第88話:魔法書が見つかったんだが③
「ユーキにも帝国に来て欲しいのです」
「え、そんなことでいいのか……?」
アレリアからの条件は、拍子抜けするものだった。
「私、勝手に家を出て、捕まってここまで連れてこられて……まずは謝らないといけないんです。その……ユーキが一緒にいてくれたら安心できるというか」
アレリアはヴィラーズ帝国の第三皇女。
魔法書を処分する権利は皇帝……つまりアレリアの父が持っているのだから、確かに一度帝国に戻り、事情を説明した上で謝らなければ筋が通らない。
おそらく、皇帝はアレリアが行方不明になったことでさぞ心配していることだろう。
そして、行方不明になった娘を連れ回していた男が目の前に現れたとすれば——
「俺、皇帝に殺されるかもな……」
「だ、大丈夫ですよ! きっと!」
「あのなあ……」
しかも、これからもアレリアと一緒にいられるようにしようとすると……なんて説明すればいいんだ?
・娘さんとは何もありませんでした!
・娘さんは嫌がっていませんでした!
・娘さんを僕にください!
なんか、どれを選んでも言い訳がましいな⁉︎
まあ、とはいえ——
「俺も身分上は大貴族になっちゃったわけだし、帝国にはいずれ顔を出さなきゃならなかったのは確かだ。ちょっと時期が早いけどな」
「そうですよ! ちゃんと説明すれば大丈夫です! ……多分」
最後の『多分』がかなり俺を不安にさせるわけだが……。
「それと、アイナにも一緒に来て欲しいです」
「え、私も……?」
他人事だと思ってか終始ニヤニヤしていたアイナ。
急に誘われて困惑しているようだ。
「はい! ユーキだけだと、変な勘違いをされてしまうかもしれません。でも、同じパーティメンバーのアイナがいればきっとユーキも信じてもらえます。それに、私とアイナはお友達なので、せっかくなら紹介しておきたいのです」
「わ、私がアレリアの友達……!」
なぜか、突然アイナの顔が赤くなり、しどろもどろになった。
「え、ダメですか?」
「い、いえ……いいわ。そうね、お友達」
「良かったです!」
そういえば、エルフの里に行った時のアイナは、住民から良い意味で一目置かれていた。
対等に話せるのは、アイナの妹のシャルくらい。
お姫様なのだから当然なのだが、そういった意味では、今まで友達を作りにくい環境だったことは確かだ。
無理やり王都に連れてこられて売られそうになったことは決して良いことではなかったが、それがなければ今はなかった。
そう考えると、本当にこの世界というのはよくできたものだな。
俺は、役人の方を向いた。
「……今から帝国に手紙を書く。なるべく早めに届けてくれるか?」
「かしこまりました。三日以内に届けさせましょう」
「助かるよ」
俺たちのように空からの移動手段が使えないので、ここから皇帝が住む帝都までは普通一週間程度かかる。
三日以内というのは、全ての手続きを最優先で進めた場合。
今は久しく何のトラブルも起きていない。
魔法書の件は重要なことだが、トラブル時は優先順位が下がってしまい、後回しになる。
平和なうちに事が進められるのはありがたい。





