19 都心にて
朝食を食べ終え準備を終えた後、俺と華は電車に乗って都心にやってきていた。
俺は特に欲しいものがないので、基本的には華の行きたいところに行く感じだ。
「ねぇねぇお兄ちゃん、これとこれ、どっちが良いと思う?」
華は2着のワンピースを体にあてながら、そう尋ねてきた。
一着は黒で、もう一着は明るい水色。
印象が対照的な2着だが、ここはやはり――
「そうだな。やっぱりこっちの深い闇に呑み込まれたかのような黒の方がいいんじゃないか?」
「こっちにしよーっと」
そう言って、華は黒色のワンピースを店員さんに返し、水色の方を購入した。
おい、なぜ訊いてきた。
そんなこんなで店の外に出ると、華が「あっ」と指をある方向に向ける。
「クレープだよ、お兄ちゃん。寄っていこっ」
「わかったわかった」
手を引っ張られるまま、クレープ屋の列に並ぶ。
店頭に置かれているメニュー表を見ながら、華は目を輝かせていた。
「私はストロベリーのにしよっと。お兄ちゃんは何にする?」
「そうだな……じゃあ、チョコバナナで」
俺の答えを聞いた華は、大きく目を見開いた。
「あれ? お兄ちゃんがこういうの買うのって珍しいね。いつも何買うか聞いても、俺はいいって断るのに。突然どうしちゃったの?」
「……む」
確かに、俺はこれまで余計な出費を控えようとして、こういう時は華の分だけを買っていた。
しかし、今はダンジョンで稼いだお金がある。
ちょっとくらいの贅沢は許されるだろう。
そんな事情を説明するのもなんなので、言い訳を考えてみた。
「昨日から甘党になったんだ」
「昨日から!? な、何があればそんなことに……」
よし、どうやらうまく誤魔化せたみたいだ。
パーフェクトコミュニケーションというやつだろう。
その後、クレープを受け取った俺たちは近場のベンチに腰掛ける。
「いっただきまーす。うーん、甘酸っぱくておいしい!」
「ん、うまいな」
甘みがあって大変美味だ。
こういうのも久々にはいいもんだな。
「お兄ちゃん、そっちも一口ちょうだい」
「ん? ああ……っと」
クレープを包む紙ごと渡そうとしたのだが、華は口を大きく開けてそのまま齧りついてきた。
なかなかアグレッシブな行動に驚いていた、その時だった。
「えっ……? 凛さんに、華ちゃん? どうして二人が一緒に……?」
どこかで聞いたような声が鼓膜を震わせる。
見ると、そこには先日会ったばかりの少女、葛西 由衣が立っていた。
「由衣?」
「由衣先輩!?」
俺と華の声が重なる。
どうやら、華も彼女のことを知っているみたいだ。
「華、由衣と知り合いなのか?」
「う、うん。学校の先輩だよ。ていうかそっちが知り合いな方が驚くんだけど、どんな関係なの?」
「冒険者の知り合いだよ。この前、ダンジョンで知り合ってな……って、どうしたんだ、由衣?」
由衣は、ぽかーんと間抜けな表情のまま突っ立っていた。
俺の問いかけによって、はっと普段の姿を取り戻す。
「ご、ごめんなさい、二人が一緒にいるところに声をかけてしまって。まさか二人がそんな関係だとは知らなくて……」
「そんな関係?」
俺と華が兄妹であることを言っているのか。
まあ説明したことがなかったんだから、知らないのも仕方ないだろう。
と、思ったのだが。
「まさかお二人が、そんなラブラブなカップルだったなんて……」
「「カップル!?」」
どうやら由衣は凄い勘違いをしているらしい。
「ちょっと待て、俺と華はカップルじゃない。ていうかお前この前、知り合いに天音って奴がいるって言ってなかったか? それって華のことだろ? ここまで言えばもう分かるだろ?」
「な、なるほど。それはつまり――」
ようやく兄妹と分かってもらえたみたいで、ほっと胸を撫で下ろ――
「――学生結婚、というわけですね!」
「ちげぇよ!」
――せなかった。
どう考えたらそうなるんだ。
深いため息をつく俺の横では、華が苦笑いを浮かべる。
「あはは……相変わらず、思い込みが激しいみたいだね」
「昔からこうなのか……」
呆れながらも、俺たちは再度説明を試みる。
由衣に俺たちが兄妹だと理解してもらえたのは、それから5分後のことだった。




