11 圧倒
「っ……ちょっと動きが速いくらいで調子に乗ってんじゃねぇ! これでも喰らいやがれ! ウィンドカッター!」
魔法使いの男の手から、風の刃が放たれる。
俺の得手が速度だけだと思い、とにかく一撃でも攻撃を与えることを優先したのだろう。
「っ! なんで、効いてねぇんだ!」
だが当然、速度以外のステータスも彼らの4倍近くある俺に、そんな攻撃は通用しない。
HPが2530→2500に減少するが、こんなものは誤差だ。
「理由なんて決まってるだろ。ただ、お前らの力不足だ」
「っ! くそっ、ついてねぇ……なんでDランクダンジョンにお前みたいなのがいるんだよ!」
まあ確かに、300レベルの奴がDランクダンジョンにいるなど、普通はありえないが……
親切にその理由を説明してやるつもりはない。
「終わらせよう」
ぐっと、力強く大地を蹴り駆け出す。
3人はそれに応戦しようとするが、遅い。
真っ先に魔法使いの腹に拳をめり込ませ気絶させると、残る2人――剣士とタンクに標的を変える。
「うおおおおお!」
「――――」
血気盛んに迫ってくる剣士の一撃をかわし、腹部を殴る。
意識を失った剣士がその場に崩れ落ちていく。
次はタンクだ。
速さに頼って畳みかけるのもいいが、ここはあえて真正面から打ち破る。
小細工なしに迫る俺を見て、タンクは嘲笑うように大声をあげる。
「ははっ、馬鹿め! タンク相手に真正面からくるなんて、やり返してほしいと言ってるようなものだ! 喰らえ、カウンター・インパクト!」
タンクの持つ盾が青く光る。
これは確か、与えられた衝撃をそのまま相手に跳ね返すスキル。
衝撃の強さに応じてMPを大量に消費する、かなり強力な技だ。
だがその反面、弱点も存在する。
「はあっ!」
俺は全力でタンクの盾を殴打する。
すると青色の光は弾け、俺の拳は盾を貫いた。
「な、何が起こった!?」
「お前らはボス戦直後なんだろ? なら当然、MPはほとんど残ってないよな」
発動に必要なMPが足りない場合、このスキルは不発となる。
そのため、相手の妨害を受けることなく俺の攻撃は成功したのだ。
「終わりだ」
「ガッ」
最後に一撃を加え、タンクを気絶させた。
周囲を見渡す。
剣士、魔法使い、タンクは気絶したまま。
しかし――
「なめてんじゃ、ねぇぞ、クソガキがぁ!」
「……まだやる気か?」
最初に一撃を加えておいたはずのリーダーが、痛みに耐えるようにして立ち上がっていた。
両手で大きく剣を振りかぶり、血走った眼で俺を睨む。
「当然だ! テメェを殺さねぇと気が済まねぇ! 今度こそ真っ二つにしてや――」
「学習しないな」
一閃。
瞬時に距離を詰め、夢見の短剣を振るい、男の両手首を浅く斬る。
「なに!?」
それだけで男は握力を失い、大きな両手剣が地面にカランカランと音を鳴らして落ちる。
これで相手の戦力は全て削いだ。
「もう一度だけ問う」
動揺する男の首元に短剣を添え、尋ねる。
「まだ、やる気か?」
まっすぐに男の目を見る。
俺の行動に対し何を感じたのかは不明だが、男は瞳に恐怖を浮かべ、小刻みに震えだした。
そして、そのあとすぐに。
「お、俺たちの負けだ! 許してくれ!」
大声で、自身の敗北を宣言するのだった。




