29 剣崎ダンジョン①
そして、俺はようやく待ちに待った剣崎ダンジョンの攻略を開始した。
剣崎ダンジョンは全30階層で構成されており、出てくる魔物はオーク、ホーンラビット、レッドボアなどなどだ。
レベル的には余裕があるとはいえ、油断はできない相手だ。
そして最下層で待ち受けるボスはハイオーク。
非常にパワーに優れた強力な魔物なため、攻撃を受けるのではなく、躱すのが必須になってくるという話だ。俺には合っている。
そしてそのハイオークを討伐することができれば、与えられるダンジョン攻略報酬が25レベルアップと爆煙魔石、それから剣崎の剣の三つである。
爆炎魔石は非常に優秀なマジックアイテムで、普通に買えば10万はくだらない品物だ。
そして剣崎の剣はネーミングセンスこそクソダサだが、攻撃力+300と効果は本物である。
どちらともぜひ入手したいところだ。
そんなわけで、俺は覚悟を決めて進み始めるのだった。
進むこと約10分。
さっそく俺は、本日初遭遇となるオークとの戦闘を繰り広げていた。
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【オーク】
・討伐推奨レベル:300
・棍棒や斧などを武器に使用する、豚の顔をした全身茶色の魔物。速度はないが、尋常ならざる膂力から放たれる一撃が強力。
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「ガァァァ!」
「――――ッ」
目の前にいるオークは全部で3体。
そのうちの1体が、手に持つ石斧を勢いよく振り下ろしてくる。
石斧相手に、短剣で受け止めるのは危険。
俺は素早い動きでその攻撃を返すと、短剣を振るい反撃に転じる。
「はあっ!」
一閃。
オークの腹に深い傷を与えるも、まだ死んではいないようだ。
EランクやDランクのダンジョンで戦ってきた魔物たちとは、やはり格が違うのだろう。
すぐに追撃したいところだが、残る2体が連携して左右から挟撃してくる。
バックステップで距離を取ると、空いている左手を前方に出す。
「ファイア! ファイア!」
初級魔法LV3による、弱弱しい攻撃。
しかし今はそれでいい。ダメージを与えるのではなく、視界を奪うのが狙いなのだから。
「ギャウッ!」
「ギャッ!」
狙い通り、ファイアを顔に喰らった2体のオークがのけぞる。
そしてこれこそが、勝敗を分ける最大の隙となった。
反撃の余地は与えない。
夢見の短剣を次々と振るい、致命傷を浴びせていく。
それから10秒後、俺は3体のオークを討伐することに成功した。
「死体から魔石を取り出してっと。それから、これも貰っておくか」
地面に転がっている石斧を拾う。
片手で扱える大きさと重さだ。
俺は鑑定LV1を使用した。
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【オークの石斧】
・オークが装備していた石斧。
・装備推奨レベル:300
・攻撃力+100
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「さすがはCランクダンジョン。道中の魔物が落とす武器でさえ、夢見の短剣の3倍以上の効果があるのか……」
それに加えて、これまで見たことのない装備推奨レベルという文字。
これは別に、そのレベルがなければ扱えないというわけではなく、あくまで参考程度のものだ。
身体強化のスキルなどを有しているのなら、それよりレベルが低くても使えたりする。
「うーん、確かに効果だけなら魅力的なんだけど、これはどっちかっていうと打撃武器だよな。攻撃力が70しか違わないんだったら、慣れた近接武器である短剣を使い続けるべきだな。ただ、一応回収だけはしておくか」
他の2体が持っていた石斧にも鑑定を使用すると、それぞれ攻撃力が+95と、+90の効果を有していた。
同じ【オークの石斧】でも、効果は微妙に違うらしい。
俺は攻撃力+100のものだけをアイテムボックスに入れておいた。
「これでよしっと。それにしても、これだけ強い魔物と戦うのは久々だな」
ここ数週間は、攻撃をもろに喰らっても、HPが1%も減らないような魔物とばかり戦ってきた。
しかしここにいる魔物の攻撃を喰らえば、一気に10%以上減ってもなんら不思議ではない。
戦闘時の緊張感が全く違うのだ。
「一応、最近稼いだ金で最低限の体力回復薬と魔力回復薬は買っておいたけど、極力使わない方向性で頑張ろう」
このダンジョンでは、初挑戦時に攻略したところでボーナス報酬がないのは確認済みだ。
無理に今回攻略するつもりはない。
道中に現れる魔物と戦いながら、徐々に戦闘の勘を取り戻しておこう。
それと同じ理由で、下の階層へ行くためのダンジョン内転移は使用するつもりがない。
まあ、これだけ強力な魔物が転移先に大量にいた場合、対応できるか不明という理由もあるんだけどな。
気を取り直して、俺は先に進み始めるのだった。




