第157話:夕食に来たんだが⑤
俺はそう宣言し、さらに右腕に力を加える。
それから一秒とかからなかった。
ストン——!
「んぐぐぐぐ……がはっ!」
こうして、決着がついたのだった。
「さすがはユーキです〜!」
と、俺の背中に飛びついてくるアレリア。
「勝つとは思ってたけど、やっぱりユーキはすごいわ」
「さすがだね。見てて爽快だったよ!」
「ユーキ、かっこよかった」
アイナ、ミーシャ、アリスからもベタ褒めだった。いつも褒めてくれるとはいえ、やはりいくら褒められても嬉しいものは嬉しい。
逆に、カインが必ず勝つと疑わなかったギャラリーたちはシンと静まりかえっていた。
次第に、困惑の声が漏れ聞こえてくる。
「う、嘘だろ……」
「カインさんがこんなあっさり……ありえねえ」
「何者なんだよあの少年……!?」
たかが腕相撲、されど腕相撲。剣士であるカインにとって腕力は自慢だったはずだ。この反応になるのも当然といえる。
皆の前で恥をかかせる目論みのはずが、逆に自分が恥をかいてしまったカイン。その後、どうなったかというと——
「ユーキ……てめえ、やるじゃねえか」
なぜか、笑顔で俺の肩に手を置いてきたのだった。
てっきり逆ギレでもされるのかと思いきや、意外にも大人の対応である。
「いやあ、人は見た目によらねえなあ」
ポリポリと頭を掻くカイン。
「カ、カインさん! 油断したんですよね! 全力ならカインさんが負けるわけねえっすもんね!」
ギャラリーの一人がカインにそう声をかけた。
カインは声をかけてきた男をギロッと睨む。胸ぐらを掴み、ギャラリーの男の身体が数センチ浮いた。
「俺が油断しただと?」
「ひっ……」
「俺はどんな相手にも手は抜かねえ! バカにするのも大概にしろ!」
凄んだ後、手を離すカイン。
ギャラリーの男の身体がドサっと食堂の床に崩れ落ちた。
「す、すんません……」
これが生粋の冒険者というやつなのか——と傍観していると、カインがまた声をかけてきた。
「この村では強いやつが偉い。さっきは偉そうに説教して悪かったな」
頭を下げてきたカイン。
「いや、謝ることじゃないって。まあ、しきたりを知らない者としてはもうちょっと広い心で受け止めてもらえると助かるが……」
それに、いくらこの村のルールで強い者が偉いのだとしても、俺は通りがかっただけの部外者。
「この村にいるのは今夜だけの予定なんだ。俺はこの村の冒険者ってわけじゃないし、序列とかそういうのはやめてくれ」
もともとこういうタイプのノリは苦手なので、全力で拒否しておいた。
「む、今夜だけなのか」
「ああ、旅をしてるんだ。明日の昼には村を出る」
「そうなのか。まあ、そうだとしても今夜はユーキが最強なことには変わりない。やめてくれというなら、気にしないようにしようと思うが」
「そうしてくれ」
「わかった」
話せば分かるタイプで良かった。
「旅というのは、どこを目指してるんだ?」
「リーシェル公国だ」
「あの島か。近いな」
旅と言ってしまったので、もっと遠い場所をイメージさせたのかもしれない。リオン村からリーシェル公国の首都までは航路でも二時間ほど。空の移動なら一時間かからない距離なので、目と鼻の先の国なのである。
「それにしても……リーシェル公国か」
カインは何か言いたげな素振りを見せた。
「何か気になることがあるのか?」
「……いや、大した話じゃない。明日村を出るんなら、その時にでも話そう。あまり大声で話す内容でもないからな」
ますます気になってしまうが、明日には教えてくれるというなら急かすこともないか。
「わかった。また来るよ」
「おう」
こうして一悶着あった夕食を終え、宿に戻ったのだった。
ゆっくりと温泉に浸かって疲れを癒すとしよう。





