59 残るダンジョンは
「よし、明日から気合を入れてまた頑張るぞ。おー!」
と、気合を入れたまでは良かったのだが――
「スパンがあるから無理だったわ」
家に戻ってきた俺は、自室にてそう呟いた。
俺がこれまで挑戦したことのあるのは、紫音ダンジョン、有川ダンジョン、夕凪ダンジョン、夢見ダンジョン、それから剣崎ダンジョンの5つ。
そしてその全てを、今日踏破してしまったのだ。
他のダンジョンに挑戦しようと思っても、一週間の再挑戦期間が必要となる。
「うーん、やっぱり剣崎ダンジョンに行く前に、他のダンジョンも回っておくべきだったのかな」
攻略はせず、幾つものダンジョンに挑戦だけしておけば、スパンを待つことなく次のダンジョンの踏破を目指すことができただろう。
ただ、それは終わった今だから言える結果論だ。
少なくとも剣崎ダンジョンに挑む前の俺は目的を持った上でその判断をしたのだから。
というのも、Cランク以上のダンジョンでは初挑戦時にボーナス報酬をもらえるダンジョンが多いため、できれば入手したいと考えていた。
さらに付け加えるなら、それらのダンジョンは攻略推奨レベルが高いところが多いため、先に剣崎ダンジョンを踏破することによって、十分なレベルアップ&Cランクダンジョンの攻略経験の獲得を図っていたのだ。
しかし今改めて計画を練り直してみると、そうする必要はないことに気付いた。
「俺が挑戦するつもりだったCランクダンジョンで貰えるボーナス報酬は長剣だったり短剣だったりしてどれもかなり優秀なんだけど……それ以上のものを、もう手に入れたんだよな」
もちろん、それ以上のものとは無名剣のことだ。
称号:無名の剣豪の効果も相まって、かなりのチート性能になっている。
俺がオークジェネラルを討伐できたのも、この剣によるところが大きい。
そのため、今の俺は刀剣類がボーナス報酬になっているダンジョンを、初挑戦時に攻略する必要がなくなったのだ。
「ただ、これで後ろ髪を引かれる思いなく、色々なダンジョンを回れるようになるぞ」
そしたら、レベルアップと踏破の効率は格段に上がる。
さらなる速度で成長していけるはずだ。
となると、残る問題はこの一週間の過ごし方なのだが。
「本当は剣崎ダンジョンでひたすらレッドボア狩りでもして金を稼ぎたいところだけど、消滅しちまったからな……だからと言って、いまさらDランクダンジョンに潜ったところでレベルアップはできないだろうし、金も大して稼げない……仕方ない、久々にゆっくり休養でもするか!」
ここ一ヵ月と少し、ほとんど休みなくダンジョンに潜り続けていた。
たまには長めに休んでも文句は言われないだろう。
そんなこんなで、俺は一週間の休暇を取ることにした。
三日後。
黒崎 零から連絡がやってきたのは、ちょうど休暇に飽きてきたタイミングだった。




