魔神の降りたつ場所へ到着です ①
「ここが目的の山なんですねー」
トリツィアは無邪気に笑っている。
巫女姫たち一向は旅を続け、魔神が降り立つという山の麓へと到着した。
この場所に辿り着くまでの間、巫女姫や同行する者たちは徐々に口数が少なくなったりしていた。しかしトリツィアもオノファノも相変わらずのいつも通りで、魔神が降り立つとされている場所にきているにも関わらず、動じていない。
「……そうですね」
「巫女姫様、緊張していますー? 大丈夫ですよ! こういうのは力を抜いてやり切った方がいいと思いますよー」
「そうはいっても、やっぱり緊張はしますよ」
にこにこと笑いながらトリツィアは巫女姫に馴れ馴れしく話しかけている。
道中で散々トリツィアは異常性を周りに見せつけていたので、同行している神官たちももう何も文句は言わなくなっていた。トリツィアとはそういうものであるとそういう認識になったのであろう。
「それですぐ行きます?」
「トリツィアさん、皆がトリツィアさんほど体力があるわけではありません。魔神が現れる山頂までこれから向かうことは難しいです。一度休んで体力を回復させてからですね。それにしてもトリツィアさんは元気ですよね……」
「ふふっ、いつも散歩したり、身体を動かしたり沢山していますからね! 適度に運動することは大事だって女神様もいってますよ。それに私は身体を動かすことが好きですし」
「そうなのですね」
「はい! だって身体を動かすととても楽しいですよ」
その山の麓には、元々村があったらしい。しかし今は廃村されているのか、空き家が並ぶだけである。その空き家でトリツィアたちは休むことになった。一部小型の魔物が侵入していたものの、それらに関してはすぐに対処することが出来た。
トリツィアはこれから魔神と対峙する未来が待っていようが、全く気にした様子もなくすぐに行くことを提案していた。
身体を動かすことが好きなトリツィアはこのぐらいの旅ではまず疲労しない。
元々自分の身体を強化しなくても、トリツィアは動くことが好きなので大神殿にいる間もよくオノファノと模擬戦をしたりと体力をつけている。
同行している神殿騎士たちよりもトリツィアは元気だった。
「巫女姫様、少し顔色が悪いですね。魔神が怖いですか?」
「……そうですね。魔神と呼ばれる存在ですから、正直言ってとても恐ろしいです」
「そうなんですねー」
「トリツィアさんは本当に全く怖がってませんよね」
「特に怖いとは思いません。そもそも私、何かを怖がったりは基本しませんし」
トリツィアの場合、何かを怖いと思うことはまずない。
それはトリツィアが自らの力で相手をどうにでも出来るから。
巫女姫はやっぱり魔神という存在が恐ろしいと思っている。それは当たり前の感情であり、過去に魔神と呼ばれる存在と対峙してきた英雄と呼ばれるものたちはそうだったであろう。
魔神と呼ばれる人の世に暗雲をもたらす恐ろしい存在を前に、これだけ緊張感の欠片もないトリツィアがおかしい。
「本当にトリツィアさんらしいですね」
「そういえば今回、魔神相手にはどう対応するんですか?」
「聖なる結界を張って、弱体化させることになってます。神託でそのようにするのが良いと伝えられました」
「そうなんですねー。巫女姫様に神託を与えているのってどなたですか?」
「……私はトリツィアさんほど神の言葉を聞く力がありません。だからどなたからの言葉か分からないのです」
「女神様ではない?」
「そうですね……。ソーニミア様ではないと思います」
「ふーん、毎回一緒の声なのですか?」
「そうですね。一緒のように聞こえますが……」
トリツィアは巫女姫からそんな言葉を聞いて、少し気になったのか女神様に話しかけてみる。
(女神様ー。神託ってどういう仕組みです?)
『神が直接下すこともあれば、配下の天使が下すこともあるわね。この国の神託は必要な時に当番制で下されているはずよ。毎回バラバラの声だとあれだから声は統一しているけれど』
(へぇー、そうなんですねー)
『巫女姫には言わない方がいいわ。信仰心が減りそうだもの』
(そうですか? 私は別にへぇーってなっただけで、女神様への信仰心は沢山あります!)
『トリツィアはそうでも、他はそうではないのよ』
(じゃあ秘密にします)
トリツィアは女神様から話を聞いても特に何も思わなかったが、人によっては信仰心が変わったりすると女神様が言うので巫女姫には言わないことにした。
「トリツィアさん、急に黙ってどうしましたか?」
「ちょっと女神様とおしゃべりしてました!」
「……こういう日常の中でも会話を交わしているなんてトリツィアさんは本当にソーニミア様に気に入られているのですね」
「お友達ですからねー」
トリツィアの無邪気な言葉に、巫女姫は笑った。
それから少し会話を交わした後、二人はそれぞれ眠りにつくのだった。




