第76話:伯爵が想像以上だったんだが②
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貴族の洋館だというのに、守衛の一人もいないというのは、奇妙だった。
これだけなら村の存亡を揺るがす緊急事態だったこともあるので仕方ないと言えば仕方ないとも言えるのだが——
チリンチリン。
呼び鈴を鳴らしてみる。
「反応ありませんね」
「寝ているのかしら?」
「そんなわけないだろうな。窓からは明かりが見えるし、物音も聞こえる。村の人間じゃないことは一目でわかるだろうから、無視してるんだろう」
頭上を見上げると、水晶に反射した俺たち三人と二匹の姿が映っている。
実は俺も最近知ったことなのだが、貴族や金持ちの商人など富裕層の家には、必ずと言っていいほど玄関にこの水晶が設置されている。
この水晶は高価な魔道具で、言わば監視カメラ。
近距離にある水晶に反射したものを映し出す性質がある。音声用の水晶は別物なので音声は聞かれていないだろうが、ここで俺たちが何かを話し合っていることは見られているだろう。
つまり、ダスト伯爵は俺たちを招きたくないのだろう。
と、そんなことを思っていると——
ガチャ。
「あっ、ユーキ! 鍵が空きました!」
「入ってこい……ってことかしら?」
「にしては、誰も出てこないなんて客に対して失礼だと思うけどな……。まあいい、入ろう。二人とも念のため気をつけてな」
「はい!」
「わかったわ」
スイとアースの二匹も、小さく頷いたことを確認すると、俺たちは洋館の中に入った。





