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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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88/230

暗殺者に狙われているようです。⑨



「それで、こうしてこの場を襲撃してきた貴方の目的はなんですか……。私たちに何を求めますか」



 疲れた顔の責任者の男。

 それに対して、トリツィアは笑顔である。



「私の睡眠妨害をしないでほしいの。夜はゆっくり寝たいから、襲ってくる連中相手にするの面倒なの。あとはこの場所でこんな風に魔力をいじっちゃ駄目だよ。魔力が暴走して大変なことになっちゃうから。不毛な地とかにしたいわけじゃないでしょ?」

「……睡眠妨害ですか」


 男は何とも言えない気持ちになる。

 裏組織の構成員から命を狙われることを、睡眠妨害などと言ってのける存在がまともなはずがない。



「そうだよ。だってあなた達が私に色々向けてくるとその分、私の睡眠が妨害されるの」

「……そうですか」

「うん。あまりに私を襲わせるのならば徹底的に貴方たちのやる気をそぐよ! 殺すのも処理が面倒だし」

「……そうですか」


 男はにこにこと笑う様子を見て、ぞっとしている。

 この目の前の、愛らしい見た目をしている少女は本当に――それを出来るだけの力があるのだ。


 その無邪気な笑みには、絶対の自信に溢れている。そのことが長年、裏世界を渡り歩いてきたその男にははっきりわかった。


 目の前のトリツィアという名の下級巫女は、怪物だと――それが男には理解が出来る。

 だからこそ男はトリツィアの申し出に頷くことにする。



「……貴方への殺害依頼はどうにかして撤去します。依頼者からは文句を言われるでしょうが、それは仕方がありません。それで、先ほどの大変なことになるとは?」

「土地の魔力を自然に逆らう形にしたら、自然環境が滅茶苦茶になっちゃうよ。この施設の力の扱い方、全然駄目! とりあえず今、魔力の流れ整えといたから」

「……そうなんですか?」

「うん。好きなように土地の力をいじるのは危険なんだよ。そういう力の流れをどうにも出来ないのに、いじっちゃだめだよ」


 男はそんなことを言われて何とも言えない気持ちになる。

 男はそういう魔力の流れを見ることなど出来ない。それなりに力を持っているけれども、トリツィアのようにその力を感じられることが出来ない。




「……しかしその魔力を活用できないのは困ります」

「流れが変にならないように活用するのは別に私は何も言わないよ。でも自然の中の力って人の手でどうにか出来るものではないんだから、なるべくいじらない方がいいと思うけど」

「……分かりました。そのようにします」

「うん。そうして。もしあなたたちがまた魔力を変にいじるなら私がそのたびに整えるけど」



 にっこりとトリツィアはそう言って笑う。

 トリツィアはそれ以上望まない。裏組織を自由に出来るだけの権利が発生しても、トリツィアは彼らに何かを求めることはない。

 それはトリツィアが、彼らに何かを求めなくてもどうにでも出来る力があるからである。



「分かりました……」

「うん、ならそれでよし。私は帰るね! 次にまた襲ってくるならまた押し掛けるからよろしく!」

「……貴方は本当に下級巫女ですか? これだけ物騒な力を持っているなら下級巫女なんて立場じゃなくて、もっと有名になってもおかしくないと思うんですが。他の仕事をしていても大成しそうです」

「私は下級巫女の立場が気に入っているからね。あ、あと私の知り合いとかに手を出すとかでも私は押し掛けるから」

「……はい」



 トリツィアの言葉に、男は頷く。

 本当に有言実行でその行動を起こすだろうというのが男には分かる。だからこそ、これから依頼を受ける際はトリツィアとのつながりをきちんと調べてから行おうとそんな風に思ってならなかった。

 



「あとなんか用事があったら連絡するかもしれないから!」

「……はい」



 トリツィアの言葉にただ頷くことしかできない。

 トリツィアは男が頷いたのを見ると、満足した様子で笑った。



「約束を守らなかったらちゃーんと押し掛けるから、じゃあね」

「……はい」


 トリツィアはそれだけ言うと軽く手を振る。そして後ろに控えていたオノファノたちへと顔を向けた。




「皆、帰るよー」


 軽い調子でそう言い切れば、オノファノたちは頷く。

 そしてトリツィアたちはそのままその場を後にする。



 彼女たちがいなくなった後、裏組織の構成員たちはほっと一息をつく。そしてこの土地の魔力をきちんと活用しようと専門家を探すことにする。わざわざトリツィアにそれを頼むのもなんだか恐ろしいので、そういう選択をした。

 今回のことから、肩書や見た目だけで相手を判断するのはいけないとそういう教訓を彼らは持つことになる。



 下級巫女で平民などという立場であっても、トリツィアのような存在がいるのである。

 その事実を彼らは身をもって知ってしまったから。


 

 またつながりのある裏組織にも、トリツィアという名の存在は広められるのだった。



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