85 第二階層 『投影の騎士』③
本日3話目。『投影の騎士』ラストまでです。
隠密を使用した俺は、敵から離れるべく全速力で駆け出した。
フロアの端まで、数秒足らずで到着する。
投影の騎士との距離を100メートル以上空けることに成功するが、それは一時的なものに過ぎなかった。
「ッ、これは――」
形のない何かが体を這っているかのような違和感。
これは他人の魔力に触れた時の感覚だ。
この場所には自分以外に投影の騎士しかいない。
となると、奴が何をしたのか推測するのは容易かった。
「索敵だな」
俺の保有している中で、魔力を周囲に拡散するスキルは索敵しかない。
投影の騎士は消えた俺を探すため、このフロア全体に索敵を使用したのだろう。
その証拠に、投影の騎士はもう周囲を見渡すこともなく、的確に俺の方を向いていた。
「もう気付かれたのか」
高速でこちらに走ってくる敵を見ながら、俺は無名剣と速剣を構える。
隠密が通用したのは、結局10秒にも満たなかった。
「ァアアアア!」
「喰らうかよ!」
金剛力と疾風を同時使用しているであろう敵の剣撃を、再び紙一重で回避していく。
そして隙が生まれたタイミングでは――
「ほらよ」
「!?」
――再び爆煙魔石を発動。
煙でお互いの姿を目視できなくなると、
「隠密」
敵の視界から姿を消し、再びフロアの対角に駆け出していく。
「ァァァアアアアア!」
数秒遅れて、索敵を使用した投影の騎士が雄叫びを上げながら迫ってくる。
どことなく怒りに支配されているように見えた。
「これはうまくいきそうだな」
その姿を見て、俺は小さく笑った。
それからしばらくの間、俺は何度も同じ方法で隠密を使用し、それを投影の騎士が索敵を用いて発見するというやりとりを続けていた。
ちなみに爆煙魔石については剣崎ダンジョンを周回していた際にかなりの量を集めていたので、遠慮なく次々と使用することができた。
一見、いたちごっこにも思える戦いを繰り広げること1時間。
唐突に、その瞬間は訪れた。
「ァァァアアア――――?」
俺を追っていた投影の騎士の動きが、急激に遅くなったのだ。
投影の騎士自身も、戸惑ったように動きを止める。
「ようやくきたか!」
それを見た俺は歓喜の言葉とともに、力強く床を蹴り敵に接近した。
速剣をアイテムボックスの中に入れ、無名剣のみで斬りかかる!
「はぁあああああ!」
「ッ!」
投影の騎士も俺の攻撃に対応しようとするが、先ほどまでとは一転、俺が明らかに敵を押していた。
力強く振るわれた無名剣は敵の投影の剣を弾き、鎧に攻撃を加えていく。
なぜ突然こちらが優勢になったのか。
答えは簡単。投影の騎士のMPが尽き、金剛力と疾風を使用できなくなったためだ。
もちろん、俺は今もその2つのスキルを使用している。
なぜ俺のMPがまだ残っている中、投影の騎士だけがMP切れを起こしているのか。
それには2つの要因が存在していた。
まず1つ目が、投影の剣の性能についてだ。
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【投影の剣】
・無名の騎士の剣を反映し、生み出された剣。
・装備推奨レベル:6000
・攻撃力+6000
・敵のレベル(討伐推奨レベル)が自分より高かった場合、HPとMPを除くステータスの全項目を+56%。
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最後の文言からも分かるように、投影の剣――ひいては無名剣が引き上げてくれるステータスはHPとMPを除く全項目――逆に言えば、HPとMPは一切増えてはいなかった。
対する俺は、第一階層の段階で魔力上昇スキルをLV2からLV5に上げていた。
そしてこれこそが2つ目の要因。
敵は隔絶の魔塔挑戦前の俺のステータスを参考にしているため、挑戦後の変化までは反映していなかったのだ。
投影の騎士に勝る唯一の部分がMP量であると判断した俺は、そこを武器に戦うべきだと考えた。
敵にMP切れを起こさせ、金剛力と疾風を使用できないようにしてやれば、対等以上に渡り合うことが可能だから。
だからこそ俺は敵のMP消費を促すため、無理にでも広範囲の索敵を使わせた。
当然だが、索敵は範囲が増えれば増えるほど多くのMPを消費する。
そのため俺はわざわざフロアの端まで逃げ続けていたのだ。
それを繰り返してようやく生まれたのが、投影の騎士のMP切れという状況。
この好機を絶対に逃すわけにはいかない!
「喰らえ!」
「――――!?」
必死に剣を構え自分の身を守ろうとする投影の騎士だが、俺は軽々とその剣を弾いた。
実は隠密で逃げている間に、金剛力をLV6からLV7に上げておいた。
その分だけ、俺の攻撃力も増している。
スキルを使えない敵に防げる道理はない!
「うぉぉぉおおおおおおお!」
ここが最終盤だと判断した俺は、敵に反撃する隙を一切与えることなく連撃を浴びせていく。
剣を弾き、鎧を叩き割り、関節を切断する。
そして、ようやく最期の瞬間が訪れた。
片腕を失い、剣さえ地面に落としてしまった投影の騎士に向けて、俺はトドメの一撃を浴びせる。
「これで終わりだ!」
「ァァァアアア――――」
一閃。
俺の振るった刃は、投影の騎士の体を斜めに両断した。
体が真っ二つになった投影の騎士は、その場に崩れ落ちていく。
そしてシステム音が鳴り響く。
『経験値獲得 レベルが26アップしました』
『第二階層 クエスト【投影の騎士】をクリアしました』
『第二階層攻略報酬 レベルが100アップしました』
システム音を聞く傍ら、消滅していく投影の騎士を見下ろし、ほっと息をつく。
「……なんとか勝てたか」
かくして俺は、第二階層を突破するのだった。
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天音 凛 19歳 男 レベル:7026
称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者(ERROR)
SP:1010
HP:51330/55420 MP:4260/14840
攻撃力:12820
耐久力:10160
速 度:13120
知 性:12450
精神力:10080
幸 運:11620
スキル:ダンジョン内転移LV18・身体強化LV10・剛力LV10・金剛力LV7・高速移動LV10・疾風LV6・初級魔法LV3・魔力回復LV2・魔力上昇LV5・索敵LV4・隠密LV4・状態異常耐性LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV4・隠蔽LV1
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『【隔絶の魔塔】内、合計レベルアップ数:422レベル』(第二階層終了時点)




