第54話:大公爵になったのはいいんだが
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レグルスから爵位の話があって数日後。
国中の貴族を集めて爵位授与式が執り行われた。
会場には、かつての王族の姿もあった。
セルベール前国王時代の一族に関しては根絶やしにしたわけではない。
あくまでも一般の国民と平等に処分しただけであって、無実の——少なくとも推定無罪の人間に対して王族だから殺すというような野蛮な事はしないよう話をまとめてある。
とはいえ国王の一族ではないのだから、王族とは呼べない。適当に辺境の小さな領地を与えて男爵としておいた。一応は貴族なので、今日も来ているのだ。
「まったく冒険者風情の成り上がり国王がコネでお友達を大公爵とは恐れ入りますな」
「その通りですな。これだから庶民の血は汚らわしいのです」
「私も同感ですな。非常に現国王も頭が悪い。ただの脳筋をいきなり大公爵などと……」
俺は他の人間よりも耳がよく聞こえる。
ボソボソと話しているつもりでも丸聞こえだ。
とはいえ誰にでも言論・表現の自由はあって然るべきものだと俺は思っている。だから不敬罪や侮辱罪でどうしようという気は今のところない。
ま、何事もやり過ぎれば対応を考えなくちゃいけなくなるが。
「あっ、今日のユーキはローブじゃないんですね!」
アレリアが話しかけてきた。後ろにはアイナもついてきている。
「まあな。一応は式典だから、正装じゃないとダメらしい」
なんかスーツみたいで過去の記憶が蘇ってきて嫌なんだが……。
まあ、今日一日の辛抱なので我慢するとしよう。
ちなみに、アレリアとアイナはいつものローブ姿だ。
二人には特に爵位は与えられないことになった。
どちらもなかなか関係がややこしいのである。アレリアは帝国の皇女で皇族だし、そもそも王国には不法入国している。
アイナは王国民ではあるものの、特別自治区の住民であり、王族だ。
爵位を与えようにも与えられないのだ。
「それより……ユーキ知ってますか?」
「何をだ?」
「元王族がユーキとレグルスのことをけちょんけちょんに貶してますよ」
「ああ、そのことか。知ってるよ」
「あんなに言われてユーキは怒らないの?」
「二人とも気にしてくれるのはありがたいが、今のところどうこうするつもりはない。争いってのは同レベル同士でしか生まれないからな。だから反論しない。今風の言い方で言うと、アウト・オブ・眼中ってところかな?」
「なるほど、あまりに低レベルすぎてユーキの眼中にないのですね! さすがです!」
「ユーキって達観してるのね。なんか貴族というより王族みたいな余裕だわ」
「いやいや、そんな大したもんじゃないぞ? それに——」
俺が二人に説明しようと思っていたところに、一人の領主が挨拶にやってきた。
こいつは確か、シルビア子爵か。若年人口が減る上に高齢化が問題になっているとレグルスに相談しにきた貴族だ。あいにくレグルスは手が空いていなかったので俺が話を聞いたっけ。
「マツサキ大公爵、ご無沙汰しております。いやはや大公爵になられるとは……本当におめでとうございます」
そうか、貴族になると家名で呼ばれるようになるのか……。
なんか妙な感じだな。
「久しぶりだな。俺に家族はいないから、ユーキでいいんだが……ま、呼びやすい方でいい。それより、あれからどうなったんだ?」
「助言いただいた通り実行したところ、急に妊娠する夫婦が増えたのです。本当に信じられません! なんとお礼をしてよいか……。力を持つだけでなく、頭脳までも明晰なのだと思い知りました!」
「まあ、今回はたまたま最初から上手く行っただけだ。それに、俺が出したのはアイデアだけだぞ。形にするのがなかなか難しい。自信を持って色々と試していくといい」
「ありがたいお言葉でございます! 失礼いたします!」
そう言って、笑顔で去っていった。
かなり政策が上手く行ったようだな。
「ユーキが何か子爵にアドバイスしたのですか?」
「ん、まあちょっとな。少子高齢化問題の相談に来たから、子供が生まれたら金貨500枚と子供にかかるお金の無料化、それと労働力問題の解決策として託児所の設置。さらに安心して生活ができるよう全領民に毎月金貨7枚を無条件で配るようアドバイスした」
「ちょ、ちょっと何言ってるか分からないんです!?」
「子供が生まれたら金貨500枚とか毎月全領民に金貨7枚って……すごい思いきりよね。でもどうやってそんな財源が……?」
「最初の財源は領債を発行して作った。生活保障と引き換えに税金も上げたから、金貨500枚くらい将来的に子供が大きくなれば数年で回収できる。連鎖的に人口が増え続けてどんどん豊かになるループになるはずだぞ」
「サラッと言ってるけどめちゃくちゃよく考えられてない……!? そんなアイデアをポンと出せるって……やっぱりユーキはすごいわ!」
うーん、そんなに凄いのか?
合理的に考えれば当然の帰結だと思うんだが。
その後、貨幣交換に応じた領主から次々に交付税のお礼を言われた。
俺が出したアイデアだというのがどこかから漏れたみたいだ。
犯人は……ま、レグルスか。
一部の領主からは嫌われているようだが、概ねまともな領主からの評判は良いようだった。





