第26話:チャンスを与えてやったんだが
「聞いたぞ。ヴィラーズ帝国の第三皇女を拉致し、連れ回しているそうだな!」
「…………はあ?」
「トボけても無駄だ。なぜなら、証拠がそこにあるんだからな!」
ファブリスは自信満々な様子でアレリアを指差す。
「私、ユーキに拉致なんかされてません! むしろ盗賊に捕まって王国に売られそうになったんです!」
「ふん、マツサキ・ユーキよ、上手く調教したものだな」
どこからその発想が湧いてくるのかわからないが、どうも俺がアレリアを拉致したということを信じているらしい。
「アレリアが否定しているものが証拠になるわけないだろ。 なんか変な物でも食べたんじゃないのか?」
マジックマッシュルームとか大麻とかコカインとかその手の精神に作用する系のやつを摂取すると妄想癖が悪化すると聞いたことがある。
「アレリアは洗脳されているのだ! 洗脳されている者の発言に証拠能力はない!」
こいつ、もうダメだな。
「……それで、誰に吹き込まれた? 誰の命令でアレリアを捕まえに来たんだ?」
「ふっ、聞いて驚け。王の直々の命令だ。なんと、お優しい王はアレリア・ヴィラーズを引き渡せば、この件についてマツサキ・ユーキの罪を帳消しにすると仰っている」
「なるほど、そうか。じゃあ、連れていくといい。俺は歓迎するぞ」
「な、何を言ってるんですか!? ユーキ!?」
アレリアは、俺を二度見して驚いていた。
念のため言っておくが、俺は本気でアレリアを渡すつもりはない。
王国は信用できないし、王国の犬である勇者も信用できない。
だが、俺の罪が帳消しになるというのだ。これに乗らない手はない。
罪人になってしまうと、それが冤罪であれなんであれ生活がしづらくなるのは確かだ。
まあ——
「アレリアが抵抗すれば、その時は知らんがな」
「……なるほど、そういうことですね! ユーキ、分かりました!」
アレリアには伝わったようだ。
捕まえようとする勇者たちを蹴散らし、俺のところに戻ってこい——そう伝えたのだ。
少し前なら簡単に捕まっていただろうが、今は勇者であろうと簡単にはいかない。
傷を付けず、生け捕りにするなど勇者では不可能だ。
だが、勇者はまだそれを知らない。
アレリアは、美少女剣士として、強さではなく美しさで噂になった。
勇者たちは、アレリアを甘く見すぎている。
「マツサキ・ユーキの邪魔が入らないのならいくら抵抗しようと無駄だ! よーし、お前ら囲め!」
「おいファブリス」
「なんだ? カタン」
「お前はあんなメスガキ一匹のために俺を使おうというのか?」
「何か問題あるか?」
「問題はないが、お前はあのガキ一匹すら一人で確保できん無能だということだな」
「ンなわけねえだろうが! チッ、お前がサボりたいのはよぉーく分かったからよ。やる気がないならそこで見てろ。俺一人でやってるよ!」
ファブリスはそう仲間に吐き捨て、アレリアに黄金の剣を向けた。
「よーし、痛い思いしたくなければさっさと捕まった方がいいぜ。皇女ちゃんよ!」
先に攻撃を仕掛けたのは、ファブリス。
アレリアは『身体強化』を展開し、迎え撃つ。
キン!
剣と剣が衝突し、力勝負になる。
単純な力勝負においては、男女の差というのは大きい。身長差の面でも、高い方が有利である。
このままじゃ、負けるな——もちろんファブリスが。
「な、なにっ! お、俺の剣が弾かれただと!?」
ま、身体的に有利だからと言って勝てるというわけではない。
俺だって転生する前のヨワヨワの身体で女子プロレス選手に勝てる気は全くしないからな。
「甘く見ないでください!」
アレリアは剣を振り上げ、ファブリスの剣に当てた。
「あっ、やべえ!」
ファブリスの剣が宙を舞い、地面に落下。
硬い地面に剣が突き刺さる。
剣を取りに行こうとするファブリス。
だが、アレリアは拾わせる時間は与えない。
「まだやりますか? 痛い思いをしたくなければ大人しく引き下がった方が利口だと思いますけど」
ファブリスの首筋に、アレリアの剣が突き立てられる。
やろうと思えば、いつでも首を掻っ切れる状況だ。
ファブリスは冷や汗を流して、静止した。
「……く、くそ! こんなの聞いてねえぞ!?」
急に狼狽始める。
「マツサキ・ユーキだけ注意しておけば良かったんじゃないのかよ! この女までバケモノなんて聞いてねえぞ!?」
「それで、どうするんだ? せっかく引き渡したのに持ち帰らなくていいのか?」
ファブリスの青筋がピクピクと動く。
「……クソが!」
愉快というか、滑稽というか。
笑い提供マシーンとしては優秀かもしれない。
「ふっ、それで俺の名誉回復の件はどうなった?」
「そんな約束してねえ! 証拠でもあるのかよ!」
「なんだ、忘れたフリか?」
「仮にだ、俺が約束を反故にするようなクソ野郎だとしよう! しかしだ、お前が俺を殺せば、勇者殺しの大罪人として死罪は免れない! よってお前は俺を殺すことはできない!」
「なかなか知恵をつけてきたようだな。まあ、誰かの入れ知恵だろうけど」
「分かったか! 俺の勝ちだ!」
「だが、ファブリス……お前は根本的に勘違いしてるみたいだな。俺なら、やろうと思えばいつでも王を狙えるということを忘れるな。王の一声で、俺の罪は全て消える。その時に、俺を止めるのは誰だ? まあ、こんな強引なことはやりたくないけどな」
ファブリスの額に、汗が垂れた。
「…………い、今全部思い出した! す、すまねえ完全に忘れてただけなんだ! や、やる! すぐやるから見逃してくれ!」
すみません、いつもより1時間ほど投稿が遅れてしまいました!
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