存在し、自身の宝玉を守護しています。その宝玉を強奪し台座の穴にはめ込むことで、同じ属性の魔法の発動が中止されます』
『死獣の討伐推奨レベルは全て50000です』
『このクエストのみ、途中でのリタイアが認められています。ただしリタイアを選択した場合、二度と隔絶の魔塔に挑戦することはできません』
システム音は色々ととんでもないことを言い残していった。
「待て、今5万って言ったのか!?」
思わず問いかけるも、もちろん返答はない。
俺はゆっくりと深呼吸した。
「落ち着け、情報を整理しろ。クエスト説明を聞くに、4体の死獣を倒す必要はないんだ。そいつらが守る宝玉とやらを奪うだけでいいんだろう……5万レベルの魔物を相手に? 無理じゃないか?」
無名剣でステータスを上昇させたとしても、まだ差は5倍近くある。
獣系の魔物なら隠密も通用するかは不明だし、成功確率はかなり低いだろう。
「いや、システム音は絶対に宝玉を奪わなければならないとは言っていなかった。クエストのクリア条件はあくまで目標地点への到達。この魔法の壁を耐え抜いて辿り着きさえすれば、それでクリアできるはず! そう、この魔法の壁さえ……」
アイテムボックスの中から、1つ魔石を取り出して魔法の中に投げてみる。
魔法の海に呑み込まれた結果、1秒と持たず粉々に砕け散った。
「うん、不可能だ!」
自慢じゃないが、俺の魔法耐性はかなり低い。
魔狼の指輪(真)はあるものの、この状況ではほとんど効果を発揮しない。
となると、残された選択肢は1つしか存在しない。
「……このクエストは、リタイアできるんだな」
これまでは次の階層への挑戦時にしか選択できなかったリタイアが、クエストの最中にも選択できると言っていた。
そこから俺は1つの仮説を立てた。そもそもこのクエストは攻略するために用意されたものではないのだと。
システム音は言外に告げている。
ここで諦めてリタイアしろと。
それ以外の選択肢は存在しないのだと。
きっとその忠告は正しい。
今の俺にはレベル5万越えの魔物から身を守る術も、強力な魔法を耐えきる力もない。
システム音の忠告に従って、諦めるのが正解なのかもしれない。
だけど、
「俺は、誓ったんだよ」
思い出すのは無名の騎士戦。
自分を遥かに上回る強敵を前にして、俺は思ったんだ。
俺に正しさなんて必要ない。
愚かであろうとも、自分の意思に従い真っ直ぐ進み続けるべきだと。
――そんな俺に、諦めなんて言葉は似合わない!
「やってやる」
たとえこのクエストが、全力で俺を殺すために用意されたものだったとしても。
そこで引き返すような足は、俺についてはいない!
だからこそ俺は――今、史上最大の難関に挑む!
「俺は世界最速で――このクエストをクリアしてみせる!」
◇◆◇
『第四階層 クエスト【死獣の宝玉】をクリアしました』
『第四階層攻略報酬 レベルが200アップしました』
「やったー」
約300秒後。
ダンジョン内転移を使用した結果、俺は無事に魔法の壁の向こう側へ転移することに成功した。
心なしか、システム音の覇気が失われていた気がしたが、多分気のせいだったに違いない。
うん、そういうことにしておこう!
かくして俺は、第四階層を突破するのだった。
『【隔絶の魔塔】内、合計レベルアップ数:787レベル』(第四階層終了時点)
システム音ちゃん「???????」




