楽しく散歩しながら、遠征です①
「じゃあ巫女姫様、私とマオとオノファノでちょっと先行してきますねー」
「……神殿騎士たちもいるので、トリツィアさんたちが先行しなくても大丈夫ですよ?」
「ふふっ、私が散歩のために先行したいんです! 先にいってぶっ飛ばしてもいいやついたらマオにやらせようかなぁって」
トリツィア、オノファノ、マオは巫女姫たちと共に魔神が現れるという場所へと向かっている。
……ちなみに他に同行しているのは、限られたものだけである。魔神が復活するというトップシークレットな情報を知っているものは少ない。その情報は容易に広めてしまうと、混乱をさせてしまうものだから。
さて、その限られた情報を与えられた優秀な聖職者たちは、トリツィアに対して不満を抱いているものも当然いるようである。しかし巫女姫がトリツィアたちが必要だと告げたため、彼らは大人しくしている。
しかしトリツィアは無邪気に散歩に行こうとしている……魔神との対峙のために彼らは緊張感に満ちているというのに、トリツィアたちはそうではない。
巫女姫が許可をすると、トリツィアたちは散歩にいってしまった。
「巫女姫様、あの下級巫女はどう、役に立つのですか?」
「見た目や肩書だけでは分からないものがあります。トリツィアさんについてきてもらったのは私がそれを望んだからですから」
巫女姫からしてみれば、トリツィアの強さに関して説明を出来れば一番早い。
しかしそうしたら上級巫女になりたくないトリツィアを無理やり位をあげようとする動きが出てくるだろう。トリツィアは今の暮らしに満足しており、そういう責任のある立場になろうとはしていない。
だけどそういうトリツィアの思考を理解出来ないものはそれなりにいるのだ。
自分たちの思考だけが正しくて、それ以外の思考を認めない……といった頭の固い聖職者は位を上げることに関して良いことだと信じ切って行動を起こす可能性もある。
(トリツィアさんに無理強いはしてはいけませんからね……。そんなことをしたら女神様がトリツィアさんの身体に降りてお怒りになりそうだもの)
巫女姫はそんなことを思考しながら、トリツィアのことを考える。
こうして魔神の元へ向かおうとしている中でも、全く変わらない。
おそらくトリツィアはどんな場所でも、どんな状況でもこんな風に笑っているのだろうというのが容易に想像が出来る。
(私は正直、魔神が現れる場所に向かうということに緊張と焦りを抱いている。私は巫女姫と呼ばれる立場だから、それをどうにかしなければならない。周りは私がそれを出来るはずだと信じてくれている。周りから信じてもらえることは嬉しいけれど、それでもその気持ちは重い。私はその信用に答えなければならない……)
巫女姫はトリツィアほど、無邪気に何も考えずにいるということが出来ない。
魔神という存在は、一般的に言えば恐ろしい存在である。それこそ、この世界でいう恐怖の象徴。
その魔神への対応を上手く出来なければ、大変なことになってしまう。
それが重く感じている巫女姫は、トリツィアの無邪気さを見ているとその気持ちが少しだけほぐれていく。
(トリツィアさんを見ていると、そこまで気を負う必要はないのではないかというそういう気持ちになれる。私は心配だからトリツィアさんについてきて欲しいと求めた。それは私が自分に自信がないからだったけれど、トリツィアさんがいると別の意味でも安心できる)
巫女姫はそんなことを考えて、トリツィアについてきてもらってよかったと思ってならなかった。
そんなことを考えながら巫女姫が馬車に揺られていると、急に周りが騒がしくなった。
なんだろうと思い、そちらに視線を向ければ――マオの散歩にいっていたトリツィアが狼型の大きな魔物をさばいていた。
どうやら先行した先で遭遇した魔物のようである。その魔物は魔法も使うことをする恐ろしい魔物である。その魔物相手にトリツィアたちは無傷である。
笑顔でにこにこと魔物を捌いている様子を見て、同行している神官たちがひきつった顔をしているがトリツィアたちは全く気にしていないらしい。
「トリツィアさん、それは狩ったのですか?」
「はい! そうですよー。良い感じにマオの運動不足解消になりますからね。マオも満足しているみたいです」
「……そうですか。流石にそのペットが魔物を倒したことは周りにいわない方がいいですよ。危険視されて処分すべきだという声が上がりそうです」
「そうですねー。あんまり言わないようにします。でも私のペットに勝手に手を出すなら誰であろうと対応します!」
「そうですね。トリツィアさんはそれが出来るでしょうが、そもそも処分されないようにしていた方がいいと思います」
「それはそうします!」
巫女姫がトリツィアに話しかければ、トリツィアは元気よく返事をするのだった。




